最強はクランを作る⑤

 帰りの道すがら、クエストの面倒さを話す。


『クソみたいなドロップ率だな』


 引き役で、走ってはモブにボコられるという、マゾな行動を繰り返す黒が吐き捨てるように言えば、他のメンバーも無言で頷いていた。


『マゾ過ぎだよー』

『しかし、ゼロは流石に酷いでござるな』


 ティタと宗之助が言っているのはきっと、七回目と十回目の引きでドロップがゼロだったことだろう。

 流石にあの時は、私ですら空を見上げそうになった。

 いくら病ゲーと言うほどマゾイゲームでも流石にドロップゼロはきつい。


『そう言えば、renの名前綺麗な色になったわね!』


 話題を変えるように、宮ネェが振ってくる。

 自分の名前を、表示させてみれば薄いオレンジになっていた。


 FPK(フィールド・プレイヤー・キル)と呼ばれる行為。

 要は、狩場で白ネームのプレイヤーに対し、攻撃を加えただけで十分間、オレンジ色に名前が変わる。殺せば、赤。

 十人で黒ネーム。

 百人で、名前の表示バグり、冥界落ち。


 冥界の最奥に落とされたプレイヤーは、通路にいるモブを倒しながらえげつない罠が所狭しと置いてある道を進む。死のうが、ログアウトしようが出口を出るまで冥界から戻ることが出来ない。


 私も過去に冥界に落ちたことがある。初めての冥界フィールドに過酷さを知らない私は、無駄にワクワクしていた。

 実際に経験した冥界は、巨大迷路のように広いフィールドだった。モブは強いし、迷路は途中で道順が変わるしで、本当に最悪だった。


 それ以来私は、必ず百人殺す前に課金したアイテムを使うようにした。運営の商法にもれなくお世話になっていることは腹立たしいが、冥界に行く思いをするぐらいなら買った方がいい。【 清らかな心 】を!

 

 名前の話で盛り上がり、あっと言う間に街へと到着した。次に向う場所は、ネペレにある近いの山だ。あそこのモブは空を飛ぶので厄介だな……。


 次の狩場があるネペレの町へ移動するため転移ポータルへと向う。

 とここで、娘至上主義のさゆたんがむすめさんと寝るため落ちる時間となってしまった。

 一番の火力と言えるさゆたんが落ちるとなると、正直心もとない。だからと言って、クエストを止めたりはしないけど。


 残念そうな顔を見せ落ちると伝えたさゆたんは、落ちるため宿屋へと引き返した。

 アレだけ残念そうな顔を見せていたのに足取りは、軽いようだ。なんせ、スキップだから!


『娘好きすぎだろ。禿げろ』

『あー言うのが、将来娘にパパ気持ち悪い! とか言われるんだぜ』


 スキップするさゆたんを目撃してしまったらしい宮ネェが、オネエ口調を忘れ突っ込めば、同意するようにキヨシが将来を語ってほくそ笑む。


 宮ネェもキヨシも相当なクズだ。二人の言い草に笑ってる私も似たもの同志なんだけど。


 ネペレの町に着くなり補充を済ませるため三十分ほど時間をとることになった。

 微妙な時間だが私は、宿屋に戻りログアウト。

 現実でトイレと水分補給を済ませ、直ぐにログインする。


 ベットから起き上がり、集合時間を思って確認すれば十五分ほど残っていた。

 補充は大丈夫だし、やること……あぁ、弓! と思い出し、雑談などが流れる全チャにアーチャーの血盟と名前をのせ呼び出すことにした。


{[ren] 緋色のリボン/葉炎 10分以内に密談 plz}

『またでござるか?』

『ちょっと、ren激しすぎ! 僕、濡れちゃうから~』

『ティタ、死ぬ?』

『マジ、すいませんでしたっ。勘弁して下さい』


 そんなに殺してないし、週四~五は敵対だけだし、今回は相手が全面的に悪いし私は悪くない。

 脳内で反論しつつティタの冗談に、PK予告出せば土下座しそうな勢いで謝った。

 はじめから言わなきゃいいのに……。

 

”緋色” 失礼します。

”ren” ?


”緋色” 緋色のリボンのクランマスターしてます。緋色といいます。

    うちの葉炎が、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。 

”ren” どうも。


 ご迷惑おかけしてってことは、事情は聴いてるのかな?


”緋色” それで、実は葉炎なんですが……。

    現在ログアウト中です。

    なので代わりにご連絡しました。

”ren” 武器、拾ってあるから取りに来て。ネペレ ポータル


 武器落として、不貞落ちか。まぁ、クラマスなら預けても良いだろう。


”緋色” ありがとうございます。直ぐに行きます。


 直ぐにポータルへと向えば、既に緋色さんは到着していた。

 羊の巻き角に水色に白を重ね塗りしたような髪を、肩口で切りそろえた幼女の姿をした。


”緋色” はじめまして。

”ren” ん。トレード出す。

”緋色” はい。


 直ぐにトレードのマーク――矢印二本が上下中向きになったもの――をタップする。

 アイテムボックスから、弓を移動させ完了を押す前に、再度確認をする。


”ren” 間違いない?

”緋色” はい。


”ren” 受取り書、メールして。確認したらok押す。

”緋色” わかりました。


 一分ほどで、緋色から新着のメールが届く。

 タイトルと文章を確認してokボタンを押す。


”緋色” ありがとうございました。必ず渡します。

”ren” よろしく


 何度も頭をさげる緋色に、バイバイと手を振って待ち合わせ場所の門へ歩みを進めた。

 門について、暫く待つことになった。

 キヨシが、ログインはしているものの、戻ってこないからだ。


『お前……、強化して、消失んじゃねーよ!』

『それ、初期装備だよな……』

『またか……』

『呆れるわ』

『キヨシ。馬鹿なの?』

『馬鹿でござるな』


 漸く来たと思えば、キヨシがしょぼい装備に変わっていた。

 それに黒がキレ。シロが驚いた顔で、初期装備であることを見抜き絶句。先生と宮ネェが、心底呆れた顔を見せた。

 今まで、ネタでやってるのかと思っていたけど、本気で馬鹿だったらしいことについ、きつい口調で馬鹿なのか聞いてしまう。それに、宗乃助が同調する。


『だって! さゆ居なくなったら火力落ちるって皆が言ってたろ? だから……少しでも火力あげようと思って……』


 泣きそうな顔でいい訳をはじめるキヨシ。

 溜息を吐き、キヨシの装備について考える。このままでは確実に、モブにボコられて死ぬのは目に見えている。


 仕方ないと割り切り、皆に少し待って欲しいと頼むとキヨシに装備を貸すため倉庫へと走た。

 本当は、自分の装備を強化――武器装備、鎧装備共に40で、アクセは35までが、今のところ最大と公式に書いてあった――する時に少しでも精神的に、成功の確率があがるよう生贄用にとっておいた装備を倉庫から取り出した。


 +12 炎羽のローブ

  防御+72 火耐性+22 火魔法攻撃力+22 STR+1

 +13 エレメンタルグローブ

  防御+33 INT+1 MP+43 魔法攻撃耐性+23

 +15 マジックヘルム

  防御+22 魔法攻撃耐性+25

 +10 アイアンブーツ

  防御+40 物理攻撃耐性+20

 +17 エンシェント スティック

  魔法攻撃力+115 属性石強化:水属性+250


 戻ろうと思い歩き始めて、アクセはあるのか確認する。


『キヨシ。アクセ』

『ない!』

『馬鹿かお前は!』


 消失してしまったらしい。キヨシの答えに、シロまでキレた。

 倉庫にもう1度戻り、アクセを取り出す。


 +7 マジックリング

  防御+8 魔法耐性+14

 +13 マジックリング

  防御+14 魔法耐性+20

 +12 ジャイアントリング(ネックレス)

  防御+22 物理攻撃力+24 重量軽減+22

 +15 エレメンタルイヤリング

  魔法耐性+17

 +3 エレメンタルイヤリング

  魔法耐性+5

 +8 ユニコーンベルト

  攻撃力+9 魔法攻撃力++18 WIS+2


 ゴミの寄せ集めではあるが、キヨシが着ている装備よりは遥かにましだろうと倉庫を後にする。

 門に戻り、トレードで装備を渡す。


『うぉ。強化する前より俺強いんだけど!』

『ren。ちゃんと証文は取っとけよ』

『強化したら、キャラデリまでPK』


 喜ぶキヨシの姿に、不安を感じたであろうティタが証文を取れと言う。

 流石に貸した物を強化するような基地外ではないと思いたい。心に反して私の口は信用しきれずキヨシを脅した。

 脅された所でキヨシが怯むはずも無く、意気揚々と先頭を歩き出す。皆と私は少し距離をとって着いて行った。


 ネペレの街から、西へ40分歩けば木もあまり生えていない禿山(誓いの山)につく。

 この狩場は、強化の石がドロップするため、プレイヤーに人気だ。

 狩場周囲を見てまわれば、ソロ含め5PTほどがかりをしている。


 一応と見てみようと言うシロの提案で、誓いの山の北側にある、大量にモブが湧く場所を見れば、珍しく誰も使っていなかった。

 もしかすれば、その場で透明化の魔法やマントを使い休憩しているかもしれないと考え、ディティクションを使ってプレイヤーを確認するも居ないので、ここで狩ることが決まる。


 早速、嵌りやすそうな大岩を引き役2人が確認し、大丈夫だと言うのでバフをかけていく。

 黒とティタにヘイストⅡ(+25)を入れると、直ぐに走ってモブを釣りにいった。

 ここのモブは、風属性特化を持っている。なので設置する魔法は、地属性を主にする。

 

 ・バインド(+18)

 ・アースニードル(+25)

  地中から無数の棘で突き刺す

 ・スローレンジ(+5)

  行動、移動速度低下


 宮ネェとキヨシに、マジック オブ アブソール(+25)。シロ、先生、宗乃助に、ヘイストⅡ(+25)とアース ウェポイン(+20)をかけた。

 ティタの十と言うカウントが入る。


 鳥系のモブを大量に引き攣れ、突かれながら戻る黒とティタのHPが中々エグイ。

 ティタと黒が試行錯誤して窪みに納まると同時に、スローレンジを発動。更にキヨシに、エレメンタルアップ――六十秒だけ魔法攻撃力が、二百%アップする――(+15)をかける。

 レンジヘイトのエフェクトが数回見える。宮ネェの無敵魔法が発動させると同時に、黒とティタへアースウェポイン(+20)を入れる。


 近接3人が、槍で殴りはじめ、小気味良いクリティカル音を聞き、設置型魔法を発動させるとキヨシがサンドストームを連発しつつ、宮ネェが回復を回す。

 槍で殴られ、砂嵐に見舞われた鳥は、無残に羽を散らして地に落ちていくと黄色の粒子になり消えて行った。やはり、メインの装備は大事なのだとキヨシの火力を見て思った。


 一度目のドロップは、三個……。残り十一回これを繰り返す予定――。

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