第33話  Main temple of Besakih temple(ブサキ寺院本殿)

ブサキ寺院はまだまだ先があるから、このバリヒンドゥーのメッカの空気を思いっきり体にチャージしたいと思った。


僕たち四人は、更にブサキ寺院の本殿へ向かい歩いて行く。その参道の両側には、バリ島の陣でよく目にする三段の傘があった。目にする色は黄色と白の傘が交互に並んでいる。

なんだか気が引き締まる感じがする。


僕の目の先に見えるブサキ寺院本殿であるプラタナ・アグン・ブサキ寺院は、バリ島の神聖な太陽の光を浴び、参道の両サイドにはブーゲンビリアのピンク色が、極楽浄土へ向かう道乗りのように感じた。ふと、僕はまだまだこの世でやらなければならないことがたくさんあると思い、意識を僕の体の中に戻した感じだ。


エディ「このブサキ寺院の本殿であるプラタナ・アグン・ブサキ寺への参道は、何だか極楽浄土に導かれているように感じますね。」


山田「俺もそう思いました。なんだか時間の流れる速度が違う感じがします。もともとバリ島と日本とでは、時間の流れが違う感じがありますが、それをさらに超えている流れの速度を感じますね。」


ヘルマワン「下から登ってくる途中、振り向き下界を眺めるこの景色は、なんだか心落ち着きますよね。実際に極楽浄土がこのような風景だったら兄もきっと満足していることでしょう。」


僕「そうだよね。マルチンもきっと満足しているよ。僕はそれを願います。」


僕、山田、エディ、ヘルマワンの四人は、このブサキ寺院の神聖で高貴な空気感に包まれて幸せを感じていた。先ほどのスコールの雨粒がブーゲンビリアの花びらにかかり、その雨粒からは、バリ島へそそぐ太陽の光が反射し輝いていた。その光景は、まさに人間の業を浄化しているように、僕には思えた。


エディ「酒井さん、山田君、ヘルマワン、ようやくブサキ寺院のメインのお寺であるプラタナ・アグン・ブサキの敷地内に到着しました。ここからの景色は、絶景ですよ。この先に本殿があります。」


僕はエディにそう誘われ、今まさに登ってきた参道を振り返った。そうすると、どうだろうアグン山の中腹にあるブサキ寺院からの眺めは、まさに極楽浄土へ到着したような景色だと感じた。


青空のブリリアントブルーとブサキ寺院を囲む新緑のミントグリーン、それとブサキ寺院の建材の苔むした石材と木材の風格との三位一体のコントラスト。まさにその景色が僕たちの業を浄化し、すがすがしい気持ちにしてくれる。


僕の目の前に先ほどと同じ蝶かわからないが、コバルトブルーのきれいな色のアゲハチョウぐらいの大きさの蝶が今度は5匹群れをつくって舞っていた。その景色には、どんな意味があるのだろう。それはまさに魂が天へ召されていくような景色だと僕は感じた。なぜだかわからないがその蝶を見ていると、僕は、理由はわからないが自然と涙が出てしまった。


山田「酒井さん、なんだか幸せになる光景ですね。ここがバリヒンドゥー教のメッカといわれるのも、なんとなくわかりますね。日本人の俺ですら、この雰囲気になんだか感動しちゃっていますよ。」


僕は山田の言葉にただうなずいた。僕は山田の顔をふと見た。山田の目頭もなんだか熱くなっているように思えた。山田のその横顔がなんだか僕の心に印象深く焼き付いた。


ヘルマワンは、もう一度マルチンにもこの景色を見せたかったに違いないと思った。僕たち四人には、それぞれの思いが、今、それぞれの心の中にあるんだと僕は思った。


僕「ようやく到着しましたね。ブサキ寺院本殿のプラタナ・アグン・ブサキ寺院へ。なんだか神妙な気持ちになりますね。何といったってバリヒンドゥー教のメッカですからね。ここからの景色も、なんだか天上界といった感じですよね。」


エディ「そうですね。バリヒンドゥー教のメッカのブサキ寺院ですから、なんだか空気感も下の世界とは違った感じを受けますね。」


山田「この景色は本当に素晴らしい。俺、なんだか泣けちゃいますよ。感動して。」


ヘルマワン「この景色は天からの贈り物って感じですよね。兄も僕を通してこの景色を見ることができ、満足していると思います。」


先ほどのコバルトブルーの蝶の1匹が、僕がブサキ寺院本殿へ向かう間も、ずっと僕の頭の上について舞っていた。僕はふと感じた。この蝶はもしかして大海原の女神の化身ではないかと。


というのも虫というのは、神々の化身であったり、あの世からのメッセージを伝える媒体として現れるといわれているからだ。僕の祖母も虫は神様のお使いだから、決して無下に殺したりしてはいけないといっていた言葉をふと思い出した。今回のこの蝶はまさにその役割をもって、僕に近づいてきているように思えた。


ブサキ寺院の本殿の周りは一周回れるように石畳で舗装されていた。僕たちは、その石畳を道順に沿ってブサキ寺院の全貌を堪能した。ブサキ寺院の周囲には、南国の樹々やきらびやかな花々の植栽で飾られていた。この散策では、僕の体内へブサキ寺院から放たれているエナジーがヒシヒシと伝わってくる感じがしている。


山田「酒井さん、ブサキ寺院の本殿の周りを散策していると周りの植栽から、生命のエナジーを受け取れるようですね。俺、この空気感、大好きですよ。」


僕「山田君。僕ものこの空気感ってなんだか人間本来、持ち合わせているエナジーを調整し、バランスを整えてくれるようですよね。ピアノの旋律のような感じですね。体内から人間の業という毒素を排出してくれるようですよ。」


エディ「酒井さん、山田君、ここはなんだか落ち着きますよね。」


ヘルマワン「先ほどコバルトブルーの蝶が、酒井さんの後をついてきているのが、見えた感じがしたんですが、僕の気のせいでしょうか。」


僕「ヘルマワン、実はその蝶は氏寺を参拝した時から僕に見えてきて、ずっとついてきているんだよね。時々、消えたりするんだけどね。」


山田「そうなんですか。俺、全く気が付きませんでしたよ。」


僕たちはそんな会話をしながら、ブサキ寺院の素晴らしい建設技術、雰囲気、悠久の時間の流れを、思いっきり体を媒体として楽しんだ。


長い年月を超え何年もの間、ずっとこのアグン山の自然の中に佇んでいるブサキ寺院は、ホント、見ごたえのある寺院である。バリ島の人々が大切にしている理由がわかる気がする。


また、ブサキ寺院では、10年に一度しか行わない祭事があるという。僕もいつかチャンスがあれば、その祭事に参加できればいいのにと心の中で思った。僕は、なんだかそのチャンスもいつか訪れるような気がする。ブサキ寺院のすがすがしさを体に秘めながら僕たちは駐車場へ向かった。僕たちは先ほど車を止めた駐車場まで戻り、いざ次の目的地であるランプヤン寺院を目指すことにした。


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