第196話 最強はアップデートを楽しむ⑲

 未だ抵抗を続ける討伐プレイヤー達に、好戦的なうちのクラメン達が襲いかかる。久しぶりのPKだからだろう、些か勢いがあり過ぎる気がする。

 ティタのターゲットマーカーが相手プレイヤーに着くと同時に、囲まれ攻撃が開始される。そして、数秒後にはピクリとも動かない屍だ。

 見ていて不憫には思うが、これもクランLvを上げる為だ。今回ばかりは、死んで貰うしかない。


 無抵抗なプレイヤーには、手を出さないように注意を飛ばしつつ私は七星を優先する。どうやら、キヨシ、千桜も七星の討伐に参加するようだ。他にもアースやグリーンガーデン、二丁目からも複数のプレイヤーが七星に攻撃してくれている。

 レイドPTよりは遥かに少ない人数ではあるが、少しずつHPが削れていた。


『こっちそろそろ終わるかな』

『周囲警戒で、数人四方に立たせる』

『なら、うちの職人たちにお願いしておくわね~ん』

『よろ!』

『任せるわいね』


 ティタの言葉に、ロゼが答える。その内容を聞いていた小春ちゃんが自分のクラメンを立たせると言ってくれる。長い付き合いの中で、互いに言葉は短くても意思疎通を計れる辺りやっぱり、周囲とは違うなと感動を覚えた。


 タゲを引く大和の周囲に、続々と盾が集う。メインが大和で、サブは黒だ。性格は違えど、ヘイトのタイミングを被らないよう読みあったり、盾を突きだすタイミングを合わせたり。この二人は、本当によく似ていると思う。似せているだけなのかもしれないけど、どちらと組んでも安定するから私的にはありがたい。


 なんてことを思っている内に、七星のHPがドンドン削られて行く。こうしてはいられないと慌てて、攻撃に参加する。二刀を振り袈裟斬りにしつつ、下段から上段へ振り抜いた。


[[†元親†] なーren]

[[キヨシ] アイスランスでごり押しじゃー!]

[[ren] ん?]

[[ゼン] アイスランス僕も使えるようになったから頑張るよー!]

[[さゆたん] ゼン。キヨシに感化されちゃダメでしゅよw]

[[†元親†] カリエンテ呼べば早くない?]

[[源次] 幻影か! アレ強かったよなw]

[[宗乃助] 死を覚悟するでござるよw]

[[ren] 呼ばない。周囲巻き込むし……クラメンは良いけど、他が……]


「よくねーよ!」と言う突っ込みを壮大に貰ってしまったが気にしない。

 イリュージョンなら確かに、面倒なくボスを倒し斬る事ができるだろう。カリエンテの討伐を振り返ってみてもそれは間違いない。だが、敵味方関係なく、私以外全員が死亡する。その為、今回使うつもりはない。

 折角来てくれた周囲の人達にも申し訳ないし、あれはクラメンの断罪用だからね?


 七星の眉間に皺がより、獰猛な爬虫類の瞳が更に凶悪さを増す。緑色をした瞳が、赤へと変化する。


『スパイラルブレード来るぞ!』

『盾シールド構えろ! 他は出来るだけ距離を取れ!』


 黒の注意を促すPTチャットに、ロゼが補足をいれた。近接ATK他タゲを持っている大和以外が距離を取る。スパイラルブレードは七星の必殺技だ。

 一見それはトルネードに良く似ている。だが、この攻撃は、竜巻を何本も出す上に、その竜巻に鋭利に尖った刃物をくっつけ、意のままに操る攻撃だ。効果範囲は狭いものの当たれば、装備が未だ揃っていないゼンさん、ヒガキさんあたりはHPを半分以上もっていかれる。

 

『HP装備に不安のある奴はもっと離れろ!』


 再びのロゼの声に、距離を取ったつもりのプレイヤーたちが更に距離を稼ぐ。その間に、七星は大きく身を逸らし、四枚の羽を何度も動かす。それは次第に暴風となり、細く長い八本の竜巻を生む。青白い色をした竜巻は、天高く伸びると周囲に螺旋に渦巻く刃を作り出した。


 のけぞった七星が、巨体を前に押し出すようにしなったかと思えば、とぐろを巻き防御態勢を取った。その動きに合わせ、八本の竜巻が周囲に散った。プレイヤーの固まりへ向かう竜巻。それを察知したかのように、全員が右へ左へと竜巻を避け動く。


 竜巻が収まるまでの一分間を逃げまどい生還したメンバー達は、防御状態を解除した七星に腹いせとばかりにスキルを連発させた。その後ろから、メテオやらアイスランスやら、スキルを纏った矢なんかが飛来し、エフェクトのせいで大和達の姿が見えなくなった。そんな皆に負けじと七星へ攻撃する。


 その後、二度目のスパイラルブレードが発生した直後。攻撃を停止するよう各クランマスターによって指示が出された。

 大和のヘイトが複数回間隔をあけてエフェクトを上げる。七星のHPバーは既に底をついており、残りは私の攻撃力次第。


 ここまでのお膳立てをありがたく思いながら、二刀を右から左へ上から下へと斬り込む。そのまま、+29ムラクモ×オハバリに持ち替え武器スキルアマギリを発動させた。

 霧雨が降り注ぎ、それは次第に無数の刃となり七星の巨体を切り刻んだ。


『まだか』


 アマギリでも削り切れないHPに多少呆れつつ、精霊メテオが付いた杖に持ち替えメテオを発動する。これで駄目なら、別の手を考えなければ……そう思ったと同時に七星が、巨体を盛大にうねらせ苦しむ声を上げた。

 好機とばかりに、再度二刀に持ち替えスキル:オオオナミソウトウを発動させる。型どおり動く身体に合わせ、刀が降り抜かれた。


「グギャァァアァァアス」


 七星の巨体が天を仰ぎ、断末魔がその場に轟くと力を失くしたように地へ落ちた。七星が黄色いエフェクトに変わり消えて行くのに合わせ、ドロップがシステムログに流れる。それと同時に、目的が達成された事を知らせるログが流れた。


【 ワイバーン・セプテントリオンズを討伐しました。これにより、クランレベルアップの上限を解除いたします。 】


 無事七星のLAが認められ、クランLvのレベルアップ上限解除ができるようになった。後の事は、クラン貢献ポイントと相談しながらチマチマ上げて行こう。


『ロゼ』

『ん?』

『後の仕切りよろしくね?』

『ちょ! は? え?』


 事後処理を全てロゼに丸投げした私は、清々した気分で悠然とその場から帰還した。その後、オークション会場となったヘスティアの神殿で、説教されたが気にしないでおく。

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