第六章 最強の男
第三十一話 画面の中のヒーローと
自室のベッドで目覚めた。
『ふふっ。惚れたよ、君には』
恭子さんの言葉を思い出してしまう。
い、いやいや。アレはお姉さんがちょっとからかっちゃいました、みたいなモノのだろう。
そうだ、僕は騙されないぞ。
……。
しかし、恭子さんには自覚してほしい。
その一言が男子高校生の睡眠一夜ぶんを奪うのに十分なことを。
その日の昼間は、久しぶりに落ち着いて『仮面ドライバー』を観ることができた。
毎日観てはいるのだが、≪
スマートフォンの画面の中では、変身した仮面ドライバーが闘っていた。
大勢の敵に囲まれながら、それでも諦めずに立ち向かっている。
今観ているこのドライバーは、最初は事件に巻き込まれて自衛のために変身した。
それがあるときから、身近な友を救うために闘うようになる。
そのうちに、怪人が暴れることで出る街の被害を憂い、より大勢の人を守るために闘うようになる。
そして最後には、世界の危機を人知れず救うのだ。
なのにいつの間にか、人々を救って、それを求められるようになって。
いつしか、自分から守りたいとまで思うに至った。
僕はどうだろう。
ある日、それを叶えるチャンスを手に入れて。ヒーローみたいに変身もできて。
でもそれは、人の願いを妨げなければ叶わないチャンスだったんだ。
ヒーローになろうとすればするほど、ヒーローならば絶対にしないことを求められる。
僕だけ、初めの夜に脱落すれば、こんな風に悩むこともなかっただろう。
でも、後悔はしていない。それだけは、絶対にないのだ。
だってあの日、かなえを助けることができたから。
助けてという声に、待ちつづけたその声に、僕は応えることができたから。
ベッドの上でヒーローになるチャンスを願っていた自分に、嘘をつかなかったから。
そして今では、かなえだけじゃなくて、恭子さんや、まぁアリスもそうだし、助けたい人が増えた。今はもう遅いけれど、この先、あの名前も聞けなかったおじさんや、あの少年のような人と出会ったら、僕はやっぱり助けたい。
ヒーローになるために戦えば戦うほど、ヒーローから遠ざかる。
けれどもう、守りたい人たちのために戦い続けるしかない。
僕は今まで、
何だか今は、お互い大変だな、と肩を叩きたい気持ちだった。
いや、それは少し生意気が過ぎるだろうか。
結局僕は、また≪
もう、憧れるだけではいられない。
それになる方法が遠くに見えてしまった今、観客と演者の関係ではいられない。
深夜零時になった。
昨夜、アマちゃんが言っていたことを思い出す。
『救うための戦い』というその言葉。
僕が求めていたのは、まさにそれだった。
今でも、少年や進藤憲一のように真剣で替えのきかない願いをかき消したことには後悔がある。
それでも、昨日の夜。
恭子さんを救い、かなえとアリスを守り抜くことができた。
僕はそれを、誇らしいと思う。そう思えたのだ。
この手をもっと伸ばしたい。
あのゲームで敗れ、願いが叶わなくなってしまった人たちにまでも。
もし僕が、ヒーローになったら、それができるのだろうか。
今夜も僕は戦う。
自分の指に嵌まる、≪太陽≫の指輪にそっと呟く。
「今夜も、頼むぞ」
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