第5章 4 深淵の闇の中で
ここは私達が借りているホテルのリビング—。
今はアラン王子も加わり、総勢7名の人数になり・・賑わいも激しくなってきた。
「それでさ・・・幾ら必死になって探してもノアの行方が見つからなかったんだ。ねえ、アラン王子。一体ノアは何処へ行ったのさ!」
ダニエル先輩は手に持ったスコッチを飲み干すと赤ら顔でアラン王子に怒鳴りつけている。
「そんな事を言われても俺は自分の知っている情報を教えた。確かにノアは神殿の一番最上階にあるソフィーの隣の部屋に囚われていたんだ!」
アラン王子はワインを飲み干すとダニエル先輩を睨み付けた。
「嘘を言うな!僕がどれだけ大変な思いをしてそこまで行ったか君には分からないだろうね。何しろあそこは恐ろしいトラップだらけだったんだぞ?途中で床が抜けて、下は鋭い針の山だったり、壁に触れると巨大な鉄の塊が降って来たり・・・・。」
顔を赤く染めて、時々しゃっくりを交えながらダニエル先輩は自分がいかに大変な思いをしたかを熱く語っている。
だけど、針の山に巨大な鉄の塊が降ってくるなんて・・・。
な・何て恐ろしい・・・。ダニエル先輩はそんなアクションゲームのような危険な場所を1人で攻略?したなんて・・・でも挙句の果てに肝心のノア先輩がいなかったとなれば、ダニエル先輩がアラン王子に食ってかかりたくなる気持ちも理解出来る。だけど・・・酔いも混ざっているから・・意外とオーバーに話を盛ってるだけなのかもしれない。何故ならダニエル先輩の目が大分座ってきているからだ。
「そんな事は知らんっ!その場所にいないとなれば、別の場所にノアを隠したのかもしれん!うん・・・そう言えば・・・ソフィーが何か話していたな・・・。セント・レイズ学院から東へ20K程行った先に森が広がり・・・そこには古城が建っていると・・・。そしてそこも自分達の拠点にする事にしたと言ってたな・・。」
え・・・森・・・?アラン王子の話を聞き、私はドクンと心臓の音が大きく鳴るのを感じた。そう言えば・・・最近夢で森の中にある城の夢を私は見た・・。そこでは誰かが私に助けを求めていた・・・。あの人物は一体・・・?
「どうした?ジェシカ・・・。顔色が悪いようだが・・大丈夫か?」
私の隣に座り、ウィスキーを飲んでいたデヴィットが心配そうに声を掛けて来た。
「い、いえ。大丈夫ですよ。」
笑みを浮かべて言うが、デヴィットは言う。
「いや・・・今日は色々あって疲れただろう?もうベッドで休んだらどうだ?1人で寝るのが寂しいと言うのなら俺がお前の隣で添い寝してやるぞ?」
言いながらデヴィットはするりと私の肩に手を回してくる。
「おい!デヴィット!ジェシカに触るなっ!」
アラン王子がアルコールに酔った赤い顔で立ち上がるとデヴィットを指さした。
「煩いっ!俺はジェシカの聖剣士だ!いいか?聖女と聖剣士というのは・・・絆をより深める為に24時間常に一緒に居るべき存在なんだっ!」
「何だと?それを言うなら俺だってジェシカの聖剣士だっ!その証拠にジェシカが俺に触れてくれたお陰でソフィーの呪縛が解けたんだからな!」
激しく応戦する2人は酔いの力も加わってか、徐々にヒートアップしてくる。
あ~あ・・・。似た者同士だから、きっとどちらか一方が引くという展開にはならなさそうだ・・・・・。
「ねえ!君達!喧嘩なら外でしてくれないかなあ?うるさくてお酒を楽しむことが出来ないじゃないかっ!」
ダニエル先輩がスコッチの瓶を抱えたまま喚く。
「うん、確かにそうだね。ここで喧嘩してホテルを追いだされたらどうするのさ。喧嘩なら外で思う存分やってきてくれないかな?」
マイケルさんがシャンパンをグラスに注ぎながらのんびり言うと、2人は言った。
「ああ、分かった。行くぞデヴィット。」
「フーン。俺とやるつもりなんだ・・・いい度胸だ。だがな・・・俺は強いぜ。」
デヴィットは腕組みしながら上目遣いにアラン王子を見る。
ちょ、ちょっと・・本気でこの2人言ってるの・・・?な、なんとかしなくちゃ・・・!
私は別のテーブルでお酒を飲んでいるグレイとルークの元へ行くと言った。
「大変なのよ!アラン王子とデヴィットさんが・・・外で喧嘩する事になっちゃって・・・、お願い!危険な事にならない様に2人を見張ってくれない?」
両手を前に組んで私は頼んだ。
「ええ・・・?アラン王子とデヴィット先輩が・・・?」
グレイは露骨に嫌そうな顔をする。
「分かった、ジェシカの頼みなら俺は聞くよ。」
けれど、ルークは笑顔で答える。やった!流石はルークだ。しかし、それを聞いて慌てたのはグレイの方だ。
「な・な・何言ってるんだ?ジェシカ。俺だって2人が心配だ。よし、分かった!2人について行き、酷い事になりそうなら命懸けで止めるから安心しろ!」
こうして、一気に4人の男性陣が部屋を去り・・・室内は急に静かになった。
「ふう・・・。」
わたしは溜息をつくと室内を見渡した。
部屋の中には酔っぱらって昨夜同様ソファの上で眠ってしまっているダニエル先輩とマイケルさんがいた。
ダニエル先輩の話では・・・神殿にはノア先輩の姿は無かった。ならば恐らく、ノア先輩はソフィーが新しく拠点にした森の中の古城にいるのだろう。そして・・そこにもしかするとマシューもいるのかもしれない。私に助けを求めていたあの声の主と一緒に・・・・。
もう、私は覚悟を決めている。
私のマーキングがドミニク公爵に残っている限り、何処へ逃げても必ず見つけ出されてしまうだろう。
それなら、ノア先輩と・・・声の主を助け、マシューに一目でも会えれば・・・私の役目も終わり。夢の通り、掴まって・・。
ただ、リッジウェイ家の人間だけは見逃して貰えるように頼み込むのだ。
そして流刑島で私は一生を送る・・・。
どうせ私はこの小説の中の悪女「ジェシカ・リッジウェイ」
小説通りに最期を迎える。これが私の運命なのだから。
「疲れた・・・。今日はもう寝よう・・・。」
着替えを持ってバスルームへ行き、熱いシャワーを頭から浴びながら・・・私は1人涙を流した。嫌だ、本当は流刑島へなんか行きたくない。いや・・その前に私は捕まり、あの冷たい牢獄の中で・・凍え死んでしまうかもしれない。私はいつまでも熱いシャワーに打たれながら・・・涙を流し続けた・・・。
バスルームから上がり、リビングへ戻ると相変わらずそこにはダニエル先輩とマイケルさんがソファの上で眠っている。そしてデヴィット達は部屋にまだ戻ってきていない。
一体・・何時まで戦って?いるのだろうか・・?だけど、こんな状況でもしソフィー達が乗り込んで来れば・・・私はあっという間にその場で捕まってしまうだろう。
「全く・・・。全てが終わるまでは仲良く出来ないのかなあ・・・。」
仕方が無い・・・。明日になったらアラン王子とデヴィットに言おう。ソフィーの件が片付くまでは協力し合わなければならないので、仲良くやろうと・・・。
そして私はベッドに潜り込むと・・・眠りに就いた・・・。
闇の中・・・誰かが私の近くにいる気配を感じた。その気配はやがて私のすぐ側まで寄って来るとそっと髪の毛に触れて来た。
え・・・?誰・・?
そしてその手は私の頬に触れ・・愛おしそうに撫でて来る。その手の感触に思わず全身に鳥肌が立つのを感じた。
いやだ・・怖い・・・。目を開けたいのに開けられない。身体を動かしたいのに何故か指1本動かす事が出来ない。
ひょっとすると・・私は夢を見ているだけなのだろうか・・・?
だが・・・その直後何者かの唇が自分の唇に触れてきた時、頭の中が一瞬で覚醒した。
「い・・・嫌ッ!」
身体が動く・・・!私は思い切り、その人物を突き飛ばし、急いで身体を起こした。
「酷いじゃありませんか。ジェシカお嬢様・・・。そんなに強く私を突き飛ばすなんて・・・。」
暗闇の部屋から私の良く知っている声が聞こえてくる。
そ・・・そんな・・・まさか・・・その声は・・・・。
闇の中、ゆらりと立ち上ったその人物は言った。
「ジェシカお嬢様・・・お迎えに伺うのがすっかり遅くなって申し訳ございませんでした。」
そこに立っていたのは・・・。
「マ、マリウス・・・・。」
私は・・・絶望的な気分で彼を見上げた—。
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