第7話 青年はなぜか一人でダンジョンを攻略させられる
ワイヤーフレームで表現された3Dダンジョンを移動するレイトとクリスティーン。
ありがたいことに頭の中でかなりはっきりとマッピングが行われている。
8bitパソコンゲームではあり得ない至れり尽くせり具合だと、レイトは感心する。
そして、しばらく歩いていると突き当たりにドアが見えてきた。
ドアの前に立ち止まりドアを観察するが、ノブはあっても掴めない。
「これはやっぱり、例のアレか?」
と、うんざりしながらドアに体当たりすると、やっぱりというべきか、ドアが開いて中へ入った。
ジャジャーン
と、いうSEがして、目の前にコボルドが二体現れた。
(そういえば、ここではBGMが流れないな)
とか、
(あれ? またモンスターが8色表示だ)
などと考えていると、不思議なことに気づく。
コボルドが動いていないのだ。
代わりに目の前にコマンドウィンドウが浮かんだ。
「なんてこった」
レイトは思わず声に出した。
ここではターン制の戦闘が行われるらしい。
レイトは頭を抱えたくなった。
何が嫌って、ターン制の戦闘はアクション型と違って、一撃必殺しない限り相手も確実に攻撃してくるんだ。
否応なくダメージをもらうことになる。
つまり、死ぬ確率が格段に上がるということなんだから、これは頭を抱えるのも当然だ。
「何をしているんですか? 早く戦わないと」
「あ……ああ、そうだね」
どんなに嘆いたってコマンドを選択しなきゃ先に進めない。
仕方がないので改めてコマンドを確認する。
「たたかう」
「ぼうぎょ」
「どうぐ」
「にげる」
の四択だ。
(防御っていいことあるのか?)
と、訝しみつつ「たたかう」を選択すると、コマンドが変わり、
「コボルド1」
「コボルド2」
が選べる。
(どっちが1でどっちが2なのか判らないんだけど……)
とりあえず1を選ぶと、何となく戦える気分になったので適当に相手を選んで剣を振ってみる。
チープなSEが鳴り、コボルドが一体視界から消えた。
次はコボルドのターンらしく、SEが鳴って胸元に殴られたような痛みが走った。
鎧様様ということだろうか?
それはいいとして、クリスティーンは攻撃しないようだ。
次のターン。
レイトは一撃でコボルドを倒す。
どうやらコボルドはこのダンジョンで最弱の存在らしい。
とか、勝手に思い込んで迷路の先へと進んでいく。
ダンジョンはなかなか広かったが、特に罠があるわけでもなくコボルドにオーク、スケルトンと定番の初期モンスターばかりで強いのはいいとこスライムくらいだった。
(とはいえ、しょせんコンピューターゲームのスライムなんだけどさ)
部屋にはほぼ確実に敵が待ち構えていて、ワンダリングモンスターもたまに出る。
配置モンスターは今の所一〇〇%先制攻撃できていたけれど、徘徊モンスターは不意打ち判定があるらしくごくたまに反撃のできない先制攻撃を受けた。
(このダンジョンが何層でできているか判らないけど、これは慎重に進まなきゃ死にかねないぞ)
レイトは自分のヒットポイントと所持品を頻繁に確認しながら進む。
もちろん、今まで同様ステータスゲージは存在していない。
視界が正面に固定されているので自分の状態を視覚的に判断することもできないので、感覚として「だるい」「重い」「痛い」「苦しい」が判断基準だ。
そして、どうでもいいが、モンスターはレイトだけを攻撃してくる。
ゲームの仕様ってことなのだろうか?
お姫様は攻撃もしなければ攻撃もされない。
(クソゲーかよ!?)
とか心の中で悪態をつくレイトであった。
やがて一通り探索を終えたダンジョンの奥に階段が見えてきた。
「ほぅ!」
それを上ると第二階層は単なるワイヤーフレームではなく、壁や天井、床がのぺっと色分けされた第一階層よりずっと見やすくなった3Dダンジョンだった。
(システムは変わっているわけじゃないのかね)
一層と違うのはまずドアを開けるのに一手間かかることだ。
ゲーム操作的に言うと矢印キーでの体当たりからスペースキーでの専用操作が入った感じだ。
もちろん、キーボードで操作されているわけじゃなくて感覚的には手で押し開くイメージなんだけども。
次に一層にはなかった罠がある。
落とし穴なんだけれど、これが見つけられない。
LINEとPAINT命令でベタっと塗りつぶされたようないっそ清々しいほどのBASICプログラム的なダンジョンは、罠を避けさせる気がない凶悪仕様だった。
ただありがたいことに一度落ちたところには二度と落ちないのが救いだ。
そして、モンスターが16色表示になっている。
さっきまでかろうじて豚っぽい何かだったオークがちゃんとオークに見えるし、黒い人型に白いだけのなんちゃってボーンがショッカー戦闘員みたいだったスケルトンもちゃんと骸骨だ。
表現力が上がってモンスターの描き分けができるよになったからか、コボルド、ゴブリンにスパイダー、スピリットとモンスターのバラエティも増えている。
代わりにスライムがいなくなった。
(そういえば、俺なんで敵の名前が判ってんの?)
確かに比較的有名どこで典型的なデザインの怪物ではあったとはいえ、ゴーストとかではなく確実にスピリットと認識しているんだよなぁなどと、変なところが気になって仕方のないレイトであった。
もう一つ、モンスターが金貨以外を落とすようになった。
そもそも亜人種扱いされることが多いコボルドやゴブリン、オーク、元人間であり実態のあるスケルトンはともかく、霊体であるスピリットや巨大なだけの虫スパイダーに金属を溶かすはずのスライムから金貨が手に入ること自体首を傾げることなのだけれど、色々とアイテムがゲットできるようになった。
スパイダーからは解毒薬が、人型からは回復薬や武具防具が手に入る。
もっともレイトが装備しているものの方が質が良いので予備の剣を一本所持しているだけで他はその都度捨てている。
第二層も一通り探索し終えたレイトは、今までとは色の違うドアの前にたどり着いた。
「いかにも何かありそうだ」
レイトはドアを開ける前に自分の状態と所持品を確認する。
レベルアップは12回数えた
装備しているのは、
鋭利な鉄の剣
鋼鉄の鎧
鉄の盾
青銅の兜
大きな背負いカバンの中には、
力の石
知恵の石
守りの石
加護の十字架
回復薬14
毒消し草6
解毒薬31
おにぎり10
金貨1,627GP
鉄の剣
(……なんで背負いカバンに剣が終われているのかは考えないことにしよう)
賢明な判断である。
レイトはいつまでもぐじぐじ扉の前にいても仕方ないと意を決し、ドアの中へと踏み入れる。
そこにはローブ姿の男だろうと思われる人物が一人立っていた。
(メイジだな。魔法使うやつだ)
今までは単純な殴り合いだった。
塔の中で一度だけウィザードの魔法攻撃は受けていたけれど、あれとこことでは多分ダメージの受け方が違うだろう。
殴り合いは強い武器と硬い防具で制してきたが、きっと防具の防御力は役に立たないとなんとなく判る。
「ええい、まだ第二階層だ。こんなところで苦戦はしない!」
本当か?
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