『迷いの森』のエルヴィラ ④ 終

 白髪男の爆弾発言からしばらく経過し、全員が落ち着いた頃に声をかけた。

「皆、そろそろ落ち着いたかい?」


「あ、ああ・・・。何とかな・・・。」


アラン王子はがっくりしながらも顔を上げた。


「彼とジェシカが関係を持っていたのは知っていたけど・・・そんな・・何回もなんて・・・。」


マシューは地面に座り込み、岩に体を預けて空を見上げて呟いている。

ノアもダニエルも同様にショックのあまり、いまだに言葉を失っているし、ソフィーは居心地が悪そうにしている。


全く、どいつもこいつも・・・。

「お前たち!いい加減にしないか!今はそんな事で動揺している場合じゃないんだよ?!私達はこれから魔王からジェシカ様を助け出さなければならないのだから。それだけじゃない、魔王の協力なしでは再び『ワールズ・エンド』の門を封印する事すら出来ないんだよ。」


するとソフィーが言った。


「あの・・・300年前に魔王は倒されたのですよね?その魔王が・・よく『門』の封印をするのに協力しましたね?」


「別に・・・協力したと言う訳では無いんだけどね?300年前、封印する際に使われたのは魔王の血液と魔力だったから・・・相手からそれを奪えばいいだけの話さ。」


私が言うと、ソフィーは顔色を変えた。


「魔王の血と・・・魔力ですか?それって・・・大量に必要と言う事なのでしょうか・・・?」


「いや、ほんの僅かで構わない。ただ・・・相手が『門』の封印に協力するとはとても思えないからねえ・・。何せ300年前の『魔界』と『人間界』そして『狭間の世界』の戦いは魔王が全ての世界を征服しようとしたのがきっかけだったからね。」


「魔王め・・・。自分の世界だけで満足せずに他の世界まで手に入れようとしていたのか?なんて奴だ。」


アラン王子が憎々し気に言う。


「魔界は・・・酷い世界だからねえ。凍てつく寒さ、荒れた大地、そして光が差す事の無い暗黒の世界・・・。だから欲しくなったんだろう?」


皆に説明しながら私は考えた。それにしてもハルカ様は・・・・何故魔界をあのような世界に・・描いたのだろうか?魔界も『人間界』や『狭間の世界』のような世界だったなら、このような事にならなかったかもしれないのに・・・と。

はっきり言えば、今の状況では勝機が見えない。

ハルカ様が・・・アカシックレコードを自在に使いこなせるようになれば・・・全てうまくいくのに・・・。自分が側にいれば力を貸す事が出来たけれどもジェシカ様は現在は魔王の腕の中。

私が今、この瞬間願う事は・・・私達が助けに行くその時まで・・決してハルカ様がアカシックレコードを所持している事が魔王にバレない事。何せ、アカシックレコードは神に匹敵するほどの力を持っているのだから—。


「おい、魔女。・・・今まで魔界から溢れだしてきた魔物達相手に俺たちは戦ってきたが・・・魔法を使って戦わなければ難しい局面ばかり目の当たりにしてきた。そんな状況で・・魔界にいる魔族たちを相手に魔法抜きで戦って・・・勝ち目があると思うか?」


全く・・・それが人にものを尋ねるときの態度なのだろうか?この男は失礼過ぎるにもほどがある。白髪の男をじろりと見ながら言った。


「いいや。・・・まず無理だろうね・・・」


「そんな!!それじゃ僕達はどうやって戦えばいいのさ。」


ダニエルが口を尖らせる。

私は300年前の戦いを思い出していた。あの時、私は当時の『狭間の世界』の王に懇願されて、魔王との戦いに参加していたのだ。だが私はこの小説の世界の語り部に過ぎない。あくまで傍観者としていなくてはならない身。だから名前を・・・姿を隠し、私たちは戦った。

そしてついに魔王の拠点である城まで追い詰める事が出来たのだが、そこで魔王が人間たちの魔力を封じ込めるシールドを張り、一気に形成が逆転してしまった。

魔法が使えなくなった人間たちは魔族たちの前に1人、また1人と倒れて行ったが、後に英雄と呼ばれるようになった1人の騎士が、シールドを張る魔力の根源である魔石を発見し、破壊することに成功。人間達に魔力が戻り・・・戦いは我々の勝利に収まったのだ。

もし・・・まだあの魔石の場所が同じところにあれば・・・同じ形状をしているのなら、私にはその場所が分かる。必ずたどり着いて、破壊できる自信がある。


「皆・・・私に考えがある。良く聞いて欲しい・・・・。これは少々危険な賭けになるかもしれないが・・・この話に乗るか乗らないかは話を聞いた後で決めて貰って構わない。聞いてくれるかい?」


「ああ、聞くぜ。魔女。」


白髪の男がにやりと笑う。


「俺も聞かせてもらう。」


アラン王子に続いてダニエルが言う。


「ジェシカは・・・・僕の大切な姫だからね。」


「僕はジェシカに助けてもらった。今度は・・・僕が彼女を助ける番だよ。」


ノアは目を閉じた。


「魔界の王は・・・僕たちの宿命の敵。『狭間の世界』の王として・・ぼくは行くよ。」


アンジュは力強く言った。


「魔女・・・。」


マシューが私の前に来て言う。


「俺は・・・ジェシカを傷つけてしまいました。あれ程恋い慕っていた彼女をいくら操られていたとはいえ・・・酷い事をして・・ジェシカの愛を失ってしまいました。こんな俺は二度とジェシカの前に立つ資格は無いのかもしれないけれど・・・俺は彼女を助けに行きます。俺は半分魔族です。だから魔界に行っても魔法を使う事が出来る。どうか・・・俺を捨て駒に使ってもらっても構わないです。ジェシカを助け出す方法・・教えてくださいっ!」


そして頭を下げた。


「・・・分かった。お前の気持ち・・・きっとジェシカ様に伝わるよ。」


「あ、あの・・・魔女様・・・。私は・・・。」


「ああ、ソフィー。お前は危険だから・・・来ない方がいい。だから神殿で、どうか我らが勝利することを祈っていておくれ?」


「で、でも・・・。」


尚も言いよどむソフィーに言った。


「聖女の祈りはね・・・・魔界にだって通じるんだ。お前の祈りが皆の力になる。だから、ここに残って皆の無事を祈って欲しいんだ。」


「わ・・・分かりました。」


ソフィーは頷いた。その瞳には強い決意が宿っていた。


「さて、それじゃ・・・説明するよ。この作戦は、我々だけでは駄目だ。聖剣士全員の力が必要だ。ソフィー。」


私はソフィーを見つめた。


「悪いが・・・全ての聖剣士・・・そして戦えそうな奴らを全員招集してくれるかい?」




数時間後―


 私たちは上空に浮かんでいる魔王の城を見上げていた。いま、この地に立っているメンバーは私、アンジュ、アラン王子、デヴィット、ノア、ダニエル、そしてアラン王子の2人の従者・・・名前はグレイとルーク。そして・・・。


「お前は誰だい?」


見慣れない兵士の姿をした男に声をかけた。


「ああ、俺はレオって言うんだ。元海賊さ。ジェシカには命を助けてもらった事があるんだ。そして、約束したんだ。ジェシカがたとえどんな場所に閉じ込められようとも・・・必ず助けに行くからなって。」


「そうかい・・・。本当にジェシカ様は・・・皆に慕われていたんだね。よし。それじゃ・・いいかい?皆。我々は先発隊・・いわば囮だ。恐らく我々がこの城の真下に来ているのは魔王はもう気が付いているはず。自分の住む城へ招き入れるはずだ。この魔界を覆い尽くす・・人間界の魔法を封じ込めている魔石は私が探し出して破壊する。そうすれば魔法が使えるようになる。少ない人数でやってくれば魔王も油断するだろう。そして・・・後発隊として、人間界の聖剣士、そして『狭間の世界』のソルジャーたち全員を一斉にこの城へと集結させて・・魔王を倒し、ジェシカ様を救い出すのだ!いいか?」



私の言葉に全員が頷くが・・・私は失敗してしまった。

まさか・・・魔王が全員を違う場所に転移させるとは思わなかったのだ―。









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