みやこわすれを忘れない

雪之佳乃

プロローグ

 母の脳が衰えてきたことは感じていた。


 最初の違和感は、同じ話の繰り返し。数時間おきならまだ耐えられた。が、だんだん感覚が短くなって30分毎に。これからもっと短いスパンで話が繰り返されるのだろう。


 祖母の認知症の症状が出始めた年齢とあわせてもそろそろかとは思っていた。

 しかし治る可能性のない病気であることを認めてしまうとますます深い溝にハマってしまうような、修正の効かない谷に落ちてしまうようなそんな感覚に襲われる。

 病院に連れて行ったほうがいいのだろうか。病院と言ってもどこに?何科に?母が行くのを嫌がったらどうやって連れて行けば?

 同居した方がいいのだろうか。自分は長女ではあるが第一子ではない。本来なら長男が同居するべきだろう。しかし兄は出来ちゃった結婚の後すぐに離婚して今は独身である。母を看ると言っても昼間は仕事で留守にしてしまうし夜も遅い。なにより出張が多くほとんど家にいられない。

 なにより自分も長男の嫁だし…

 いろいろな言い訳をしながら母の症状を見ないふりしていた。


 


2019/11/9 誤字修正







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る