第43話 公爵令嬢はリレーを教える

学童院で先生を始めて2ヶ月。


お父様との交渉で得ることの出来た資金援助のおかげで、給食が大幅に改善した。


パンの数は2倍、スープの具材は増量、おかずにお肉とミルクが追加されて、皆んな大満足の給食内容になった。


あと、設計書を貰った私は、半鐘台と体重計を気合と根性で1日で作り上げた。


いやぁ、自分で言うのも何だけど、私すごい魔法上達したね。


魔力量少ないはずなのに、あんな巨大な建造物とよく響く鐘と精密機械を作っちゃうんだもん、気絶寸前だったけど。


設備が整った事で、時間割を導入。


予想通り、休憩時間を設けた事で集中力が上がり、私の作ったかるたや硬貨に見立てたコイン等知育玩具が他のクラスでも流行ったこともあって、遊びながら集中して学び適度に休憩を入れる勉強法により、子供達の学力はメキメキと伸びていった。


今では、生徒全員が読み書きと加減演算が出来るまでになっていた。



荒地と化していた芝の中庭は菜園コーナーへ生まれ変わり、校内に植えてあった木々もレモンやシナモン、オリーブといった調味料の材料になる植物へ植え替えられた。


菜園や木々の世話は、管理人を雇いはしたけど基本的には授業の一環として生徒がする様になっていて、各クラスで担当がある。


私のクラスは唐辛子。


一日中勉強ばかりだとやっぱり飽きてくるので、菜園の時間は皆んな楽しそうにしている。



そして、この成功例もあって、残り2つの学童院でもこの方針を取り入れる事になった。


ええ、作りましたとも、半鐘台と体重計、知育玩具を2ヶ所分。




さて、勉強が捗るようになってきて問題が発生した。


例年よりかなり早く授業が進んでしまい、段々と教えることが無くなってしまってきているのだ。


二年間の就学義務期間を短くしようと言う先生の声がちらほら上がったんだけど、学童院を楽しんでいる子供達が増えて、今しかないこの時を減らすのは勿体無いと言う反対意見の方が多かった。


そこで、新しい授業を増やそうと言う話になった。


ただ、現在、国語(読み書き・言葉使い)、算数(計算・時計の読み方)、道徳(常識・マナー)、園芸の4種類だけなんだけど、他の先生達はこれ以外に何の授業をしたらいいのか分からないと言っていた。


そこで私が提案したのが、理科、社会、保健、体育、音楽の5つ。


詳しく言うと、理科が生物学と化学、社会が地理と歴史と法律、保健が体の仕組みと健康と予防医学、体育はスポーツ、音楽は主に歌を教えていくといった感じ。


理科、社会、保健は、今後生活していく上で役立ちそうだからと言う理由だけど、体育と音楽は理由が少し違う。


アースフィールド王国、というかこの世界では、娯楽とは金持ちの遊びである、コンサートや演劇、武闘会くらいしかなかった。


そこで、子供達に歌やスポーツを教えて、感性や身体能力の向上を目指しながら、発表会や運動会に来てもらい子供達の頑張る姿を見てもらうと共に、娯楽の一つとしてフィアンマ公爵領の名物にしてもらいたいと思ったのだ。



という事で、再びお父様に交渉。


楽器とグラウンド、指導者を要請したところ、私がグラウンドを整備するという条件で交渉成立。


因みに、私と科学者の努力の甲斐あって、クエン酸の精製に成功。


炭酸飲料の大量生産化とポテチ等のフランチャイズ化により、ブリキッド商会は更に大きく成長、フィアンマ公爵領は今まで以上に景気が良くなった。


元々慈善事業への取り組みを積極的に行っていたお父様は、半鐘台や給食の件を聞いた時から支援する気満々だったらしく、更に資産豊かになった今、学童院の隣にかなり大きめの土地を確保し、楽器も伴奏用のギターやピアノだけでなく、合奏が出来る程の楽器を調達してくれた。


じゃあ何で交換条件なんかをしたかと言うと、


「強請れば何でも貰えると思うな。

欲しいものは努力で手に入れろ。」


だってよ。


お父様流の教育方針らしいけど、ニヤニヤしながら言われても全然説得力がない。




さて、遂にグラウンドが完成したので、今日は初めて体育の授業をする。


とは言っても、球技は道具が必要だし、格闘技は俺が高校の体育の授業でした程度、武器を使った訓練は児童が授業で習う様な事じゃないと思う。


なので、今日の授業内容はリレー。


必要なのはバトンだけでいいから、準備はお手頃カンタン。


まず準備体操をしっかりしてから、チーム分けをする為に足の速さを確認。


勿論ストップウォッチなんてものはないから秒数まではわからないけど、クラス全員のだいたいの順位が分かったところで4つのチームに分けた。


今日は欠席者が1人、体調不良で見学者が2人いたので、私を除いて9人ずつ。


グラウンドにトラックを描いて、走り方とバトンパスを教える。


リレーにはこのバトンパスが超重要。


なんせ、9秒台が一人もいない日本人チームが、バトンパスの技術力でメダルを取っちゃった程だからね。


とは言っても俺だって素人だから、何となくでしか教えられない。


みんなのチームワークでバトンパスの技術を磨いてくれ。


と、リレーの練習をしていたら、給食のおばちゃん達や菜園の管理人のおっちゃん、院長先生まで見学に来て、授業の最後にしたリレーでは、校舎の窓から生徒や先生達までもが応援してくる程大盛り上がりの大はしゃぎ!


そして私は体育指導の先生になった。


今はリレーだけだけど、今後運動会や球技大会もしていきたいと思ってるから、道具をどんどん増やしていかないとね。


因みに、音楽は生徒として参加。


だって、俺リコーダーくらいしかやった事ないし、私は何にもした事ないもん。




こうして、授業内容は日本の小学校のようなものになり、ついでに言うと、自由活動の時間と掃除の時間も出来た。


自由活動時間は、リレーや歌の練習、読書や勉強、植物の世話など好きな事をする時間、ようは昼休みみたいなもの。


掃除は自由時間の後に取り入れられた。


これにより、子供達は自分の趣味や特技を楽しめるようになって、整理整頓が上達、物を大切に使うようになっていった。


きっとこのカリキュラムも他校に実施されるようになって、私はグラウンドを作る為に呼び出される事になるんだろう。

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