第10話 イベント頻度はほどほどに
「
本日二度目のパワースキルを使い、巨大な蛇の首を輪切りにする。
赤黒い血を周りにぶちまけながら、脳を失った三十メートル越えの身体がのたうち回る。
毒腺は切っていないから大丈夫だろうが、血を浴び続けるのは趣味じゃないので、その場から離脱した。
『お見事です』
「……どうも」
蛇の血にまみれながら、俺はサポちゃんの賛辞に応えた。
○ー○
「今日はダチョウに蛇、か」
すでに羽根を抜かれた巨大ダチョウっぽい生物のなれの果てと、皮を剥かれた巨大蛇のなれの果てを見ながら、ここ一週間の猟果?を確認する。
熊、猪、怪鳥、蝙蝠、虎、粘り気のあるヤツ、ダチョウ、蛇。
全て巨大で、なんだか緑っぽいのが共通の特徴だ。というかラインナップが適当すぎないか?
一応、頑張って処理してはいる。芝犬が植物系魔法を使えなかったら一体当たり数日仕事になっていただろう。
ということで芝犬、今日も処理を頼んだぞ。ははは、その分夕飯は豪勢にするから。そんなジト目で俺を見るな。
『毎日毎日、飽きないですね』
「いや、俺が狙いに行ってるように言うなよ。向こうからこっちに来てんだから」
毎日ログインすると一発目にボスみたいなヤツが来るのは、正直やめて欲しい。
そう言うイベントは月一くらいでいいんだ! 運営は何やってる!
そもそも——
「……明らかに俺を狙ってきてるよな」
『えっ、今更ですか』
俺の推理を別方向での驚きで応えるサポちゃん。
「いや、苔熊事件の次の日から薄々感づいていたんだが」
今日気づいたんじゃ無いからな、というニュアンスを含める。
『なるほど。ちなみに私はその事件当日から知っていましたが」
「は?」
『こちらに向かう彼らがサーチに引っかかっていたので』
「そんなに詳しく分かるなら教えろよ! というか長旅ご苦労さんだなこいつら!」
言い訳した俺が恥ずかしくなるだろ! しかも六日近く移動してたのか!
『教えてもこの居住区?からは離れられないと思ったもので』
「そりゃそうだけどさ! それで、まだ来るのか?」
『こちらに来る可能性がある、脅威となる存在はなくなりました』
「じゃあ、終わったんだな……これで朝起きてからビクビクすることが無くなる!」
『おめでとうございます。
まさか、私のサポート無しに
「おう。身体はガクガク震えてるが、なんとか立ててるな」
『ひとえに私の強化プログラムのお陰かと、感謝してください』
「感謝対象にそう言われると感謝の言葉がでなくなるな」
『天邪鬼ですか、あなたは』
「冗談だよ。サンクスな」
『いえ、サポートとして当然のことをしたまでです』
「——トレーニング内容はともかく」
『細かいことに文句を言うとハゲますよ』
「ハゲてないわ! てか、いきなりアスリートみたいなトレーニングさせられたら誰でも文句言うわ!」
『パワースキルを使用するには体力が足りなさすぎたので。実際役立ちましたよね?』
「くそ、反論できねぇ」
『体力も増えてきましたし、そろそろ、『あれ』をどうにかしましょうか』
「……そうだな」
俺は目の前にある、倒れたままの巨石を見る。
先日の苔熊の爪の一撃を食らった巨石。
岩肌が砕かれたその下から、黄色の塗装が施された金属質が顔を覗かせていた。
○△○
結論から言うと、俺は確かに古代の超技術文明の遺産前に転移したらしい。
巨木の前にあったこの巨石、台座に載っただけのデカい石かと思いきや、その岩肌の下から明らかに機械のような金属装甲が出現したのだ。
しかも、台座と思われていたモノもこの巨石の一部であることが、横に倒されてようやく判明した。
全体を見るに、台座と思われていた部分は——
「手足、だよな」
『おそらく。この平べったい部分は手ですね。もし人型であるなら、足が短く手が大きいといった所でしょうか』
「なんだかアンバランスだな」
『なかなか愛嬌のある姿かと』
大きな手を地面に沿わせ、短い足で膝をつく、ガックシと言えそうなスタイルでこの人型機械は埋まっていたようだ。
「二頭身あるかないかの人型ロボ……後輩に見せたら興奮しそうだな」
『後輩さんはロボットが好きなのですか?』
「ロボゲーで全国大会優勝するくらいだからな」
『すごいですね』
「だろ?」
俺は頷きつつ、万徳ナイフを取り出し、複層の板……複層障壁ブレードを最小展開する。
「じゃあ、今日も掘っていくか」
『はい、大胆に、それでも慎重に掘っていきましょう』
体力トレーニングを終えた後の日課。
それは、石に覆われたこの遺跡の復元作業だ。
複層障壁ブレードは使用中にマジックポイントを消費する。
しかし、出力を抑えれば、マジックポイントの回復量と消費量が均衡する。
この状態が魔法関係のステータスを鍛えるのに良いとはサポちゃんの言葉。
そして、細かい作業をすることにより、技術系のステータスも上がるらしい。
二つのステータス系統があがるこの作業は、まさしく一石二鳥、復元も出来ると一石三鳥なのだ。
「しかし、硬いな……この複層障壁ブレードは切れ味最高じゃなかったのか?」
力のいれ加減と方向をミスると、微かな発光と共に崩れるブレード。再構成し直しつつ進める。
『切れ味と耐久性は別です。折れるのは下手な証拠です。ちゃんと力の入れる方向と素材の目を見て進めてください』
「相変わらず、御言葉が厳しいですなぁ、サポちゃんは、あっ」
ブレードが折れる。再展開しようと思っても刃が出なかった。魔力切れらしい。
『今日はここまでですね。あと、マスター(下手)にお客のようです』
「客?」
サポちゃんの言葉に続き、遠くから芝犬の鳴き声がする。
ついに人か?!
足早に芝犬の近くまで行くとそこには——
「くま」
緑色の苔を背中に生やした小熊がいた。
「あれが、客?」
客?に指さし確認をする。
「くまっまーくま」
丁寧にお辞儀をする苔小熊。
『ほら、マスター、お客様に失礼ですよ』
「あ、すみませんご丁寧に」
反射的にお辞儀を返す。
「くまぁくまま」
前足を顔の前で振って、気にしないでとジェスチャーする苔小熊。
「……ってなんで熊がクマって鳴くんだよ」
ツッコミ所の多い現実から、俺は一つだけ選び、静かに突っ込んだ。
芝犬は「わふ」と鳴きつつ、こくりと頷いた。
お前も大概おかしいからな。
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