第256話 最強は城主を目指す⑩
デメテルの攻城戦が終わり、数日後。晴れ晴れとした様子で、ロゼと白影、雪継と千桜、小春ちゃんが揃ってクランハウスを訪れた。
前日に前もって訪問の知らせを受けていたことから、来るのはわかっていたのでリビングで対応する。
「それで、同盟についてなんだけど」
「あ~。えーっとすまん! もう少し待ってくれ。クランLvが上がってない」
ソファーに座るなり話を切り出したロゼに、先生が軽く視線を逸らしつつ待ったをかける。理由は簡単で、まだまだ同盟解散出来ないだろうと言う予測をたてた結果。前回のトーナメント戦のクランポイントをクランLvを上げるためではなく、全てクランバフへ投資してしまったためだ。
そのおかげで、うちは未だにクランLvが上がっていない。
「え? クランポイント足りねーってことはねーだろ?」
「それがね~。クランバフに使っちゃったのよ~。だから、あと数日待って欲しいのよね~」
驚いた表情で突っ込む白影に、宮ネェがどこぞのバーのママよろしく事情を説明した。それを聞いて黙り込む面々。
いつの間にかリビングの縁側っぽい場所で、クッションに埋もれて寝ていたらしい黒がのそりと起き出し頭をガシガシ掻く。
「つーかよ。先に聞きて―んだけど。同盟組むつってもどういう同盟にすんだ? それに名前も考えなきゃだろ?」
「あぁ、名前もあるか」
「確かに、黒の言う通りだわ~ん。同盟の基本的な理念? 的なものは欲しいわ~ん」
「うーん。戦争はするんだよね?」
「同盟ハントとかは無しって聞いたわいね」
「レイドは同盟内でやるって言う話だったよな?」
容赦無く問う黒に、先生が思い出したように呟き。小春ちゃんが希望をだす。そこへ雪継、千桜、白影が大まかな内容を添える形で言葉を発っした。
戦争、レイドは一緒にやるけど、基本的に同盟での狩りはしない。うちの希望に沿った形での同盟結成となるもが本当にこれでいいのか? という思いがぬぐえない私は、一度各クランの希望を聞くため言葉を挟みこむ。勿論マスターにさせられる不満もついでに吐露しておく。
「まず、各クランが同盟に求める事を知りたい。どうせ、マスター私なんでしょ?」
「renの代わりに答えるなら、うちとしては、戦争、レイド、PKには参加、他はほっといて欲しいってとこだな」
「まー。前に話し合いでそうなったしなー」
同盟を組む組まないの会議の時の事を言っているのだろうと中りをつけて頷いた。
「SGとしても、BFと変わらない。SGのマスターつーか、俺個人の意見としては同盟ハントは無しでもいいから、BFのクラハンに何人かクラメンを同行させて欲しいってぐらいだな」
「なに、お前まだ諦めてねーの?」
「諦めるつもりはない」
どうやら本気で教育するつもりらしいロゼに黒が顔を顰めて聞けば、ロゼは当然のように答えた。二人のやり取りを黙って見ていた先生と宮ネェは苦笑いだ。
オリンポスで終わったと思っていたクラメンへの教育指導は、まだ終わっていなかったらしい。
「二丁目としては~、素材さえ提供してもらえればいいわよ~ん。あぁでも、初心者もいるし、クラメン自体のLvが低いから、それを上げるお手伝いをお願いしたいわ~ん」
「二丁目は基本、同盟の専属って事で考えていいのか?」
「えぇ、構わないわよ~ん。でも、そうね~。同盟以外の固定客もいるから……そこは許して欲しいわ~ん」
「あぁ、そこは別にいいんじゃないか? 同盟内の装備事情とかを漏らさなきゃ」
「それは絶対に漏らさせないから、安心してちょうだ~い」
製作の代行関連を一手に引き受けている小春ちゃんの二丁目では、素材と狩りの手伝いが欲しいようだ。代行やってる=狩りに行く時間がおしいという人は多いため、長い時間このゲームをやっていても三次職になっていない人もいる。その点を補うために同盟を組みたいと言う事だろう。
「で、生ジル……じゃなかった雪継のとこは?」
「ちょ、もう。やめてその話題。お願いします白様」
「うーん。うちはSGと同じ感じでいいわいね。他は、特にないわいね」
考え事をしているうちに話はアースの希望へと進んでいた。何も言わない雪継と千桜に視線を投げた白が、わざとらしく生ジルと言う名を口にする。それに瞬時に突っ込む雪継。
彼ら二人のやり取りを横に置き、千桜が代弁した。
「まー。皆の意見を纏めると、レイド、戦争、PKは全クラン参加。同盟ハントは有っても無くてもいいけど、時間あるときにうちのクラハンに混ざりたい。素材に関しては、小春ちゃんとこが欲しい物は各クランが提供するでいい? それとも素材集めの同盟ハントにする?」
「そうね~ん。素材は色々欲しいわ~ん。それに、できればうちも参加させて欲しいわ~ん」
「ふむ。となるとやっぱ週一ぐらいで同盟ハント必要って事になるね。参加は自由参加にして、同盟ハントの素材は小春ちゃんとこが相場より安く買い取り、その代わりレイド、戦争での物品を安く提供でいいかな?」
「いいわよ~ん」
取り纏め役の先生が、うち含め四つのクランの希望を聞き纏めながら、足りない部分の補足に入った。
先生にクランマスター投げてしまいたい。
小春ちゃんとの意見交換が終わったところで、ロゼの「分配で思ったけど、割合どうするんだ?」という声があがる。
「うーん」と言いながら私を見る先生。
何、その目どういう意味なの? とは思いながら、見なかった事にして私は「均等分配」と一言。
「やっぱりね」
「だよなー」
「ふふっ、renらしいわよね~」
「ですよねー」
「言うと思わったわ~ん」
「いつも通り過ぎる」
「相談するだけ無駄だわいね」
「はー、いつものことだな」
などなど、私の意見に同意しているはずなのになぜか腑に落ちない。
全員が参加するレイドや戦争の分配なら、もちろんそこは均等に分配すべきだ。その分配をいちいち別々に決める必要性を感じないから、均等でと言ったのになんで、こんな反応なのだろうか? これを無理に押すつもりもないし、気に入らないならマスターをすればいい。
「気に食わないなら、同盟のマスター代わって?」
思考そのままに思ったことを口に出せば、全員があらぬ方向へと視線を流した。同盟のマスターがどれだけ面倒なのか身をもって知っているロゼと雪継が、視線を逸らすのはわかる。けど、なんで先生たちまで逸らすんだ!
「あー。均等分配で決定! それよりも次なんだけど、今週末には同盟組めるし、来週末のデメテル戦でるよ」
「は? 本気か?」
「あら、面白そうね~ん」
「マジで?」
「え、うちそこまでの余裕ないけど?!」
「今度は、ちゃんと落とせるんだろ?」
「唐突だわいね」
「あぁ、今度はしっかりと城主になるよ。ちなみにだけど、
私と目を合わせないまま先生が、均等分配で決定を下す。そして、デジャブかと思わずにはいられない爆弾発言をかます。
私の耳がおかしくなったのだろうか? SGとアースにも城主になって貰うとか聞こえた気がした。きっと気のせいだろう、そう気のせい――じゃない! と確信した。
ニヤリと笑う先生の顔は、本当に悪だくみを前にした悪代官そのものだったから。
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