教師の原さん

 教室はガヤガヤと騒がしい。いつものことだ。

 いるのは同じくらいの年齢の子供ばかりだ。

 見えるだけでいろんな形の耳があるし、角持ちも、翼持ちも居て、種族の数を数えるのも面倒だ。数えたところで何か分かるわけでもないし、数える気はないけど。


 教室の後ろのほうの席からぼーっと辺りを見る。

 耳が顔の横についてる種族と、頭の上についてる種族で分ければ半々くらいかもしれない。

 耳が横についてる種族の中でも、角も翼も、尻尾まで何もない種族が少しだけ多い。

 見た目からすると猿獣人だと思うんだけど、そう呼ぶのはダメなんだそうだ。お母さんがそう言っていた。尻尾がないからダメなんだって。猿獣人には尻尾がある。尻尾がないから劣等感を持っているのかもしれない。

 別に尻尾があったって、何かに使うわけじゃないんだし、関係ないと思う。

 でも胸の大きさでも似たような話を聞くから、気持ちの問題っていうのは難しいよね。


 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムが鳴るとみんな慌てて席に着く。

 そうすると自然と騒がしかった教室も少しだけ静かになるけど、まだ近くの席の人と話をしている人がいるから静かともいえない。


 ガラガラと音を立てて扉が開くと、話をしていた人たちも一斉に静かになる。

 教室に入ってくるのは原先生だ。

 ゆったりしたローブ姿なのはいつもと一緒。顔といわず手といわず、全身が包帯だらけなのもいつもと一緒。

 初めて見たときは、大怪我してるのかと心配になった。けど今は平気。原先生はそういう種族なんだって、よく分からないけど。肌が弱いから包帯がないと出歩けないみたい。


「はい、みなさんこんにちは。今日の魔法講座は理論のお勉強です」


 理論かー。理論ってことはお話を聞いてるだけの時間ってことだ。聞いているだけなのはとても退屈なので嫌い。もっとバンバン魔法の練習をしてすっごいことが出来るようになりたい。


「理論を知り、効率的に魔力を使うことで魔法の効果を高めることが出来ます」


 本当だろうか。

 魔法を使う授業だと、種族毎に分かれてやることもあるし、使える属性毎に分かれてすることもある。そのくらい種類が多いし、一人が使える魔法は少ない。

 だけど、火を付ける魔法は料理には欠かせないし、灯りの魔法がなければ夜はまっくら。だから魔法道具を使って火を付けたり、灯りを灯したりして生活している。


「例外は生まれながらの特性です。それは種族の違いであることもあれば、同じ種族でも違う特性を持つ場合もあります。その場合でも、親子では同じ特性を持つことが多く……」


 やっぱり生まれつき違うんじゃないか。

 それなら、やっぱり理論のお勉強は退屈だ。もっとすごい魔法が使えるようになるならがんばってみてもいいけど。


「有名なところだと魔力視というものがあります。魔法は使った瞬間に光を発するのは……」


 なんか眠くなってきた。

 気持ちだけ前の席の影に隠れる。


「色というものは、人によって2種類から3種類の組み合わせで見えることが分かっており、魔力は4種類目の色として……」


 ゆったりとした調子のまま話続ける声は、なんか、ゆったりとしていて……。


 ……


 パッと目を開く。目を閉じた記憶はないけど、開いたってことは閉じていた? 分からないけど、なんか開いた。開けた。

 開いた目の前には、なぜか原先生がいる。今さっきまで教室の一番前にある教卓の所でお話をしていたのに、いつの間にここに来たんだろう。

 とりあえずニッコリと笑ってみる。お母さんも笑顔は最強って言ってたし。


 パコンッ。


 でも原先生に叩かれた。

 痛くもなんともないけど、叩かれた事実でちょっと凹む。なんでよ、わたし何もしてないのに。授業なんてどうでもいいから寝てやろうかとも思う。

 そうは思っても、叩かれたせいで眠気もないままに授業が終わる。命拾いをしたわね。もう、私が本気になったら授業で寝るくらいなんともないんだからね。


「桂木っ、帰ろっ」


 私は決意した。

 もう今日は買い食いをしないでは済まないと思わない? そうよねっ!

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