第105話 騎士団演習場。

「はぁ、ファガ王国の国王様からメダルを賜った後に、謁見させていただきました。その折、ジニム辺境伯様とともに、魔道具の走る箱といいますか、馬が曳かない馬車といいますか、そのような乗り物で王都に行ったのは確かですけども・・・。」


「うむうむ、そうだ。アートのヤツが一緒にいたと言っておったわ。ところで、その魔道具見せてくれんかの。もしアタール君が見せてくれたならば、国外追放という処分ももう少し軽くしてやっても良いのだがなぁ・・・。」


 アート様、まさかのヤツ呼ばわり。・・・そしてこの人好奇心と私利私欲でいっぱいだよ。だいたい、どこに車があるというんだ。鞄ひとつに中身は冒険者証と小銭入れ、あとは例のメダルしかないのに。もしかして、インベントリの件もバレてる?あれは人前で披露したことなんて・・・あったよ。王宮の玄関口でサシャさんに言われて車収納したわ・・・。


 それにしても『処分ももう少し軽く』って、処分はやっぱりされるのか。


「あの、もう少し軽い処分って、どういうものでしょうか・・・。」


「そうだなぁ・・・、ヘイゼルどのような処分・・・処罰があったかの。」


「はい、百叩き、禁固刑に罰金刑などがありますが、百叩きは公衆の面前で行うため、今回ファガ王国の客人であるアタール様には不可能であると考えます。」


 全部嫌だな。どうにか処分を避ける方法はないかなぁ。ん?見せるだけで軽くなるなら、乗せればもう無罪放免じゃね?


「え~っとアレンさん、もしですね、僕がその魔道具を見せるだけでなく、アレンさんを乗せたとしたらどんな感じでしょうか・・・。」


 よし、身を乗り出してきた。


「ほほう。ワシがその噂の魔道具に乗れるというのか。」


 その言葉の後、アレンさんは息子のヘイゼルさんの方を見て、爆笑を始めた。なんなんだよ。ここ笑うとこか?しかも大爆笑だよ。


「失礼したアタール君、もともと処罰などする気はない。大叔父の客人を国外追放などしたら、我が領とファガ王国の貿易が滞ってしまうわ。ただ、噂でアートのやつがファガ王国の王都で得意顔だったというのを部下に聞いてなぁ、タカムーラの名を聞いてすぐに曰くありと思っての。ワシもその魔道具に乗りたかったのが本音だ。」


 お茶目さんだった。しかも国境関所のコインは国王様から賜ったメダルで代替えになるどころか、提示しただけでこの国でも国賓待遇だそうだ・・・。上位互換どころの話ではない。それくらいファガ王国とサムワ王国の結びつきは深いということのようだ。まあ辺境伯様が既に親戚のようだしな。


 大笑いのまま立ち上がったアレンさんに肩をバンバン叩かれてはいるが、障壁のおかげでダメージはない。さて、車に乗せるのはいい。でもこれ以上噂をばらまかないために、場所と時間に関しては配慮してもらいたいな。


「アレンさん、あの・・・車・・・いや、魔道具にお乗せするのは構いません。しかし、その形や音などで目立ちますので、何と言いますか、あまり目立たない場所でならばと考えています。」


「うんうん、よいよい。おいヘイゼル馬車を回せ、そうだな、場所は街の外、騎士団の演習場でどうだ。」


「はっ、すぐに準備して参ります。」


 息子さんなのになんかさっきから他人行儀だなぁ。でもまあ、街から離れたところでなら、車で爆走しても問題ないだろう。これ以上車関連の噂は広めたくないからね。一応アレンさんにもヘイゼルさんにも口止めもしておきたいな。


 それよりもお腹すいたよ。もともとこの街に入ろうとしたのも昼食を摂るという目的もあったのだ。何か食べ物でもお願いしてしまおうかな。


「あの~、すみませんが僕まだ昼食を摂ってなくてですね。待っている間なにか食べ物を買いに行ってもよろしいでしょうか。」


「ん?そうか。買いに行くまでもないぞ。おい、誰かおらんか。」


 偉い人は、こうやって声かけると、必ず誰かがやってきて言うことを聞いてくれるんだなぁ。代官屋敷の執事さんらしき方がすぐに御用聞きに現れた。


「何か軽く食べるものを持ってきてくれ、あとお茶お代わり。」


「はい、既にヘイゼル様に申し付かっておりますので、すぐにご用意いたします。」


「うむ、頼むぞ代官。」


 ・・・執事さんではなく代官様ご本人だった。お迎え、応接室への案内、そして昼食の準備までも代官様がするのか・・・。さすがに料理は指示するだけだろうけども。


 すぐに召使いの方々が、サンドイッチを持ってきた。いつもなら『ようなもの』と注釈をつけるけれど、目の前の食べ物はまさしくサンドイッチだ。添えられた飲み物はアップルジュース。これはアップルジュースらしきものか。だいたいりんごが存在しているかどうかも確認してないからね。


 すぐに手に取ってひと口かじってみる。サンドイッチは日本のように白パンではなくて黒パンなので酸味がある。挟まれているものは肉の燻製、ようするにハムのようだ。野菜は入ってない。そして不味い。これならコンビニのサンドイッチか菓子パンの方がいいなぁ。密かに取り出してそっちを食べようか・・・。


「アタール君、どうだお気に召したかね。」


「あ、はい。美味しいです。」


 こんな僕でも社交辞令は言えるんだよね。でも言った限りはやはり食べないとだめだろうな。空腹を満たすために、サンドイッチをアップルジュースらしきもので流し込む。不味い食べ物って少し食べただけでなぜこんなに満腹感はあるのだろうか。こんどネットで調べてみよう。まだお皿には用意されたサンドイッチがたくさん残ってはいるが、もうこれ以上入らないというか食べたくない。


「ごちそうさまでした。ありがとうございます。」


「うむ、ワシはこのサンドイッチ不味くて好かんけどな。」


 おい、オッサンそれなら人に勧めるなよ。もう少しでアレンさんに物理的に突っ込みいれるところだったけれど、何とか持ちこたえた。


「アレン卿、馬車が用意出来ました。ヘイゼル様は玄関でお待ちです。」


 代官様がただのメッセンジャーとなって報告しにやってきた。僕はアレンさんに促されるまま、代官屋敷の玄関へ、そして馬車に乗りそのままアレンさん、ヘイゼルさんとともに騎士団の演習場というところに向かうのだった。


 あの、めっちゃ人いますけど・・・。騎士団の演習場というだけあって、そこには騎士さんが大勢居て、訓練に励んでいた。この騎士団は主に魔物と戦うための一団だそうで、魔法使いも相当数居るという。僕的には『だからどうした』という話なんだけど、そうは言えないので、ヘイゼルさんの話を頷きながら聞く。


「アタール様は相当な魔法使いだと噂でお聞きしております。どうでしょうか、少し演習に参加していかれては。」


 いやいや、騎士団と対峙するとかないです。しかも対人では盗賊と戦った・・・いや戦ってさえいないし、対魔物でも・・・うん戦ってないね。どちらかというと捕獲か実験という名の虐殺しかしてない。


「いえいえ、僕は戦うのは苦手で、逃げるのが専門です。僕が参加しても演習にならないですよ。」


 謙虚なわけではない。こんなところで手の内をさらすわけにはいかないというか、そもそも僕のは戦いじゃないから。ここはこの話から遠ざける話題を投げるしかないね。


「それより、魔道具、そのアート様も乗られた走る箱、『車(くるま)』といいますが、どこで出せばいいですかね。」


「おお、そうだな。演習場の奥に騎乗演習する広場がある。そこでいいか、ヘイゼル。」


「そうですね。あそこならば広いですし馬車も高速で走れますからちょうどいいでしょう。」


 うん、ふたりともこの話題に乗ってきた。騎乗演習か、対魔物でどんな戦い方があるのかは興味はあるけれど、僕の対魔物戦術には何の参考にもならない気がするな。戦術というにはおこがましいけれどね。


「サー・ヘイゼル。到着いたしました。」


 御者さんが御者台から振り向きながら馬車の中に声をかけてきた。アレンさんとヘイゼルさんが一緒にいるとき、ヘイゼルさんは『サー・グディモフ』じゃないんだな。


 さて、どうやらもう騎乗演習場に到着したようだ。僕たち三人は馬車を降りる。周りを見渡してみると、牧場のような場所だった。ちょっと違うのは競馬場のようなトラックがあったり、ところどころに木製のバリケードが置いてあるくらいだろうか・・・なんか全然別物に感じてきた。うん、牧場じゃない。これは騎士団騎乗演習場だね。

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