第351話 最強は準備を始める⑳

 予定していた時間より五分ほど早く、先生たちが狩場から戻ってきた。

 二人がソファーに腰を落ち着けたところで、私はアースのと言うか雪継と千桜のやらかしを話す。


「……馬鹿だとは思ってたけど、本当のおバカさんだったのね~」

「まぁ、クランハウス無くなるのは痛いだろうから、今回は仕方ないかな。借金の件は了承していいと思う。だけど、ただでって訳にはいかないよな」

「確かにそうね~」

「アースの体制見直しとかが必要だから、先生と白を派遣するしかないと思う」

「さゆでもいいけど、クラン体制見直すなら私が行くしかないだろうね」

「この時期に先生と白が居なくなるのは痛いわね~」

「だったら、一週間って期限を付ければ? それで変わらないなら、もう切ってもいいと思う」

「ふむ。そうするか」

「それなら問題なさそうね~。じゃぁ、白も呼ぶわね」

「うん」


 白が部屋に来て、三十秒ほどで雪継と千桜が部屋に入ってくる。

 流石に今回のやらかしは堪えているらしく、部屋に入るなり二人そろって正座した。


[[白聖] え? 俺、意味わからないんだけど?]

[[大次郎先生] 白チャで話す]

[[白聖] kk]


 先生が代表して、今回の件を話していく。

 話が進むにつれ、白の額に青筋が浮かんでるような? 否、気のせいだ。ゲームシステムにそう言った仕様はなかったはずだ。

 一人でのりつっこみを頭の中で繰り広げた私は、至極真面目な顔で反省している二人を見る。


「馬鹿だろ! つーかよー、雪継も千桜もさ、金が無いわけじゃないんだろ?」


 白の言葉が悪くなる現象は、怒りゲージが上がっている証拠だ。

 黒並みの言葉の悪さになったら、ガチギレモードに突入する。


「じゃぁ、なんでクランハウスの税金貯めたんだ? あん?」

「それは……その……」

「聞こえねー!」

「クラメンの新しい装備を買ってやりたくて……」


 理由が、酷すぎる。

 クラメンの新しい装備をなんでクラン資金で買うの! 個人の持ち物は個人で買わなきゃ意味ないでしょう!

 そもそも、自力で買えないような装備を欲しがるクラメンも甘えている。


「なぁ、雪継。お前さ、アースってクランを潰したいのか?」

「え? そんな訳ないじゃん! 俺にとってはすごく大事な――」


 白の質問に雪継は、驚いた表情をした後直ぐに必死の形相で訴える。


「――大事なら、なんで大事にしないんだよ。お前や千桜がやってる事ってクラン潰してるのと変わんねーぞ?」


 雪粒の言葉を遮った白は、至極当たり前のことを言い聞かせている。

 だが、それを理解できない雪継は、首を傾げては千桜の方をチラチラと見ていた。

 

 白が言いたいのは、このままではいずれクランは瓦解すると言う事だ。

 古参のクラメンはクラン資金で、装備を買い与えることに理解があるのだろう。

 今の状態を維持するのならそこは問題ないと言える。


 だが、現状でアースは、新規参入者を受け入れている。

 そのためクラメンなら新規加入した自分もいずれは買ってもらえると誤解するのは容易い。

 例え、買い与えるにしても相手が二次職だった場合、三次職になった時、四次職になった時と、買い与える回数が増えてしまうのだ。

 今回だけという言葉を付け加えたとしても、新規加入者からすれば古参のメンバーへの贔屓であり、クラマスは自分たちの事よりも古参メンバーを優先すると言った解釈にとられかねない。

 そうなると、どうなるかはお察しである。


「……そこまでは、考えて無かったわいね」

「うん……俺も考えて無かった。そうだよな、新しいクラメンたちに理解を求めても受け入れられるわけないよな」

「ちゃんと理解できたみたいだな。で、どうすんだ?」


 クラン資金で装備を買うのか? 買わないのか? と問う白に雪継と千桜は、閉口した。

 クランチャットで、今回の自分たちが如何に浅はかだったのかを話しているのだろう。

 

 しばらくして、雪継と千桜から「装備の購入については今後絶対にしない」と言う約束を貰った。

 うちが口出すことじゃないけど、知らなかったですでは通じないので今回ばかりは仕方がない。


 うちでも借金の申し込みはあるし、私自身も欲しい物があると借金するので「どうしても欲しい装備がある場合は、クラン資金の範囲内で買える物は買わせると良いよ」と助言しておく。

 頷いた二人に、手放すことになったクランハウスの件を先生が切り出す。


「クランハウスの買戻しについては、雪継の装備売ったところで用意できないだろうから、今回はうちで用意する。ただし、購入金額が戻ったら即刻返してくれ」

「まぁ、妥当だな」

「ごめん。本当にありがとう」

「あぁ、そうそう。今回の件で、俺と先生が一週間だけアースに移籍するから、その間にクラン運営について学べ。クラメンたちにもその事は伝えとけよ?」

「えー」

「マジで?」


 白と先生がアースに一時的に移籍する話をすれば、二人は明らかに嫌そうな表情をみせた。

 そんなに嫌なら、無理に行かせることは無い。こちらとしてはなくなく派遣するのだから。

 

 そう考えた私は、少しの間をおいて二人に問いかけた。


「何、嫌なの?」

「別に断ってもいいけど、お前たちアースは切られることになるぞ?」

「ちょ、ちょっと待った。え、なんでそんな切るとかの話になってるの?」


 先生から出た最後通告の話しに、千桜の方が焦って素で聞き直してきた。

 雪継はと言えば、拗ねられた子犬の如く震えている。


 これまで何度か注意はしていたのだが、アースのメンバーは基本自分本位な考え方をする人が多い。

 カリエンテだったり、同盟ハントだったり……。

 カリエンテに関しては間週討伐をしている。他にも同盟で、狩れるボスを先着順でPTに誘い、回っているようだ。

 主に主催は、ティタ、黒、白影だ。


 先着に漏れたメンバーは他の狩場へ行くのが基本だ。

 だが、アースのメンバーは、慣れもあってか同盟チャットで愚痴を零す。

 それ以外にも、カリエンテでバフにかかる魔石代の負担がどうとか、ドロップ品の値段設定が安いだとこか。

 とにかく愚痴が多い。


 私としては別に魔石代ぐらい実費で構わないし、値段設定をあげて良いと思っている。

 けれど、よく考えて欲しい。値段設定をあげれば自分たちが困ることになるのだ。

 それを分かっている、シルバーガーデンや二丁目から苦情が来ていた。


 つらつらと先生がこれまでのいきさつを語る。

 それを聞いていた雪継や千桜は真っ青な顔をしながら、ひたすら申し訳ないと謝ってきた。

 

「別に謝る必要はねーよ? 最弱で役立たずの癖に文句だけはいっちょ前。なら切ればいいだけだろ?」

「それは……そう考えられても仕方がないと思う」

「アースが切られない理由は、お前らがいるからだぞ?」

「あなたたちが居なかったら、最初から同盟なんて組んでないわよねー」


 やっと自分たちが置かれた立場を理解したらしい二人は、白、先生、宮ネェの言葉を素直に聞いて頷いている。


「今回の派遣は、切るためじゃなく今後もうまく付き合っていくためのものよ。だから、貴方たち二人にも協力して貰う! クラマスだからこそ、しっかりと周りを見なさい。そして、白と先生から意見を聞きなさい。クラン全員で、今後のクランの在り方を見直しなさいよ? いいわね?」


 まとめるように宮ネェが、しっかりと二人を見ながらどうすべきかを伝える。

 今度こそ間違えないで欲しいと願いながら、私は四人を見送った――。

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