第288話 最強は同盟の運営に尽力す①

「「よ~、ren。邪魔するぞ~」ね」と言う言葉と共に、ロゼと雪継が執務室――私の私室へと入って来る。そして、久しぶりと私が言葉を発するより早く、ドサっと麻袋を積み上げた。


「……ナニコレ?」とカタコトで聞いた私に対し、二人はとても素敵な笑顔――にんまりと何か企んだ顔で「「城の税収」」と答える。


 くっ、だから同盟のマスターなんかやりたくなかったんだ。

 背中に流れるはずのない汗を感じて、どう切り抜けるか思案した。

 今すぐどこかへ逃げ出すべきだと緒勘がそう告げている。即座に浮き上がる腰、押さえつける二本の腕。

 いつの間にか両脇に立つ二人私の身体はがっしりと椅子に座らされており動くことが出来ない。


「ナンデ、モッテキタノ?」

「「マスターがやるもんだろ?」」

「いやいや、そんなの決まってないよね?」

「「イイエ」」

「くっ、双子デスカ?」

「「いいや、違うぞ」よ」

「まぁ、無駄なことは良いとして、話を戻すがマスターなんだから税収管理とその他諸々の配分、残りを四等分で分配よろしくな」


 簡単に同盟解散をさせないよう、囲い込まれてる気がしてならない。だからこそ出来るだけ話を流そうとしてみたものの速攻でロゼに戻されてしまった。


「チッ」


 舌打ちする事しか許されない私は、渋々二人から税収を受け取った。

 積み上がった麻袋をしまう姿を良い笑顔で見守る二人は、ヒガキさんのコーヒーを片手にソファーにどっかりと座る。どうやらここに居据わるつもりらしい……めんどうな。

 もう押し付けも終わって、話は済んだんじゃないの? と疑問を感じながら、とりあえず同盟資金やら攻城戦用のPOTの配給資金などについて考査する。


 ♦同盟資金

 これは、レイド戦における消耗品の費用だ。前衛ならPOT、砥石。後衛ならMPPOTと魔石。購入は勿論小春ちゃんの二丁目で優先的に。

 折角レイドにいくのだから、消耗品で赤字なんてことにならないようにする事が必要。少しだけでも同盟から物品の提供を予定に組むんだ方がいいだろう。

 ただし、移動費やらは各自で賄って貰うことにして、余った分は今後来るかもしれない同盟専用の倉庫、ハウス、露店などの拡張用に貯金する。最悪解散した時に四等分すればいいから、楽でいい。 


 ♦攻城戦配給資金

 消耗品に関してはレイドと大差ない。違いがあるとすれば城――税収を維持するための資金だ。

 攻城戦の際、防衛側は城の設備――外城門、内城門、衛士、騎士と言った項目ごとにゼルで強度を上げられる。MAXにするとヘスティアと変わらない状態になるためつまらないだろうから、半分ぐらいの強度で防衛にあたればそれなりに楽しめると踏んでいる。

 攻城戦前に、城の補強資金としてまとまった金額を城主クランに渡す。消耗品は、勿論これも二丁目に賄って貰う。


 ♦分配金

 同盟で攻城戦に参加しているのだから、四クランで余った分を分配。一人あたりの計算にすべきだろうが面倒なので、クラン数で割る。


 三分割に割るのも微妙なところだから配分は、四対四対二でいいかな? 考えるのも面倒だからそれでいい。文句言うやつが居たらその人にさせよう。


「とりあえず、小春ちゃんログインしてるか聞いて」

「あぁ、既に声はかけてあるぞ」

「そう」

「あぁ、そう言えばさー。税金ってどうしてんの?」

「そのまま」

「同じく」

「マジ? やべぇ、俺上げちゃった……あれって、上げた方が税収増えるんじゃないの?」


 あぁなんて馬鹿なんだろうと雪継の言葉に呆れ顔になった私は、ちらりとロゼを見た。肩を竦め苦笑いを零すロゼが、一つ咳払いをすると雪継に税収について話をする。


「あのな税金あげるとそれだけプレイヤーが他所で買い物するようになるから、逆に税収下がるんだよ」

「うぇ、マジで!」

「マジだ。よく考えてみろ。転移陣が無い狩場――猛獣とか善悪でなら仕方ないってことになるけど、ヘスティアって岩壁鉱山だったり、虫の森だったり、野外の狩場しかないだろ?」

「うん」

「前提としてだけどな、まずヘスティア以外の街が通常の税収だったとする。うんで、ヘスティアの税金が10%の税金がかかる場合。一、二本なら大した差額にはならないし皆も買うだろう。でも実際には狩りに行く場合一、二本じゃすまないし最低でも一度に何百、って買うよな?」

「そうだね。だから税収上がるんじゃん?」


 きょとんとした顔でロゼに返す雪継。

 頭をガシガシ掻いたロゼは、小学生に語りかけるように言葉を選びながら雪継に向き合う。


「いやいや、違うぞ。本当に緊急時以外その街では買わないだろう?」

「えー、でも手間でしょ? 行ったり来たりするの」


 まさかとは思うが、奴らは必要だからとこれまで値段すら見ないで買っていたのではないだろうか? 三次職が多いアースのクラン内容から何故お金が足りないのか不思議だったが、雪継の言葉で理由が分かった気がした。


「雪継、ちょっと聞くけど。今まで、値段気にしないで買ってたりしたの?」

「そうだけど?」

「マジかよ! そりゃ金が回るはず無いわ」


 あぁ、ダメだこいつはダメだ。確かに移動は、面倒かもしれない。けれど、お金を残そうとするなら多少の移動など面倒がってはいけない。

 キヨシやチカですら出来る事が、雪継に出来ていなかったなんて……はぁ、白に教育しなおして貰おう。


「はぁ~。まぁ、確かに何度も行き来するのは面倒だし、移動費用も馬鹿にならないしな。だけど俺ならPOT補給を税収の安い街で済ませて、預けるのにゼルかかるだけの倉庫に預けとくわ。renも高級魔石とか諸々全部倉庫に入れてるんだろ?」


 言葉を切ると同時に、顔を向けたロゼに釣られて雪継も私の方へ顔をむける。二人の視線に私は、当然と頷いた。

 それよりも気になるのはゲームの仕様の方だ。城主になったからには、その地域の住人たちと上手く折り合いをつけながら街の運営――例えば、困りごと相談などなのだが――をしなければならない。


「プレイヤーよりも重要なのは、重税をかけ続けるとNPCが暴動起こすこと。後、住民の不満はちゃんと解消して?」

「え? 何の話?」

「雪継、それはまずい。城主になった後に、執事の説明読んだか?」

「……読んでない」

「はぁ、今すぐ読んで来い! それとクラメンに徹底させろ!」


 ロゼの怒声に雪継が素早く立ち上がる。そして、そのまま執務室を出て行った。雪継の様子からすぐにクラチャで白に連絡を入れ、再教育を依頼する。

 引き受けてくれた白がとてもいい笑顔で出て行ったとクラチャで聞いた。一瞬、人選を間違ったかと焦った私は、なるようにしかならないだろうと考えを改め放置した。


「ren、白に」

「既に報告済み。凄くいい笑顔で出て行ったって」

「ぇ、まず…………そ、そうか」


 引き攣った顔で何かを言いかけたロゼが、言い直した。

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