第27話 青年もドッキドキだったけどそれ以上に彼女もドキドキしていた
五人の冒険者は進路を北西に取り、街道を進む。
この辺りまで来ると街道だと言うのにかなりの頻度で怪物の襲撃に遭う。
もっともハジマリの村サイショノ村で「異世界の旅人」と呼ばれ、王国の伝説にある「次元の回廊を越えてきた救世主」であり、光の巫女王女クリスティーンをさらった魔王には「光の巫女の守護者」と言われたレイトを筆頭に(二つ名多いな……)過酷なダンジョンを生き抜いてきたアマゾネスヴァネッサ、国王にこの王女奪還任務を託された女騎士ソフィア、最高司祭アデルグンティスの娘聖女ビルヒルティス、大賢者バガナスが自分の代わりにと送り出したハーフエルフのアシュレイというそうそうたるメンバーがちょっとやそっとの襲撃にブルうはずももなく、わりと問題なく撃退していく。
(これだけ敵を倒せばそろそろレベルが上がってもいい頃なのにな……)
ヴァネッサ、ソフィアと物理攻撃で文字通りロックゴーレムを粉砕したレイトが声に出さずにつぶやく。
あー……そこに気づいちゃいましたか。
(これはあれか? 謎システムで強くなっていた今までと違ってリアルで、フィジカル的に強くなれってことか? それはあれだな、結構厳しいシステムだな)
大賢者の塔からこっち、出てくるモンスターは今倒したロックゴーレムやストーンゴーレム、アンデッドのスケルトンにジャイアントスパイダー、ジャイアントアントなど虫系が多かった。
(動物系モンスターとか人型だとやっぱグロいんだろうか?)
とか、呑気に(?)考えているあたりまだ余裕があるようだ。
…………。
いやいや、スケルトンは人型だろ。
骸骨だから血とかは飛び散らないけどさ。
「それにしたってこうゴーレムばかりだといくら魔剣であっても刃こぼれしてしまうぞ」
ソフィアが心配そうに剣身を確認しながら嘆く。
改めて自分の剣を確認したレイトは言葉もない。
そりゃそうだ、レイトの剣だけ魔法の付与がない。
「うわぁ……」
それを覗き込むヴァネッサがひどく残念そうな表情でいう。
「判ってて殴ってたのか?」
「え? いや、まったく気にしてなかった」
「少しは気にしろ」
ソフィアの辛辣さはしかしクリスのそれほどレイトの心をえぐらない。
これはあれか、やっぱりレイトも女の子には甘いってことか。
……女の「子」って年齢じゃあないけど。
「仕方ない、少し急いで町に入ろう」
馬に跨ったソフィアが四人を促す。
一行が日暮れ前にたどり着いたのは町というよりそこそこ大きな村だった。
村で唯一という宿屋の親父はあまりすまなそうな表情を見せずこういった。
「すいやせん。今日は混んでまして、二人部屋が二部屋しか空いてないんすよ」
「空いてないのであれば仕方ない。ビルヒーもアシュレイも小柄で華奢だから三人で寝てもなんとかなるだろう」
「ちょっ!?」
レイトが抗議する間もなくソフィアはちゃっちゃと宿代を支払ってしまう。
まあ、村で唯一の宿で二部屋しか空いていないってんだからしゃーない。
部屋番号を教えられ、とっとと階段を上がっていく四人に居心地悪そうについていくレイト。
番号を確認してどちらの部屋も確認したソフィアは仲間を振り返る。
「さて、どうやって部屋を割り振る?」
「私とビルヒーは一緒の方がいいんだろ?」
「そうだな」
「あの……」
もじもじとビルヒーが上目遣いでチラリとレイトを見てからソフィアに言うことにゃ
「聖女として殿方と
途端にソフィアの表情が固まる。
「あっはっは! じゃあ、あたしがレイトが夜這いをかけないように一緒の部屋で番をしてやるよ」
それを聞きながらみるみると顔を赤らめるソフィア。
「す、すると私がレイトと一緒の部屋……なのか?」
ここに至ってようやく事態が飲み込めたようだ。
「そうなるね?」
ヴァネッサはソフィアを横目に見ながらニタニタと笑う。
「そ、そうなるのか……そうだな。それしかないよな……」
いや、たぶん他にもあるぞ、選択肢。
「じゃあ、あたしらはこっちな」
などと笑いを堪えながら二人の肩を抱きながら部屋に入っていくヴァネッサ。
棒立ちの二人に沈黙がおりる。
「あー、なんだ……疲れたから早く部屋に入ろうや」
レイトがそう言ったのを待っていたようにギギときしむドアを少し開け、いたずら全開の表情をうかべてヴァネッサがソフィアにささやくようにこう言った。
「襲われんなよ、女騎士」
普段、ソフィアと呼び捨てにしてるくせにあえて「女騎士」と呼称してくるあたり絶対わざとである。
しかもレイトに対して「襲うなよ」ではなくソフィアに対していうのだから意地が悪い。
ドアを閉める際に「くくく」と忍び笑う声をレイトは聞き逃していない。
ソフィアを見ると熟れたトマトのように真っ赤な顔をしている。
なんて声をかけようかとレイトが思案しているとさらにヴァネッサが追い討ちをかけてくる。
「いつまでもそんなところに突っ立ってると他の客に迷惑だぞ、女騎士」
ブルっと小さく震えたソフィアは意を決したのか、荒い足取りで部屋へ向かう。
(……なんだかなぁ)
レイトが部屋に入ると、こちらに背を向けて鎧を外しにかかっているソフィアがいた。
足のパーツ、腕のパーツとゆっくり外していくソフィア。
「……鎧って、一人で脱ぎ着できるのか?」
ふと疑問に思ったことをなんの気なしに口にしたレイトであった。
しかし、ソフィアの方はビクリとして動きを止めてしまう。
「?」
「…………」
「どうした?」
「一人では……脱げない…………」
「なら早くいえよ、手伝ってやるから」
言いながらソフィアに近づくと、ソフィアささっきよりも大きくビクリと反応する。
「あ! ああ」
その反応でようやくレイトも自分が何を言っているのかに思い至ったようだ。
「悪いな、ヴァネッサでも呼んでこようか?」
「い、いや……レイトでいい。手伝ってくれ」
(レイトでいい……か。ちょっと落ち込むなぁ)
とはいえ、落ち込む一方でドキドキしているのも事実である。
自分以外全員女性(しかも揃って美形ときてる)であることが確定した時、旅の間はパーティ内でいざこざにならないようにメンバーに手は出さいないとひとり誓ったレイトである。
しかし、そこは若い男である。
これはある意味またとない役得ともいえた。
ソフィアに気づかれないように慎重に生唾を飲み込み、腰回りのパーツを外す。
しかし、そこには誠に残念なことにゴワゴワの、金属鎧から肌を守るための味気ない革のズボンがあった。
文化水準のせいだろう、ヒップラインのまったく判らないシルエットだ。
(…………)
おい、レイト、お前今舌打ちしようと思ったろ。
気を取り直して(?)胸当てを取り外すのを手伝うレイト。
しかし、下半身である程度予想していた通り、上半身も革のジャケットだった。
「……ありがとう」
若干の気落ちも恥じらうソフィアを見られたことでいくらかまぎれたレイトは、自分も鎧を着ていることに今更ながら気づいた。
「あ、俺の鎧を脱ぐの手伝ってくれる?」
かなり長い間があって返事が返ってくる。
「仕方ない」
腕と足のパーツは自分で外し、胴体パーツを外してもらうのを待つ。
無言で外すソフィア。
なんとなく声をかけられず、気まずい沈黙の中を我慢するレイト。
(キレイな女性と二人っきりなんて、本当なら役得以外の何者でもないんだけどなぁ……)
だよねー。
そんなレイトの今日一番の役得は、前に回ったソフィアが上気した火照りを冷ますためかジャケットの胸のボタンを二つばかし外していたことだった。
(あ、でか)
下品だよ、レイト。
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