第2章 15 貢がせる女

私が引き受けたので3人の女子学生は大喜びした。そしてグレイ・ルークを巻き込みつつ、計6人でソフィーとアラン王子の説得を明日、決行することにした。

でもその前に・・・。

「貴女方の恋人って人達に会って話を聞いておきたいのだけど。」

私が尋ねるとたちまち顔を曇らせる彼女達。


「それが、いくらお願いしても聞き入れてくれないんです。」

クレアが言う。


「もう私と話す事なんか何も無いって・・・。」

ミリアは涙目だ。


「わ・・私なんか、接近禁止令が出されたんですう~っ!」

とうとう泣き出してしまったハンナ。


あ~これは駄目だ・・・。もう彼等はすっかりソフィーの虜になっているよ。

例え、彼等と会えたとしても恐らく私達の説得に等応じないだろう。

でもどうしてソフィーに心変わりしてしまったのかは聞いておきたい。

だけどきっと彼女達には耐えられない話になってしまうのだろうな・・・。

仕方が無い。

「それじゃ、彼等の名前だけでも教えて頂けますか。そうしたらグレイとルークが話を付けてここに呼び出してくれますから。」

それを聞いて途端に顔色が変わる2人。


「「ええ!俺達が?!」」


うんうん、今日も綺麗にハモる2人。本当にグレイとルークは一心同体なんだなあ・・・。


「お願い。グレイ、ルーク。」

手を組んで、上目遣いに2人を見る私。


「ジェシカの頼みなら、し・仕方無いか・・。」

グレイは頭を掻きながら言う。


「ああ、これも人助けだ。」

ルークも腕組みをしながら引き受けてくれた。

私達は3人から男子学生の名前を聞きだした。


「その3人は今どうしてるんだ?寮にいるのか?」


ルークは女子学生達に質問した。あれ、確かに言われてみれば私の知る限り、アラン王子と生徒会長、そしてノア先輩にダニエル先輩しかソフィーの周りで見ていない。


「ええ・・・多分帰省するのは明後日なので寮にいると思うのですが・・先程もお話した通り、私達は彼等と暫く会えていないんです。」


ハンナは悲し気に言った。


「まあ、こうしていても仕方が無いからな。よし、俺達で取り合えず男子寮へ探しに行って見る事にしよう。」


グレイとルークが彼等の名前と外見の特徴を聞きだし、準男爵家専用の男子寮へ向かった後、私は彼女達に尋ねた。

「ところで、今日ソフィーさんはどうしているのか知っていますか?」


「ええと・・・確かセント・レイズシティにアラン王子とお芝居を見に行くって話していました。」

「あんな大きな声でこれ見よがしに言うのですから、余程自慢したいのでしょうね。」

「本当に酷いわ・・・。人の恋人を奪っておいて、平気でアラン王子とデートを楽しむなんて。」


 3人は口々に文句を言い合っている。でもなあ・・・心変わりしてしまった相手は、もう諦めるべきだと思うのだけど。人の心なんて他人がどうこう出来る訳じゃ無いし。逆にあまりしつこいとかえって相手から逃げられてしまいそうな気がする。


 本来の私ならこんな面倒な話に首を突っ込みたくはない。けれどもあまりにもしつこく食いついてくるし、断ろうものなら後で恨みを買いそうで怖かったのもある。

それにどうせ私は今度の冬の休暇で帰省した時に隙をついて誰も知らない遠くの地へ逃亡計画を立てているので、もう学院に戻る事も無く、アラン王子やソフィーと顔を合わす事も今回で最後になるだろうから引き受けたのである。


「とりあえず彼等がここに来たら、私とグレイ、ルークで話をしてみるので貴女方はその時は別の場所で待っていて頂けますか?」

・・と、私は提案してみたのだが・・。


「どうしてですか?!」

「何故なんですの、ジェシカ様?」

「私も彼にお会いしたいんです!」


3人の男爵令嬢は駄々を捏ねるばかり。あ~あ・・やっぱり予想通りの反応だ。

「でも貴女方が顔ををあわせれば冷静に話し合いが出来ないと思うのですけど・・・?」

私の言葉に彼女たちは顔を見合わせた。


「た、確かにそうかもしれませんね。」

「仰る通り、冷静でいられる自信はありません。」

「話がまとまってから会ったほうが良いかもしれませんね。」


 こうして3人の令嬢たちは私の説得に応じたのである。そこで一旦彼女達には女子寮に戻って貰って、私はグレイとルークの帰りを待つ。

無事に連れて来れるのかなあ・・?


私が3杯目のコーヒーを飲み終えた頃、ようやくグレイとルークがカフェに戻って来た。後ろには見慣れない3人の学生が付いてきている。

やがて彼等は私のいるテーブルへとやって来た。

「お待ちしておりました。皆さん。」

私は椅子から立ち上がって言った。


「げっ!ジェシカ・・・リッジウェイ・・・。」


1人の男子学生が私を見ると顔色を変えた。何だろう?失礼な学生だ。


「は、初めまして・・・。」


一番気の弱そうな学生は丁寧に頭を下げて来る。


「で、俺達に何の用だ?」


う~ん・・。この男も随分な態度を取るなあ。私的には彼氏にするにはあまりお勧めしないタイプだ。


「ほら、お前達。いいから座れよ。」


3人の男子学生はグレイに椅子を勧められ、しぶしぶ座った。グレイもルークも椅子に座り、全員が席についたのを見計らって私は話を始めた。


「あの、本日こちらへ来て頂いたのはミリアさん、ハンナさん、クレアさんにお願いされたからなんです。どうしてもあなた方ともう一度恋人同士に戻りたいそうなんです。・・どうでしょう?考え直す気持ちはありますか?」


3人の男子学生は互いに顔を見合わせ・・・言った。


「は?考え直す気などあるはずがないだろう?」

「そうだ、俺が好きな相手はソフィーただ1人だからな。」

「俺達はもうやり直す気は全く無いと伝えておいてくれよ。」


口々に身勝手な事を言いだす。はあ・・・やっぱり彼女たちがこの場にいなくて正解だった。


「全く、あんな女の何処がいいんだ?」


今迄黙っていたルークが口を開いた。


「そうだな、俺にもさっぱり理解出来ない。お前達・・一体どんな付き合いをしていたんだ?」


「彼女の事を知りもしないで、勝手な事を言うな!いいか?ソフィーは凄く優しい女性なんだぞ。」


男子学生Aが言う。(面倒だから名前は尋ねていなかった)


「ほう、例えば?」


グレイが横から口を挟んできた。


「いいだろう、教えてやる。彼女はな、病弱な妹の為に自分で編んだ編み物を週末に町へ売りに行ってるんだぞ?そのお金を治療費として実家に送金しているそうなんだ。でも、それでも足りないので何とかして欲しいと俺に頼んできた。だから俺はそんな健気な彼女の為にお金を渡した・・・。その時の彼女は目に涙を浮かべて喜んでいたよ。俺は彼女のいじらしさに心打たれた。」


「俺だって、夕日の中、たった1人で泣いている彼女を見かけ、なぜ泣いてるか声をかけた事があったんだ。その時、ソフィーは言った。1人きりの弟を学校へ入れてあげたいけど、我が家にはそんなお金は無いから自分がこの学院をやめて働こうと思うと聞かされたんだ。だからあまりにも気の毒に思ってお金を渡してるぞ?あんなに澄んだ瞳でそんな事聞かされたら大抵の男なら参ってしまうな。それに俺は妹の話なんか聞いたことが無いぞ。」


男子学生Bが言う。うん?何だか話の雲行きが怪しくなってきた気がする。


「嘘だっ!彼女は一人っ子だと聞いてるぞ?貧しい生活だけど、両親が借金をしてまで自分をこの学院に入学させてくれたから、少しでも早く借金を返済する為に、お金を貸して貰えないかと俺は頼まれたんだ。」


 男子学生CはA、Bを順番に見ながら言った。

あ、もう駄目だ。完全にカモにされている事に彼等はまだ気が付かないのだろうか?

私はグレイとルークの様子を伺った。2人も白けた目で彼等を見つめている。


 普通に考えてみれば、自分たちが貢がされていると気付くはずなのに、その事を全く自覚していない。

これもやはり催眠暗示的なものなのだろうか?


「それで・・・ソフィーさんから何か見返りみたいな事はありましたか?」

ダメもとで彼等に尋ねてみる事にした。

すると男子学生Bが応える。


「デートの約束をして貰えた。」


「俺も」


「俺もだ・・・。」


「それで、実際にデートをして貰えたのでしょうか?」


「「「・・・。」」」


3人とも私の質問に一様に黙ってしまう。やっぱりね・・・。


「いいですか?あなた方はソフィーさんにお金を取られただけでなく、デートの約束をしても、一度も実現しないどころか、完全に騙されてるじゃないですか。第一、何故もっと早く互いの彼女に関する情報を共有していなかったのですか?」


「う・・・。」

「そ、それは・・・。」

「何だか気が引けて・・。」


やっぱり間違い無い。恐らく彼等は何らかの術をかけられているに違いない。


するとルークが言った。


「いいか、俺達は完全にあの女を疑っている。明日そいつに話を付けてくるつもりだから、もう一度良く考え直す事だな。」


「ああ、大体嘘をついて金を巻き上げるなんて普通の令嬢には出来ない行為だな。」


グレイは冷ややかな目付きで言った。



 その後、彼等はスゴスコと重そうな足取りで私達の前から去って行った。

そして私達は明日のアラン王子の予定をグレイとルークに確認してもらい、ソフィーとアラン王子が合流した時に2人の前に現れて話し合いをしようと決め、解散した。


 明日、うまく事が運べば良いのだが・・・。












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