第42話 初依頼受注?

「以前も言いましたが、お金や家賃に関しては要りませんよ、とは行かないですよね。施されるだけというのは、その方の自尊心を尊重しないことになりますから。しかし、皆さんに無理はしてほしくないですし。難しいところですね。僕ひとりでは判断つかないなぁ。」


「それではこの事も一旦、こちらで住民に負担少ない範囲を調べてからまた相談します。」


 うんうん、それでいいと思う。納得していると、マキシムさんが冒険者登録をした方々について話してくれる。


「冒険者になった者たちも、そこそこ稼いどるぞ。しばらくすればみんな平均的な冒険者くらいの収入は得れそうじゃ。元冒険者の者たちが張り切っておっての。あいつら新人教えるのがうまいんじゃわ。」


 スラム地区はうまく回っているらしい。よく聞いてみると、未成年の子供たちも、商店や職人の手伝いで稼いでいるという。報酬の方も、平民になったというよりも、身ぎれいになって、読み書きを学び始めているせいもあって、今までのおやつ程度ではなく、キッチリと払ってくれるそうだ。もうほんと、スラム地区はこの方たちで回していけば間違いないと思うよ。最近は教会の方々も孤児院の子供たちを連れて毎日、湯浴みに来るそうだ。シスターさんとかも湯浴みしているんだろうか。それは是非ともご挨拶させていただかなければ・・・。


「それじゃとにかく、みんなに任せた。まったくもって問題ないですよ。あ、それと僕、あまり居ないかもしれないですが、この地区に家を建てようと思ってますので、よろしくお願いします。」


 すみません、言い方が悪かったです。エフゲニーさんを除くみんなが僕の家を建てる算段を付けに飛び出して行った。「よろしくお願いします。」は、依頼の意味じゃ無いんだよみんな。まあ、どんな建物でも後で結界をかけるし、みんなが住んでいる家くらい有ればいいということで、あとはお任せ。その旨エフゲニーさんにお伝えしておいた。お金は余裕で残っていたが、減った分の金貨を追加して、飛び出していったみんなが帰ってくるのも待たず、小屋を後にした。


 衛兵さんの用ってなんだろう?などと疑問を浮かべながら職人区を歩いていると、後ろから、


「アタール様、やっと見つけました。」


 と、息を切らした衛兵さんが声をかけてきた。そんな、消えて居なくなるわけじゃないんだから、そこまで息切らさなくてもいいのに。と思ったけど、僕消えて居なくなります。はい。


「何かご用でしたか?宿やダフネさんのお店でも、僕を探していらっしゃるとお聞きしましたよ。」


「と、とにかくまたご面倒でも、代官屋敷までご同行願えますか?」


 うむ。ミゲルさんはいい人そうだから問題ない。スラム地区の件でもいろいろ便宜をはかってもらったし、ここは素直にお伺いする。でも、面倒事じゃなければいいんだけどな。


 前回同様、衛兵さんの後を付いて行く。でも今回は先ぶれ無しなんだけど良いんだろうか。偉い人に会いに行くときは、先ぶれを出した後にお伺いするって小説に書いてあった気がする。僕が気にすることないか。貴族でもあるまいし。


 門番さん、ここでは代官屋敷の門番さんだけど、衛兵さんが取り次をお願いしてる。ひとりの門番さんが屋敷に走っていくと、すぐに使用人の方が迎えに来た。相変わらず男性。あまり待つこともなく執務室に通され、すぐにお茶とお茶菓子も用意された。


「なんだか急に呼び出してしまったようですみませんね。数日姿が見えなかったようで、衛兵たちがあちこちで声をかけてしまい、ご迷惑ではなかったでしょうか。」


 ミゲルさんはあいかわらず平民の僕に対して丁寧な言葉遣いだ。別に迷惑じゃない。まあ、呼び出された内容次第だけど。


「早速用件なのですが、アタール様を見込んで、お願いがあります。とはいっても、簡単な用件です。こちらの書類をジャジルのジニム辺境伯様に届けていただきたいのです。」


 僕の前に分厚い封筒が差し出された。封蝋がされているので、中身は見ることができないけども、これって早馬で送ったほうがいいのでは?ジャジルまでは100km程度だから、1日で届けることができるだろうに。なぜ僕に持って行かせるのだろうか。


「疑問に思われるのももっともです。」


 顔に出ていたようだ。


「今回、ジニム辺境伯様のご依頼なのです。私が推測するのもおこがましいですが、おそらく、辺境伯様がアタール様にお会いになりたい、おそらくそれだけの理由だと推測します。サラハの街はご存知の通り、領内でも特に平和な街でして、それは辺境伯様がこの街に目をかけていることで治世が安定しているということでもあります。その分、報告などの相互連絡は日常早馬で行っております。そのやり取りの中で、辺境伯からの手紙にはスラムの件で頻繁にアタール様のお名前が出てきておりましたので。」


 ミゲルさんもセバスチャンだな。いやこの人は貴族か。ご主人様側だ。ジニム辺境伯が僕に会いたい理由って、そりゃ珍しい物見たさだろうな。ジャーパン皇国の話とか、周りの貴族も王様でさえも誰も知らないからな。だって僕の創作だもん。


「承りました。僕は普段、徒歩で旅、その移動をするのですが、それは問題ないですか?すこし時間がかかりますが。」


「問題ありません。もしもご希望でしたら、馬をお貸しすることもできますし、馬車をご用意することもできますが、どういたしますか?馬車ならば日の出頃に出れば、途中馬を休める時間をゆっくり取って、夜半には到着できますが。」


 もう依頼じゃなく、単なるお客様だよね。依頼料も破格の大金貨1枚。経費込みらしいけど。なんだかおかしいよ。僕への待遇おかしいよ。貴族様にははした金なのか?徒歩でも3泊4日か4泊5日で余裕で行けるわけだからね。あ、馬車用意した上に、御者とか護衛雇ったりするとけっこうかかるのか。いやいや、平民の平均年収ひと家族150万円相当、大銀貨3枚ほどだって言ってたよね。これ、大盤振る舞いで怖い。ジムニ辺境伯様にお会いしたら、この厚遇の件も聞いておかなくては。


「それでは、いつものように徒歩で参りたいと思います。僕は収納魔法が使えますので、書類はそこにお預かりします。」


 ミゲルさんが収納魔法に驚くと思ったけど、まったく驚いた様子はない。まあ、代官様なら、収納魔法がつかえる商人さんとも多数面識があるか。書類をお預かりし、ミゲルさんの前でインベントリで収納した。ちゃんと<インベントリ>は唱えたからね。とにかく街から出る理由ができたし、本日出発ということにして、島で造成作業したり、ちょっと空飛んで、ジャジルの近くで転移場所探したりしておこう。


 来る時とは逆順、スラム地区、ダフネさんのお店、宿の順でジャジルの街に依頼で赴く件をお伝えして歩いた。辺境伯様宛というのは秘密だ。スラム地区では、マキシムさんとイワン一味が護衛で付いて行くと煩かったが、何とか説得できた。あと、いよいよ宿は引き払った。差額を返金してくれるということだったが、じゃぁそれは店員さんのチップとして貰ってください。というと、初めて営業スマイルではない満面の笑みを浮かべていた。現金なヤツめ。


 念のため行きたくはないが、冒険者会館にも顔を出し、オッサンしかいない受付でセルゲイさんに、代官様からの直接依頼で冒険者ギルドを通さない依頼ですみませんと謝罪して、一応日程を報告しておいた。なんだか冒険者ギルドには、既に通知があったらしくて、ギルドの天引き分も既に入金済みだそうだ。至れり尽くせりだな。ジャジルに着いたら、必ず向こうの冒険者ギルドに顔を出すように言われたので、ちゃんと伺いますと返事しておいた。


 珍しくすぐに開放されたので、そのまま街門に向かう。これが冒険者としての初依頼受注だよね。書類届けるだけの仕事だけど。僕は門番に冒険者のギルド証を提示して、さっそうとサルハの街を後にした。

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