第3話
「ごんた。どうじゃ、こんどのえ物は。お前の好きななんたらとか言う、赤い酒は見つかったかの? ふおっ、ふおっ」
しわくちゃの顔をしたうめという老婆が、五尺ほどの背丈でがっしりとした体つきのごんたに話しかけた。昨年父親を亡くして身寄りのひとりもいない若者だった。
「うんにゃ、なにもねえ。これからおきにでてみるさ。まえのときも、おきのほうでみつかったからよ」
銀の皿を並べたようにキラキラと光る沖を眩しげに手をかざして見やりながら、ごんたが答えた。
「そうじゃのお、そうじゃったわ。まあ、あすにでも出してみいや」
「いやだめじゃ、おうめばば。あすじゃだめじゃて。ながされてしまうかもしれん。きょうじゃ、これからじゃ」
じっと沖を見つめながら、力強くごんたが答えた。「ふねをとってくる」と、歩き始めたごんたの耳に弱々しい赤子の泣き声が入ってきた。
「おうめばば。あかごじゃ、あかんぼうが泣いとる」
「バカ言うでね。お前のそら耳じゃ、そら耳じ……うん? たしかに聞こえるの。はてはて、なんばん船に乗っておったのか」
少し離れた岩場の陰に小舟が一艘打ち上げられていた。その小舟から泣き声が聞こえていた。ごんたが抱きかかえると赤子の泣き声が止まり、じっと青い瞳で見つめてきた。「よしよし」と声をかけると、また弱々しい泣き声をあげた。
「おうめばば。いたぞ、いたぞ! なんとまあ、おおきいあかごじゃ。ほんに、なんばんじんのこはおおきいのお! よおし、きょうからはわしのこじゃ。ごんすけじゃ!」
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