第29話 The border between the two worlds(2つの世界の境)

僕と山田とエディ、ヘルマワンを乗せた車はどんどんと山道へ入っていく。坂道をどんどんと下ってく。気が付くとアグン山の麓には到着したようだ。小川の川岸の砂利道へと到着した。その小川を4WDの車で渡っていく。なんだかアドベンチャーワールドって感じがする。


詳細を言うと、アグン山の麓から山道を登り、ブサキ寺院の入口までは、このまま車で行ける。アグン山へ入る前には、いったん谷底のようなところを通る。僕は、一瞬、これ道?という風に感じた。というのが、小川の砂利を通り対面の道へ入るのだ。橋はなく川砂利を突っ切っていく。かなりワイルドだ。


やはり、ジープ型4DW車でよかったと、つくづく思った。僕たちが通っている小川は、今は水かさが低いがスコールの雨が降れば、一瞬でこの水かさは増すだろう。そうするとこの道以外では、アグン山へ行く道はあるのだろうか。おそらく迂回路はあるだろうが、かなり遠回りになるはずだ。


バリ島ではまだまだ舗装されていない裏路地が多い。近道といわれているところは、ほとんどがこういった状態の道である。この景色もまたバリ島の旅情を掻き立てる役目があるのだろう。


小川の砂利道を抜けると、次は急こう配の坂道へと入っていく。両サイドには、南国の樹々が生い茂り、ジャングルの中を通り抜けるという言葉がぴったりと当てはまる。この道もなかなか日本ではお目にかからな道である。周りの景色もそうだが、坂道の勾配がかなりある。こんなにも急な坂道を車は登りきることができるのだろうか。


スコールが降っていたら道は泥だらけになり、その泥で車はこの急こう配をすべり、登り切れないと思う。僕と山田とエディ、ヘルマワンの4人は、ジェットコースターにでも乗っているような傾きを車内で体感している。


山田「酒井さん、この急こう配はすごいですね。まるでアトラクションに乗っているような感じですよ。」


僕「そうだね。山田君。ビックサンダーマウンテンにでも乗っている感じだよね。」


なんだかアドベンチャーツアーにでも参加しちゃった感じがした。僕は車窓から外の熱帯雨林ジャングルを眺めていた。


一瞬、何か人がいたような気配を感じ取った。僕はその気配を感じた方向へ意識を集中してみた。そうすると、一人ではなく何人かの人の行列であった。今日は祭りでもあるのかと思った。みな正装をしていたからだ。


僕「エディ。今日はブサ寺院かこの辺りでお祭りか何かあるんですかね。バリ島の正装をした人の列がありますよね。」


エディ「酒井さん。どこにですか。そんな人の列ってどこですか。」


僕「僕たちの乗っている車のすぐそばだよ。見えない?」


エディ「見えないですね。」


ヘルマワン「僕にもわからないです。」


僕「またまた。」


山田「俺にもわからないです。」


ということは、この人の列は僕にだけ見えているってことなんだと思った。ここは神様の棲む島、バリ島である。そういったことも珍しくないと思った。


その列を僕が見ているとその列の中ほどに歩いていた若い男性が、僕の目とあった。その瞬間、その男性の意識が僕へインスピレーションを送ってきた。その列に参列していた男性は、こう伝えてきた。


男性「この列は、僕の母の葬儀の列である。母は病気で亡くなったといわれているが、実は、暗殺された」と伝えた。


僕はそのインスピレーションへどう返事をすればいいのか戸惑った。男性は続けて僕へメッセージを送ってきた。


男性「母は、村の権力者の妻で、僕はその息子である。息子の僕と母を暗殺しようとしていたが、それを察した母が僕を守り、代わりに犠牲となり亡くなった。僕はその虚しさで今も漂っている。僕は自分自身が死んだことは知っているが、その悔しい思いがどうしてもぬぐい切れない。もし、あなたが、今からブサキ寺院へ参拝されるのであれば、僕の現世を彷徨っている魂を天上界へ上げてほしい。」


僕「どうすれば?」とメッセージを僕は送った。


男性「ブサキ寺院は、バリヒンドゥー教のメッカの寺院である。その寺院へ僕の名前を唱えて参拝してくれれば、それだけで僕は天上界へ行くことができる。現世への未練はないから、名前を唱えてくれればいい。5回僕の名前を唱えてほしい。」


僕「わかった。あなたの名前をフルネイムで教えてほしい。」


男性「名前は、アグン・ヘルマワン・タナロットだ。」


僕「わかった。今からブサキ寺院へ参拝するから、5回、あなたの名前を寺院の前で唱えます。それでいいですか。」


男性「よろしく頼む。」とメッセージを僕へ送ってきた。


そのやり取りと同時に、エディは突然、僕へ話しかけてきた。そのメッセージを僕が受け取るとエディが話し始めた。


エディ「酒井さん、実は伝説でこの山道の話があるんですよ。」


僕「どんな話なんですか。」


エディ「実はこのエリアには以前、今はないある村があったんです。その村は近くの村との争いの中で、村の妃とその息子が暗殺される計画があったみたいなんです。その暗殺計画を知った妃は、息子を守るため、自分の命を犠牲にしたっていう話なんです。今では物語のように語り伝えられています。実際のところはどうだったのかは不明ですけどね。都市伝説のような感じですね。」


僕「そうでしたか。人間ってなんだか愚かな生き物だって本当に思いますよね。自分の立場を守るために、新しい権力を手に入れようとするために平気で他人の命を奪ってしまうんですよね。生きるためではなく、自身の欲のためにですね。本当に人間って残酷ですよね。」


エディ「本当にその通りです。」


山田「本当そうですね。歴史は繰り返されますけど、まったく成長していない感じがしますね。」


ヘルマワン「皆さんの言われる通り、本当に人間は愚かです。それでいて、もろいんですよね。あっという間に命は消え失せてしまいますから。」


僕と山田、エディ、ヘルマワンは、坂道をジェットコースターのように登っている車の中で、そんな話をしていた。エディから聞いた話からでは、僕がインスピレーションを受け取った内容は、間違いないように思えた。それと同時に、今、僕たちが走っている車の状況も、もしかして僕たちの車自体がタイムトラベラーの役割をしているのではないかと感じた。僕はその光景もなかなかなおつなものだと思った。


僕たちを乗せた車は、熱帯雨林のジャングルと通り抜け、ようやく坂道を登り切り舗装された道路へと入っていった。僕は、ほっと一安心と感じた。


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