第18話 異世界、傾向と対策(対策)。

 まず、異世界の文明程度は中世ヨーロッパくらいで間違いないと思うけれど、中世ヨーロッパと言っても、やたらスパンが長い。それこそスプーンやフォークを使わない食事風景も、その頃にはあったそうだけど、結界守の村では普通に使っていたし、窓ガラスのようなものもあった。


 工業レベルはそこそこ高いのかもしれない。明日異世界転移したときに、向こうで調べるというか、主にダフネさんにお聞きする内容の一覧を書き出しておく。


 一般的に必要な知識と、ただただ知識欲に駆られたものは、明確に分けるべきであろう。たとえば、異世界の方々が、地球のように、その星を名付けているとは思えない。


 しかし、衛星には『月』のように、名前がついているだろう。そういった、知識というより、まずは一般常識の拡充をする必要性があるだろう。


 暦:年、月や曜日といった概念や日付。もし、西暦のようなものがあれば、その暦。安息日のようなものの有無。


 宗教:一神教なものがあればそれ。また洗礼などの有無と宗教に関する一般常識。

 成人年齢:まあ特に大切ではないけれど、知っておくべきだろう。特に女性の結婚可能年齢とか。


 現存人種:人間種の呼称や、その他亜人種の呼称。魔族とかいれば、そちらも。念のため交配の可不可も聞いておきたいな・・・。


 法制度:一般人が普通知っている範囲。


 教育制度:あまり、低学歴とは思われたくないので、もし一般的な商人の子弟が受ける教育があるなら、似たような学歴としておきたい。


 奴隷制度について:あくまで仮定だけども、守秘義務契約的な魔法があり、それが強制できるのならば、自分の活動が制限されない範囲で奴隷を持つことも考慮に入れる。決して猫耳に限定しない。


 医療について:治癒魔法あるのかな・・・。医師の資格などの有無についても知っておきたい。


 貴族・役人について:貴族・役人の権力や、その及ぶ範囲。


 ファガ王国の一般常識全般:上記と重複するだろうけど、必須知識だと思う。


 魔法について:一般的に認知されている魔法とその難易度は必須知識。


 魔法使いの社会的地位:冒険者や一般市民のなかでの、魔法使いの社会的地位や立ち位置について知っておきたい。


 僕のことどう思う?:異世界ではエゴサができないから、ぜひとも最低限今の僕の他人からの評価を知っておきたい。


 そのほかの事項については書物でしらべたり、世間話の中で聞き出せればよいだろう。今のところはダフネさん一家頼りだけども。また新たな出会いがそうそうあるとは思えないというか、あの時立往生していたダフネさんに声をかけた自分の積極性に今は驚愕している。


 知らない人に普通声なんてかけないよね?


 できれば、サシャさんくらい、放っておいても勝手にいろいろな知識を開陳してくれる方とお知り合いになりたくはあるけれど、相手の性格など実際話してみないとわからないからなぁ。今後の大きな課題だ。


 質問事項はそれでいいとして、巻き込まれ転移者として接する範囲の規定をしてみる。ダフネさん一家はもとより、冒険者ギルドに関しても既に情報を与えているのでよいとして、極力口止めの方向でいく。


 理由はもちろん、説明するのが面倒だし、変な注目を浴びたくないから。このド田舎の日本の拠点と同じくらい平和に暮らしたい。今後も説明する機会は何度かあるだろうが、自分から進んで巻き込まれ転移者であることを語ることはしないようにする。


 拠点と言えば、住まいをどうするか。今の宿暮らしは正直言って、とても気を遣う。気軽に転移できないというか、現状だと、いちいち宿に帰る必要がある。


 かといって、異世界生活1週間足らずで、拠点を決めてしまうのももったいない気もする。また拠点を作ったあとの異世界遊覧時、サラハの街を長期間空ける事って、怪しまれたりするんじゃないだろうか。リスクヘッジのためのネガティブ思考は大切だ。


 もしどこかに、寒村なんかがあったら、そこに拠点を持つのもいいかもしれない。それこそ人が住んでないくらい思いっきり寒村。廃村ともいう。


 このあたりは、村関連の統治制度について知る必要がある。ひとり住まいで村を名乗ることができれば最良だ。あとは先ほども挙げた、奴隷なんかに村の管理をしてもらって、僕は放浪し放題、転移し放題。ああ、妄想ってものすごく捗るね。現実ではそんなにうまくいく気がしないのは何故だろうか。


 いや、僕の妄想を具現化するためにこそ魔法の力があるのだ・・・?


 どこかで、建築とか開墾とかの様々な村おこし便利魔法を確かめてから、この計画は進めていこう。


 さて、あとは職業というか、お金を稼ぐ方法。貨幣自体は、デュプリケートでいくらでも複製できるのだけれども、どこで稼いだか説明できないお金は、日本でも異世界でも怖い。


 だいたいこういう不正なビジネスはそのうちなにかしら発覚して、塀の中にさようならしてしまう確率が高いと思う。最悪透明化と転移の魔法で逃亡という手段もあるにはあるけど、そっちの方も、お縄になる原因をデュプリケートしているだけな気がする・・・。


 ここいらは、元冒険者で、現商人であるダフネさんの意見を聞こう。


 もし、冒険者や商人が、合法的かつ気軽に領や国をまたいで移動できるならば、どちらかを正式な職業にする。駆け出し商人として、そして冒険者希望者として真摯にお聞きすれば、悪い結果にはならないだろう。


 とにかく、何もかもダフネさんおよび、ダフネさん一家頼りではあるけれど、今後の方向性としてはよいのではないだろうか。


 予定は未定であって決定ではないという言葉は、聞いたことがある。なので、実際には臨機応変。小修整を重ねていくことになると思うが、これで大まかな異世界生活対策案は出そろったのだが、次は日本での問題も解決する必要がある。


 これも、長期間家を空ける可能性に対するものだ。公共料金、ネット料金、クレジットカード引き落としとかそういうのは心配していない。ようするに、人間が対面する必要性のある事項についてだ。


 いつお伺いしても、どなたも家から出てこない、スマホに電話してもいつも圏外、これは社会人としてさすがにまずいのではないだろうか。


 なので、人を雇用することを念頭に入れる。急ぐわけではない。信用できて、僕のテリトリーに関して侵害してこない、人格的に人間のできた方。できれば女性。そういう方を応募したいと思う。


 しかし、こんな寒村まで通勤してくる方がいるのかどうかの方が心配・・・いや、居ないだろうな。かといって、住み込みというのには、僕に抵抗があるんだよな。なので求人については、異世界生活での方向性が決まるまで保留しよう。


 とにかく当面は、日中は異世界、夜は自宅というサイクルで回す。なるようになるだろう。


 各種一覧とメモを書き上げた僕は、スマホにデータを転送して、どこでも閲覧、編集、追加ができるようにする。重要なものはToDoリストに入れておくのも忘れない。


 あとは、スマホのカレンダーに、今日までの簡単な出来事を記録するとともに、住所録に異世界カテゴリを作って、今まで知り合った方々を追加しておく。電話もメアドもないけどね。


 最後に満を持して【エルフ村】に、異世界で撮った写真をアップロードする。ハンドルネームはエルフの村の村長ではなく、アタールで新アカウントを発行してみた。


 国内法的にも自サイトの規約的にも、被写体の無許可写真はダメなんだろうけど、まあ異世界の写真だし、そこいらは問題になることはないだろうが、念には念を入れ、いつでもアカウントとともに削除できるようにとの対策である。


 街の風景や、猫ミミをメインに上げて行く。一応冒険者ギルドの職員さんたちの写真も載せる。カメラ目線の彼らは、まさしく異世界コスプレイヤーに見える。


 いろいろな妄想に時間を費やしたため、時間経過は早い。寝る前に電子メールと郵便物のチェックを行い、入浴の後床に就く。いまのところ日本では何の問題もない。


 明日起きたら、宅配BOX(倉庫)の発注の後に、異世界転移だ。

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