第4話 メイドさんとお出かけデート①

「ふふ、お母さん。娘が二人できた気分でうれしいわぁ」


 るんるんな気分で前を歩き、こちらを嬉しそうな顔で見てくる私のお母さん。私達は近くの大型のショッピングモールに買い物に来ていた。人が賑わう中、お母さんは恥ずかしげもなく子供のようにはしゃいでいる。


 今日、お母さんとは二人で買い物に行く予定であった。だからこうして一緒にいるわけなのだが、今は事情が違う。


「お嬢様危ないですよ、あまりふらふらとされては」


「は、はい!!? ありがとうございましゅ」


 なんと私の横には、メイドさんとなった水瀬華蓮(みなせかれん)先輩が寄り添うように歩いていたのである。


 私はお母さんと水瀬先輩の三人でショッピングモールに来ている。今まさにつまずきそうになった私を先輩は体で優しく支えてくれた。


 こんな近くに先輩がいて、一緒にお出かけなんて信じられない。というか周りからの視線もすごい気がする。視線の原因は当然ながら先輩である。私は緊張のあまり顔を赤らめてしまう。


「ごめんね、華蓮ちゃん。その子、案外おっちょこちょいだから」


「いえ、メイドとして当然の事です。お嬢様の身の安全を第一に考えるのがメイドの努めです」


「ふふ、仕事熱心ね。でも今日はプライベートだからそこまで気張らなくてもいいのよ?」


「いえ、それは出来ません。どのようなときでもお嬢様と寄り添うのがメイドです」


「は、はぅ」


 は、はずかしい。なんてことをいうんだ先輩は。よくそんなセリフが言えるなと思いつつも、先輩は恥じらいも一切見せず、真顔でそう言ってのけるのである。嬉しく思うのだけど、なぜここまで私なんかを支えてくれようとするのだろうか。


 実際問題、私は先輩と面識はなかったはずだし。


「う〜ん、華蓮ちゃんはけっこう頑固強いのね。まぁこんなにしっかりとしたメイドさんがいれば咲ちゃんも大丈夫ね。とは言っても無理はしちゃダメよ」


「はい」


 お母さんも先輩の信念に困惑しつつ、根負けしていた。しかし気を取り直すと、お母さんは買い物の行き先を聞いてきた。


「じゃあどこから回ろっか? 華蓮ちゃんと咲ちゃんはどこがいい?」


「いえ、私はお嬢様が行かれるところでしたらどこへでも」


「う〜ん、わ、わたしはやっぱり服かなぁ? このところ買いに行く暇なかったし」


 その瞬間、ぴこんと水瀬先輩の髪の一部が跳ねた気がした。そしてがしっと私の両手を掴んできた。


「お嬢様!! 是非行きましょう!! きれいで美しい服は女性の嗜み!! お嬢様のかわいさに更に磨きがかかります」


「うえ、ちょっちょ!!」


 先輩に真正面から迫られて顔がますます赤面してしまう。めちゃくちゃいい匂いがするし。甘くて爽やかな匂いだ。これは先輩独自の香りなの?





「あああああ〜〜〜〜!!!!」





 そんなときだ。急にお母さんが大声を上げた。


「ど、どうしたのお母さん?」


「どうされました、お母さま?」


「ご、ごめんね、咲ちゃん。実は今日食品売り場の方でバーゲンセールやってるの。それ忘れていたわ。あちゃ〜〜」


「えぇ!!?」


 何ということだろうか。せっかくのお母さんとの買い物でなのにまさかのバーゲンセールが今日やってるなんて。確かにバーゲンセールは見逃せないし、仕方ないけど、ショッピングを楽しむ予定がなくなるのは嫌だ。


 そんな気持ちを察したのか、お母さんは先に言葉を発した。


「大丈夫よ、今から私だけで買いに行くから。二人で買い物楽しんできて!! お金はあげるから!!」


「えぇ、お母さん、それじゃ私先輩と二人っきり!!??」


「そりゃそうに決まってるじゃない。お母さん同伴できない分、美味しいものたくさん買ってくるから!!!」


「そ、そんな……!!」


 私の意見も聞かず、お母さんは財布から一万円札を出すと私に手渡して、水瀬先輩に『咲ちゃんをよろしく』というとそのまま猛ダッシュで食品売り場へと走っていった。


「あぁ……」


 私はそう言葉を漏らして、あっけに取られながら、お母さんを見送った。


「大丈夫ですかお嬢様❤」


「ひゃ!?」


 そんな私に先輩は両手を肩において私の耳元に顔を近づけてくる。


「お嬢様、いつまでも悲しんでいられません。お母様は私達二人で買い物をと指示されました。これは従うほかありませんよ❤」


「せ、先輩……」


 指示に従うって、さっき無理しないでというお母さんの言葉を頑なに拒んだのに、なんでこのお願いは素直に従うのですか先輩。


 というか先輩の密着度がやばいです。背中に胸があたってるし。鼓動がずっと鳴り止みません。


「ふふ、さっそくお嬢様のお召し物を揃えましょう❤」

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