タイトル.54「サンクチュアリの護り人(前編)」
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「ぐぬぬ……」
大空を舞うアルケフのシルフィは歯がゆい気分だった。
異世界アウロラの人間には特殊な力が宿っている。魔法という存在の元祖であるアルケフのような異種族達の手により、アウロラの人々は異能力を得た。
魔法なんかとは比べ物にならない使いやすさ。使える人間は限られているとはいえ、その存在は身近なものになっていた。
「なんて小賢しい真似をさらしてくれるんですかねぇ……!!」
故に魔法は“異能力に劣る力”と言われるようになっていた。
その結果が、今、ここでも存分に振るわれている。
「私は偉いんですよッ!! 古臭くないもんッ!!」
目の前に立ちはだかる追加の護衛艦。そのほとんどが“魔法と異能力に関するエネルギーを分散する”バリアを展開している。
すなわち、シルフィにとっては天敵ばかりの戦場なのだ。
「もうダメですね……私の攻撃がほとんど届かない……」
シルフィはいじけるしかなかった。
「魔法に異能力、その対策は完璧というわけですな」
その苦戦っぷりは同席しているキサラから見ても明白だった。シルフィの攻撃は地上にいる雑魚を一掃する分には真価を発揮しているが、護衛艦にはてこずる一方だ。
「ですが、ご安心を」
キサラは護衛艦を前に全速前進。
「拙者、魔法や異能力とは無縁の存在でござる」
両手、そして腰回りが大きく展開されていく。相変わらず内部構造ガン無視の変形っぷりを披露しながら、大量のミサイルを飛空艇に向けて発射する。
「ファイア」
キサラは魔法や異能力を使えない。しかし彼女にはそこらの武装車両や戦闘機以上に詰め込まれた重火器武装が体内に仕込まれている。
最早動く要塞ともいえる彼女。ちょこまかと動き回る戦闘マシンを飛空艇一機が止められるはずもない。
「容易いでござるよ。このくらい」
結界を貫通し、飛空艇を爆散させていく。
機銃や砲弾、ビーム砲に対する装甲も備えてはいる。しかしキサラに詰め込まれた重装備は戦車の砲弾や戦闘機の機銃にミサイルなどの威力を遥かに上回る。
護衛艦など一瞬で殲滅してみせる。
「もう一機! そちらも!」
残りの護衛艦も次々と撃墜していく。
殲滅戦は得意であると口にしていただけの事はある。
(凄い……本当に強い)
裏でコソコソ役目を遂げる便利屋に向いていない奴であるとス・ノーが口にしていたがその理由がよくわかる。このサイボーグ一人でそこらの軍隊一つの壊滅は簡単なのではないだろうか。
(凄いけど……何か思う事はないのかなぁ……?)
しかし、便利屋であると同時に忍者を自称していた彼女がそんなことでいいのだろうかとシルフィは同時に思ったりもした。
一方の彼女は最高の戦果を前に自慢げと胸を誇らしげに向けていたが。
「あとは援軍が来る前に向こうが終わるのを待つだけ、ですかね」
シルフィは様子を伺う。
あとはカルラとアイザ、そして潜入したアキュラ達の吉報を待つだけ。やってきた援軍は残ったシルフィ達と後方のレイブラント達でどうにかする。
次の襲撃に備えて、一度クールタイムを挟もうと気を抜いていた。
「派手にやってるじゃねぇかよぉッ!」
しかし、その矢先。
「シルフィ殿! 気を抜くのは早いでござる!」
「!?」
キサラの警告、そして敵の叫び声にシルフィの油断が解ける。
「《
瞬時に結界を張る。シルフィは自身の体に風のバリアを塗り付けた。
「なにぃ!?」
“ビームの刃”がシルフィにぶつかる直前、見えない何かにその標的は間抜けに吹っ飛ばされる。
(危なかった……!!)
防御がギリギリ間に合った。シルフィは思わず息を漏らす。
「ひゃっはっはは! 俺以上にドンチャンしてそうな奴が現れやがって……こんなの墜としちまったら」
巨大なジェットパックと間抜けに動くプロペラ。空という舞台が全くと言っていいほど似合わないメタボな体のクロコダイル。
「リンちゃんから最高の御褒美がもらえちまうぜぇ!? 一体、どんなことをさせてもらえるんだろうだよぉお!?」
興奮しながら大声で発狂するのは、数日前にフリーランスを襲撃したセスのドガンであった。
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リンの撮影スタジオに向かう中、互いに因縁を持った男同士が再び出会う。
食血鬼キーステレサ。リベンジの時がやってきたことに強く興奮しているのか、黒いナイフを片手に強く衝動を抑えているように見える。
「……」
右手、左手。互いに存在している。
「お前、腕は治ったのかよ」
「ああ、政府のお偉いさんに頼んで治してもらったんだよ。衝動を必死に抑えて逃げたのは正解だった……もう少し時間が掛かっていたら、繋げ治すことは難しかったみたいだからね」
手早い判断のおかげで治療が間に合ったと彼は告げる。
たった数日で腕を繋げ治し、そして異常なく動かしてみせている。さすがは魔法と異能力が存在する世界。その気になれば荒治療も可能と言う事なのか。
「……ヨカゼ、あの腕は」
『熱源反応がある。金属ではない。本物だ』
義手であると伺っていたが、どうやら違うらしい。
敵の熱源反応をサーチできるヨカゼに頼んだところ、どうやらその腕は本物。以前斬り離したはずの腕であることは間違いないようだ。
「すまないけど先は通せない。仕事だからね」
一歩ずつ、距離を近づけてくる。
「それ以前に、僕は早く君達を食べたくて仕方がないんだ!」
相変わらず下衆な笑みだ。
「全く不気味だねぇ。とっとと片付けて」
村正のスイッチを入れようとした矢先。
『ご主人。膨大な熱源反応だ』
ヨカゼから警告される。
『“真横から”』
すぐ横からとんでもない気配を感じる。
「!!」
その警告にカルラはすぐさま武器を収め、横を見る。
「ふぅん……ふ~ん~……?」
アイザが棒立ちしている。
そこから油断という隙が生じているようには見えない。
「君、敵、なの~?」
オーラ。殺気。
無邪気な笑みも、ありとあらゆる事に疑問を浮かべるキョトンとした表情も一切浮かべていない。その表情は無表情、目もとも口元も、頬も一ミリたりとも動かさず、すっとキーステレサを眺めている。
異様な気配が漂う。
アイザの背筋からプレッシャー。
「……アイザ、後の事を考えてエネルギーは温存しとけ。フルバーストは基本的にはなしだ」
彼女の耳元で、カルラはそっと呟いた。
「“お前も限界が近いはずだからな”」
それだけを言い残す。
カルラは……キーステレサの方へと走っていく。
「あばよ。行かせてもらうぜ」
そして、通り過ぎる。
キーステレサのリベンジ。その挑戦状を受け取ることなく、リンのスタジオを目指して一目散に向かい始めたのだ。
「逃げるのかい……僕が一番食べたいのは君なんだよ!」
逃走は許さない。キーステレサが振り返ったその瞬間。
「敵、なの~~!?」
女性の姿。ウサギのように軽く跳ね、足を大きく振りかぶっている。
人目など気にしないその姿勢が故に、キーステレサの視界には彼女のスカートの中の景色が広がっている。
「……ッ!!」
絶景から一転。
一瞬で、キーステレサの視界は蜃気楼だらけのボヤに成り代わる。
蹴り飛ばされる。キーステレサの肉体はすぐ近くにあった未使用のスタジオへと吹っ飛ばされていった。
「お兄さん」
明かりのついていないスタジオ。そこへ一人、アイザがフラリと近寄ってくる。
「凄く“嫌な匂い”がするよ」
カチリ、と弾丸が装填される音が聞こえる。
MURAMASAマグナムの起動。彼女の体が“フェーズ3”へと突入した合図であった。
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