第353話 最強は準備を始める㉒

 七階に到着して直ぐに目的の一つである海竜の湧く場所へ移動する。

 出てくるモブは、全て倒しながら移動した。

 ここで出るのはアンコウとスペースマーマンだけかと思っていたら実はホオジロサメっぽい見た目のトパーズシャークと千手クラゲと言う何とも言えない見た目のクラゲが居た。

 そして、千手クラゲがマグロを生み出すショックも受けた。

 スペースマーマン以外の魚類全ての見た目が骨だ。

 安定のチカが、出汁しか出ないとかいうオチをつけたところで、海竜の元へとたどり着いた。


 主盾は黒、サブに大和。

 他は自由と言いかけた先生が宮ネェを見て、チカを見て「回復は、デバフ解除と回復に専念!」と告げる。

 明らかに戦うつもりだったであろうチカが、がっくりと肩を落として武器を仕舞う。

 それに安心をおぼえつつ私はバフを配り始めた。


 前衛組と遠距離組、魔法攻撃組にはソウルとインヴィスはトニトゥールス。回復と自分にはフルークトゥス。

 回復組に限っては、状況によりクラリスタに変更する可能性も高い。

 プロテクトは全員フルークトゥスを選択しておく。


 バフが終わり、酸素ボンベの時間を再度確認する。

 全員の残り時間が一時間以上ある事を確認して、そのまま海竜との戦闘に入った。

 黒がヘイトを入れ、崖まで引く。

 崖を背にした状態で陣取った黒が、間隔をあけてヘイトを入れながら攻撃を始める。


『黒、初撃のアタックのみアルティメットシールド使ってね~。HP吹っ飛ぶよ』

『おう! アタック前の動作は?』

『一旦距離を取って頭ごと突っ込んでくる』

『了解』


 盾同士の会話が終わったところで私は、今後の予定を告げた。

 

『あぁ、そうだ。出来るだけ海竜でバリア使わないでね? この後、もう一度海竜の湧き時間見て、フルークトゥスにいく』

『わかったわ~』

『おう! デバフだけは解除してやる!』

『チカー! デバフ……!』

『はえーよ!』

『そろそろ良さそうだな。皆手、出していいぞー』


 黒の合図を受けて見守っていた前衛組がわらわらと、まるで虫がたかるように海竜へ突っ込んでいく。

 背後からの攻撃が通りやすいのか嬉々とした様子で紙装甲組が、クリティカル音をあげている。

 遠距離組は、スキルを使った矢を放ち、魔法を打ち込む。

 黒が麻痺ったと言えば、即座に宮ネェが解除しチカが回復する。

 バフの私はと言えば、バフの時間を確認しながらずらす作業をしていた。


『やる事が無い……』


 皆が楽し気に討伐している最中、一通りバフをずらし終えた私はぽつりと呟いた。


『ちょ、笑わせんな?』

 白が酷い。まぁ、クランマーク似合ってないから許す!


『やべぇ、血に飢えてらっしゃる?!』

 血に植えるってどんな状態なの? ねぇ、チカ一度ちゃんと話し合おうか?


『ren、大丈夫でござるよ。この後水の竜がいるでござる!』

 宗之助はいつも通りな気もするけど、何が大丈夫なのかまず聞きたい。


『そうっすよ。今は無くてもこの後に大物がくるっすよ!』

 ミツルギ……大物来たとしてもバフが攻撃に出るのは無いよね?


『マスター、大丈夫ですか?』

 ゼン、心配してくれてありがとうと言うべき? 大丈夫かそうでないかと言えば、大丈夫。

 

『ren、どんまい』

 ベルゼ、どんまいって、何が?


『生きろ』

 春日丸、生きてるから!


『バフだけはしっかり更新してくれ』

 先生は安定して先生だった。

 

 クラメンたちのセリフに頭の中で返事をしてみたけれど、中々に疲れる作業だ。

 もう二度とやらないと思いながら、私は宮ネェとチカのMPがあまり減っていないのを機にフルークトゥスからクラリスタへバフを変更した。


 回復役の二人のMPがあまり減っていない理由については、事前にデバフが多いと分かっていたこと、出来る限り自分たちで解除できるようにPOTを積んでいる事が作用している。

 うちのクランに関して言えば、二人しか回復がいないから自力でどうにかするのが当たり前だ。

 そう考えると同盟のクランは、うちよりもはるかに人数が多い。

 もしかして、戦争で上手く動けないのは回復に頼り切ってたりするからなのかも?

 回復に頼るのは悪い事じゃないけど、初動の遅れが大事故につながりかねない。

 今後開催される世界戦で、そこを突かれないとも言えないか……これは、一対複数戦を模擬戦でやるべきかな。

 でも、人数多い分時間がかかる。

 正直、同盟に期待してないから、やらなくてもいいかなとも考えてしまう。

 その分お金を稼いでスキルを充実させたい気もするし……うーん、まぁ、この案件は先生と宮ネェに丸投げしよう。


『しっかし、痛いなこいつ』

『キーモブだから、仕方ないよ』

『時間 20;47』

『三十分毎かな?』

『k』


 グダグダとよそ事を考えている内に海竜の討伐が終わっていた。

 ドロップは七日間の期限付きの鍵、皮、肉。

 また、肉と言う名の倉庫の肥やしが増えてしまった。


『うんじゃま、スペースマーマン狩り行こうぜー! きっとこの海底に眠ってるぜ、お宝が!』

『いやっふー!』


 元気よく歩き出したキヨシが、一歩踏み出したところで毒になる。

 お約束過ぎて、皆が笑っている。

『キヨシのごく潰し! 俺のMPは無限じゃねー!』と言いながらチカが解除を飛ばす。


 キヨシの回復が終わり、後衛のMPを確認した黒が先頭を歩き出す。

 目指すはスペースマーマンだ。

 そこで私たちは、思わぬものに遭遇することになる――。

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