第315話 最強は同盟の運営に尽力す㉖

 得も言われぬ悪寒を感じて顔を上げる。

 キョロキョロとあたりを見回し、ほっと息をついた。


「ren、どうした~?」


 間延びした声が聞こえ、そちらへ視線を動かす。ここはクランハウスの私の部屋だったはず、なのになんでお前がいるんだキヨシ。


「……キヨシ、なんでいるの?」

「ん~、頼みがあって」

「ヤダ」


 にべもなく即答で却下する私にキヨシは、眉を八の字に下げ「たーのーむーよぉー」と何とも情けない声を出した。

 キヨシの頼み事と言えば、お金=借金の申し込み。もしくは、OEできる装備の格安販売である。

 

「なぁ、ren~~たのむからぁ~」

「はぁ……めんどくさい」

「やった! あのなーあのなー、俺、!」


 どうやら私の耳はいかれたらしい。

 聞き間違いでなければ、キヨシがクランの露店に自分の売り場を作ってほしいとか言っていた気がする。うん、聞き間違いだ。もう一度聞いてみよう。


「なんだって?」

「だからー、クラン露店に俺様専用の売り場を作ってくれ!」


 ま、間違いじゃなかった……。そもそも、キヨシ専用売り場と言われても、売ってるものがアレゴミだし。アレゴミの売り場は外にあるし問題ないはず。流石に新しい代行をやるのであれば、用意しないとだけど……。

 ここはひとまず理由を聞いて、納得出来たら先生と宮ネェに相談しよう。


「売り場作るって何売るの?」

「コレ!」


 嬉々としてキヨシが取り出したものは、ゴミ以外のなんでもなかった。


「却下」

「なっ、なんで?!」

「二束三文でも売れないし、今だってただにしててもゴミだからスルーされてるよ?」

「酷い! 酷いよren!! 俺の夢の成れの果てがゴミだなんて」

「いや、キヨシもゴミってわかってるでしょ?」

「……」

 

 よし、勝った。これでキヨシの件は終わりっと。


「それで、ゼンはどうしてここに?」

「あ、付き添いです~」

「そう。ならキヨシ連れてってね?」

「はーい」


 ゼンに連れられて出て行ったキヨシは、最後の最後にゴミを残して去って行った。

 このゴミを私にどうしろと……。


 それからまたしばらく製本に打ち込み、机をたたかれる音で顔をあげる。そこには、にこやかな笑顔とは言い難いさゆたんと宮ネェが揃っていた。

 どうやらまたクラチャを見逃してしまっていたらしい。すまん!


「ど、どうしたの?」

「renちゃん。聞いて欲しいでしゅ!」

「ren大変なのよ!」

「うん?」

「実は、が新しい情報を持ってきたのよ!」

「クレハさんでしゅよ!」

「クレハ??」

「そうなんでしゅ!」


 確か今日は、宮ネェとさゆたん二人でウィンドーショッピングと言うなの露店荒しに向かったはずだ。そんな二人が息巻いてクレハの名を出すと言うことはよほどすごい情報だったのだろうが、私の中で誰だそれ? となるのは許してほしい。


「それで、えーっとクレハだっけ? その人はどんな情報をくれたの?」

「それがでしゅね――」


 さゆたんと宮ネェが聞いた情報によれば、最近クレハをはじめとしたグランドロールの生き残りに、フォルタリアの盟主であるロナウドDからクランに来ないかと直接声がかかったと言う。


 え、それの何が凄いのかいまいちわからない。

 なんで今更グランドロールなの?? グランドロールで思い出すのは禁忌に手を出して盟主が死亡。クランは解散して、かなり安くクランハウス譲ってくれたぐらい。


「……で?」

「だーかーらー、グランドロールの生き残りにどうしてロナウドDが声をかけてるのか考えてみて!」

「……暇だから?」


 思いついた言葉を漏らした途端、さゆたんのチョップがぺしっと頭に振ってきた。


「真面目に考えるでしゅ!」

「ごめんなさい?」


 どうして私は謝っているのだろう? 仕方ない、真面目に考えてみよう。

 まず、グランドロールとフォルタリアの関係については不明。ここは考えても仕方がない。で、クラン盟主であるロナウドDがどうしてグランドロールの元メンバーに声をかけたのかについてだけど……本人じゃないしわかるわけないよ。


 ただ、ここで元グランドロールの方面から情報が出てくるってことは、多分だけどミッシェルとアクセルが繋がっている可能性はある。あ、そうか! わかった。


「……ロナウドDの中身が元グランドロールの誰かになった?」


 私の答えを聞いたさゆたんと宮ネェの笑みが、正解だと言っていた。


「流石でしゅねw ちゃんと考えればできるこでしゅ」

「そうよね~♪ 流石よー、ren」

「それで中身誰になってたの?」

「renの大好きなあ・い・て♡」

「アクセルか!」


 ジト目で宮ネェを見ながら思いついた名前を言えば、さゆたんにいい子いい子されながら「正解でしゅ~」と褒められた。


「話したクレハ本人が言うにはだけどね。一応密談で自分が元アクセルって濁して言ってた証拠のSSももらってるわ。それから、アクセルにアカウントをくれた人もいるって言うのもねw」

「アカウントのやり取りって……」

「そうでしゅ、渡した方も渡された方も永久追放でしゅ。場合によっては、リアル法で裁かれるでしゅよ」

「頭悪すぎる。流石、アクセル」

「アカウントを渡したのはミッシェルでしょうね~。今ここで彼がメンバー募ってるってことは……」


 リアル法にはかからないだろうけど、運営に知られれば一発アウトは間違いない。渡した方が誰なのかはまだ不明だけど、そっちは引退済みだろうから問題はないはず。

 アクセルにアカウントを融通した相手が、宮ネェの読み道理でない事を祈るばかりだ。

 

 二人が得た突然の情報に驚きつつ、私は同盟チャットでロゼたちを呼び出した。ロゼたちの行動は迅速で、時間を置かずハウスへ集合。リビングでコーヒーを飲みながら寛ぐみんなへ、私は面倒だと思いながら説明するのだった。

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