第285話 最強は恥辱に耐える⑤

 私がカボチャパンツを使っていることは、同盟チャットに誤爆したツナ缶によって同盟内に拡散されてしまった。

 誤爆は仕方ない。そう、仕方ないのだ。

 でもツナ缶を含むSGには制裁を加えたい。拡散するなとあれほど念押しして伝えたはずなのに……。


「やっぱ、ムカつく」


 シャワーを済ませ、収まらない怒りをそのままに、ログイン早々ロゼと白影を同盟チャットでハウスに呼び出した。

 見ず知らずのツナ缶は呼ばない。だってクラメンの責任は、代表であるマスターの責任だから。


 よぅ、と片手をあげて入ってくるロゼと白影。いつも通りに見える二人の顔色が青いけどスルーしておく。


「それでなんだけ――」

「すまん!」

「マジでごめん。心の底から謝るからだけは勘弁してくれ!」


 と、言うなり土下座するロゼと白影。

 同じ日に二度も土下座を見ることになるとは考えていなかった私は、驚きながら二人の頭頂部をぼんやりと眺める。

 夕方に続いて今回も……元クラメン含めうちは土下座が特技項目なのだろうか、とくだらない思考が一瞬頭をよぎった。


「え、ren同盟解散する気なの?」

「いいえ?」

「疑問系で否定されても……ねぇ」


 いや、だって聞いてないし、行ってないもの。同盟解散なんて言葉。

 誰が言い出したのかは知らないけど、流石の私でもそこまでは考えないし言わない。

 私はただ一発殴り、外に漏らさないように徹底することと、ツナ缶に厳重注意をお願いするつもりだっただけなのに……。何故ここまで話が大きくなってるんだか?


「とりあえず、座って?」

「いや、だが」

「いいから、座って?」

「でも……」


 ソファーに座れと言っているのに、「でも」とか「だが」とか「しかし」とか言って座らない二人に、私も笑顔を深くしながら座るように促す。


 あぁ、もうどうでもいいからさっさと座って欲しい。なんでこう時間ばっかりかかるんだ、めんどくさい。


 イベント狩場に行く予定がそこまで迫っている私はイライラと二人を見る。

 私を見た宮ネェがギョッとした顔で視線を泳がせた。そして、すぐに作り笑いを浮かべると助け舟を出す。


「二人とも、とりあえず座りなさい。じゃないとrenがそろそろ限界迎えるわよ?」


 ハッと顔をあげた二人が、此方を凝視して三秒。ようやく話ができる体制になったことに満足した私は、本来の目的を果たす。ちなみに、ちゃんと同盟解散はする気がないとも伝えておいた。


 初日に色々ヤラカしたバレンタインイベントは、一週間と言う短い期間での開催であったため、その後はなにごともなく順調に終わりを迎える。

 集めたチョコレートの欠片A~Gは、専用NPCに持っていくとバレンタインチョコのバフに変わった。使用できる期間は、ホワイトデーにあたる三月十四日まででバフの内容は、俊敏、移動速度、魔力、体力と言った基本ステータスを上げてくれるものだった。



******後日談******


 そして、イベント終了後から二週間たったある日の事。

 次のイベントであるホワイトデーの詳細が掲載されたと聞いた私は、コーヒーを片手に公式ページを開いた。

 

「ブハッ!」


 勢いよく口から飛び出すコーヒーが、キーボードとディスプレイにかかり涙目に。

 慌てて立ち上がりタオルで拭いてみたもののキーボードはhjykなどの部分が死んでいて使えなくなっていた。かろうじてディスプレイは生きてるのが救いだ。


 私が噴出した理由は、公式を開いた時に一瞬だけ現れる画像だった。

 見慣れたと言うか使いなれた顔のアバターがハートマークにピンクゴールド色の装備を着て、仁王立ちで立っている。その周囲を同じく見慣れたアバターたちがハートマークにピンクゴールド色の装備を着て、土下座していた。しかも綺麗に、全員が映っている。


 考えるよりも先に、まずは削除依頼をだそうと該当ページを探した。

 そして、バレンタインイベントの思い出と言う公式HPで開催されたイベントのページを発見する。

 イベントの詳細内容は、どうやらイベント中にプレイヤーが撮影したSSを公式HPにアップして見た者が投票する方式だったようだ。投票期間はイベント後からの一週間で、投票率の高い一位から三位までは公式のトップ画像として三週間に渡って掲載される。


「……お、オワタ」


 涙目になりながら、投稿者の名前をみれば――Bloodthirsty Fairy/となっていた。


「…………コロス」


 その日ログインと同時に鉄男を抹殺しに行ったのは言うまでもない。

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