第238話 第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡&SG教育①
イベント終了から二十日が立った四連休初日の今日、クラメン達が気合い十分にクランハウスのリビングに集まった。何故気合い十分かと言うと、この四連休で全員が四次職になるための経験値稼ぎをするからだ。
ロゼたちの方は、一緒に狩りに行くついでに動きをクラメンに覚えさせるらしいけど……。
あれから毎日のようにやってきたロゼと白影に、ついに折れた先生が妥協案として提案したのがオリンポスでの狩りへの同行だった。
私とティタと共にチケットをゲットしたロゼ、柊、光合成、ドワルグ、ふうたん、結の他、ティタの不用意な発言で、チケットを持っていると知って「俺も!」とゴネタ白影に、無理矢理同行させられた槍の茉鬼、弓職のナルミ。
そして、バッファーの皇と盾のGEORG、香澄と言う暗殺者を含めた十二名がチケットを持っていた。
[[大次郎先生] 持ち物確認して?]
[[キヨシ] 稼ぐぜ!]
「ロゼたちも、忘れ物ないか確認して?」
[[†元親†] 今度こそ、俺は大富豪になるっ!]
[[春日丸] 俺までいいのか?]
「大丈夫そうだ」
[[聖劉] 楽しみ~]
「問題ないぜー」
[[村雨] イベントで遅れた分取り返す!]
好き勝手に話すクラメン達を他所に、全体を見回した先生は頷き「じゃぁ、行こうか」と声をかけ出発する。
チケットが消え、視界が暗転したかと思うと前回同様、オリンポスの入口である大門を前に佇んでいた。
いち早く辺りを見回した先生がその名の通り教師の如く『全員いる?』と確認を取る。その様子に『相変わらずだな~』と白影が笑っていた。
お互いにいずれ身内になる予定なので、皆ならばうまくやれるだろう。ただし、私の場合は考えなければならない。同職の皇のために何をどう教えるのかを考える。皇と私は、同職と言っても、彼の場合コンフォートプロフェルマスターと言う職でドラマスとはまったく違ったバフだ。
『とりあえず、どう分けようか?』
というロゼに、先生が少し考えるそぶりを見せた。
『東西南北あるし、東と南がモブ多いからそこを中心に同職同士組んでもらって動きを覚えるでいいんじゃないか?』
『そうね。バフも回復も教えやすい位置がいいわね~』
『うんじゃま、まずはクエスト受けてテント買いに行こうぜ』
先生の考えに賛同した宮ネェに頷いた白影が、街へと歩き出す。その背中を追いながらクエストアイテムについて皆の意見を聞く。
『今回のアイテムは分けられないから、ランダムじゃなくて順番せいでいい?』
『あ~。揉めるもとになるからそれでいいと思うぞ』
ロゼが認めたことでSGの面々も納得しているものとする。クラメンの方は初めからそのつもりだったのか誰も何も言わなかった。
と、そこに白影から『ていうか、BFは誰一人サブじゃねーんだな』という鋭い一言を貰う。
『あははは。まー色々ね』
笑ってごまかそうとする鉄男の声を遮るように、先生が……。
『あー。だってうち全員経験値スクロール持ってから』と言ってしまった。
『そう言えば、経験値スクロール売ってる露店あったよな~? って、ん? 確かあそこって……!!』
『まさかっ!!』
勢いよく振り向くSGの面々にBFのメンバー全てが視線を一気に逸らした。
――ジトっとした目をこちらに向け背面歩きをする白影とロゼ、BFの誰もが押し黙り、沈黙する空気に耐えかねたのは宮ネェだった。
『はぁ~。そうよ。うちが売ってるの』
『すまん。口が滑った』
『え、でも、どうやって?? スクロール系は製作できないだろ?』
『それがね~』と言いながら、私へ話していいかと確認するように宮ネェが視線を送る。
流石に今回は仕方ないかな……でも、凄く嫌な予感しかしない。だって、知られたら確実に今後SGの為にも経験値スクロールを作る事になる。それは面倒だ……ここはひとつ拒否してみよう。
逡巡したのち、私は首を横に振った。
『企業秘密よ~。だって、教えたらロゼ達真似するだろうから~。
唇に人差し指を当てながらひみつ♡と言う宮ネェ。その中身が男だと言う事を誰も気にしていないのかツッコミも入らなかった。
そんな事よりも私が気にするのは宮ネェの『欲しいなら必要分売る』という言葉だ。思惑と違う方向へ話が進んでしまったのに気付いたが、既に遅く。
『まじかー。助かるわ~! クラメンの分も良いんだろ?』
『おぉ、ラッキー』
などとロゼと白影に先手を打たれてしまった。
確定なんですね……クラン倉庫に在庫がないの知ってて、なんで売るわよ~なんて言っちゃうかな、宮ネェ。
恨みがましく宮ネェに視線を流す。が、彼女は既にこちらを見ておらず、私の恨みはスルーされた。
と言う訳で、他の皆が寝袋を買い、クエストを受け、狩場に向かったのを見送り私はまたも一人カジノへとやってきた。目的は解りやすく、スクロール系の素材の交換だ。
手持ちのゼル1.8Tを全額引き出す。更には、先生と相談した結果、クラン費半分をスクロールに当てるためクラン倉庫に保管されたクラン費8.7Tを別で引き出す。
まずはクラン費の方からと言う訳で、カウンターで黒服の男性へ声をかけ交換景品一覧を見て、スクロール転写用の羊皮紙と白紙のスクロールがあるのを確認した。
そのまま手持ちのクラン費をカジノチップへと交換して貰う。8.7T分の交換は1Mにつき1枚の黒色のチップで870万枚分の交換だ。
スクロール転写用の羊皮紙×1=黒3枚。これは1枚で100回の転写が可能だ。
白紙のスクロール×10=赤5枚。それを十組100枚と考えて黒5枚で計算する。
黒チップ870万枚分を黒8枚で計算して、1,087,500枚分購入する事ができた。
その数の多さに圧倒されながら、ふと、いずれこれを私が全部経験値のスクロールにするのかと思うだけで鬱々としたのは言うまでもない。
「…………よし、次だ次、考えるのはやめよう」
気合を入れなおすように頬を両手で叩き、改めてカジノの景品一覧に目を通す。
まずはスキル系――。そして、魔法書――。更に、ドラマス用の魔法書と次々タップして進み、目に着いたものをピックアップしていく。
二刀スキル:センシンプ(旋針風) 黒10枚
魔法書:レンジピュリファイ 黒35枚
アニムスカリエンテ 黒60枚
アニムスフルークトゥス 黒60枚
アニムスウラガーン 黒60枚
アニムスリジッドゥ 黒60枚
アニムスプレマフォロスト 黒65枚
アニムストニトゥールス 黒65枚
アニムスクラリタス 黒70枚
アニムステネブラエ 黒70枚
マスコット:金の亡者 黒350枚
二刀のスキルで心惹かれたものは一つしかなく、魔法書は宮ネェやチカ用で、ドラマスの新しい魔法――と言っても四次職にならないと使えないものが、追加されていた。
アニムスとはラテン語で心とか精神とかの意味合いのはずだ。
使ってみなければわからないけれど魔法書に記されている説明によると、記された名のドラゴンの得意とする魔法、物理の攻撃、または防御、回復などが使えるようになるそうだ。名前は似ててもそれぞれ違うので楽しみである。
公式にアップされていた四次職――オムニスエンシェントドラゴンルーラーと言う名前からして、どことなくソロではないかとは疑っていたが、本気でこの魔法を覚えたドラマスは、完全ソロ一辺倒でしかないようだ。
もう、ボッチは永遠にボッチとして生きろと運営に後押しされているような、いないような……。それにしても職名が長い。もう少し考えて付けてくれてもよさそうなものだ。
マスコットを買うべきか非常に悩む。マスコットは欲しいが、名前と見た目が……気に入らない。ネタでキヨシへの土産にする事も考えたが、土産に350Mはやりすぎだろう。と言う訳で、マスコット以外のすべてを黒チップ555枚で購入。
残りの黒チップは全て、スクロール転写用の羊皮紙と白紙のスクロールに交換した。
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