仮装ダンスパーティー裏話 その①

グレイの場合


 仮装ダンスパーティーの話については、はっきり言うとあまり思い出したくも無い。正直に言うと、俺はあんな変な仮装はしたくなかったのだ。なのに何故かアラン王子に強引にあの衣装を渡され、ルークと二人で揃いの仮装をするように命じられた。いくら王子の命令だからと言ってもこれはあまりに理不尽な扱いではないかと思った。だって考えてもみろ。あんな趣味の悪いアイパッチに薄汚い色の三角帽子、だぶだぶのYシャツに同じくだぶだぶのボトムス。こんなみすぼらしい衣装ではジェシカは愚か、他の女性陣達にも嫌がられそうだ。

 おまけに俺とルークは兄弟でも何でもないのに、何故全く同じ衣装を着なければならないのか・・・謎だ。一体王子は俺たちに何をやらせたかったのだろうか?

もうすでにこの衣装を手渡されただけで心が折れそうになり、ジェシカとの賭けもどうでも良くなってしまいそうになったが、ジェシカを最初に見つけた男が彼女をクリスマスに独占できるとなれば、やはりここは絶対に負けられない。そして俺は参加を決めた。ジェシカが俺以外の誰かの男の物になるなんて事はどうにも我慢出来なかったからだ。


 当日、みすぼらしい姿で仮装ダンスパーティーに出席した俺とルーク。

他の学生たちの衣装を見て、早くも心が折れそうになった。何故なら皆気合の入った衣装で参加しているからだ。恥ずかしい・・・穴があったら入りたくなったくらいだ。そらくルークがいなければ、迷わず俺は帰っていただろう。ここはルークと一蓮托生でジェシカを誰よりも早く探して、さっさとこの会場から抜け出そう・・・そう思った。

 なるべく人目に触れないように隅の方で俺とルークは辺りを見渡してジェシカを探したが、一向に見つかる気配はない。

何故かボーイの恰好をして仕事をしているライアンが居たので、ジェシカの事を尋ねてみたが、あいつもジェシカの事を見かけていないと言う。


 其の後も無常に時が流れていく・・・・。途中で一緒にいたルークの姿も何故か見失ってしまい、俺は一気にやる気がしなくなってしまった。こうなったらもう好きなだけ、料理と酒を味わい、帰ることにしよう。

ジェシカ。どうか誰にも見つからずにいてくれよ。

俺はそれだけを祈るしかなかった。



ルークの場合


 この時ばかりは心底アラン王子を恨みたくなってしまったのは言うまでもない。

俺達はこの学院に来てから、理不尽な目にばかり合っているような気がする。

けれどもその理由は何となく分かっていた。恐らく王子の俺たちに対する仕打ちはジェシカが絡んでいるのだろう。

 王子の思い人を俺もグレイも同じ気持ちで思っているから、王子は俺達に嫌がらせをしているのだと今回のこの衣装を着るように命じられた時、はっきり理解した。

こんな妙な仮装をして、王子は俺たちにダンスパーティーに出席しろと言うのか?

この衣装を着る位なら制服を着て出席した方がずっとましだ。おまけに何なのだ?この変なアイパッチは・・・。どうせなら片目を隠すぐらいなら、アイマスクを付けて誰なのか分からない変装をさせて貰いたいと思う。だが、勝手に自分で用意しようものなら、後でどのようなお咎めを受けるか分からないからここは我慢するしかないだろう。

 もう一刻も早くジェシカを見つけ、手を取ってこの会場から抜け出すしかない。

グレイ・・・悪いが、俺は誰にもジェシカを譲る気持ちは一切ないのだ。

でも恐らくお前だってそうだろう?そうでなければこんなみじめな衣装を着て、この場にいるはずはないのだから。


 仮装ダンスパーティーの会場では俺たちは浮きまくっていた。

始めはあまりにも酷い仮装をしていたので、受付で危うく追い払われそうになったくらいだ。アラン王子の名前を出すと、何とか中に入れてもらえる事が出来たのだが、これはものすごい屈辱を感じた。

次年度は、もう少しまともな仮装をしてきて下さいねと言われてしまったが、誰が好き好んでこんな変な衣装を着ていると思っているのだろうか?

 会場では俺達の仮装を見て遠巻きになにかコソコソ話しているのが聞こえてくる。

どうせろくな内容では無いのだろう・・・。グレイはもう諦めたのかアルコールを飲み始めている。うらやましい奴だ。俺はアルコールを飲んでも一向に酔うことは出来ないのだから。

俺はグレイを残して、会場内を歩き回ってジェシカを探すことにした。


 そして・・・ついに俺はジェシカを見つけた!黒い模様が美しいアイマスクを付けているが、間違いない、あの姿はジェシカだ。まるで蝶のように美しい衣装に身を包んだジェシカ・・

俺は声をかけようとして近づき、凍り付いた。

 何故なら隣にいたのがアラン王子だったからだ。・・・そうか、とうとうジェシカはアラン王子の物に・・・・。ジェシカはアラン王子を中庭へ誘い出そうとしているようだ。もう無駄な事とは思っているが、俺も2人の後を追う事にした。しかし、まさかあのような現場を目撃することになるとは思いもしなかった。

1人の女生徒が一緒にいた眼鏡をかけた女性の頬を思い切り引っぱ叩いていたのだ。

俺の前方にいたアラン王子もジェシカも相当驚いたのか立ち尽くしていたが、何とアラン王子が手を挙げた女性を激しく咎め、ジェシカを残し赤く腫れた頬をした女性をいたわり、肩を抱くとその場を後にしてしまったからだ。

 俺はあまりの出来事に呆然としてしまった。まさかアラン王子がジェシカを残して別の女性を連れて行くなんて・・。そこで俺は気が付いた。そうだ!アラン王子が手を引いたなら俺がここからジェシカをさらっても良いのだ!

しかし我に返った時にはジェシカはその場からいなくなってしまった後だった。

俺は千載一遇のチャンスを棒に振ってしまったのだ・・・。


 激しく後悔しても、もう遅い。それに時計を見ればそろそろタイムリミットの時間が近づいてきている。

ジェシカ、どうか誰にも見つからないで賭けに勝ってくれよ。





ユリウスの場合


 4年目にして初めて俺はまともに仮装ダンスパーティーに参加した。

それまでは予算だけ沢山出ていく馬鹿馬鹿しいイベントとしか考えていなかったのだが、今回ばかりは違う。何せ仮装してこの会場に紛れ込んだジェシカを見つけた男が、彼女を独占出来るとあれば、ジェシカの為に参加してやらなければならないだろう。全くあいつは素直じゃない。俺に対しては何故か他の連中よりも冷たい態度を取ってくる。始めは何故なのだろうと疑問に思っていたが、その謎はすぐに解けた。

つまりジェシカは俺の事が好きだから、常日頃からあのような態度を取っていたのだ

全く素直になれない奴だ。まあ、そこが可愛らしいところでもあるのだが・・・。

 それならここは年上の俺がリードしてやるしかないだろう。

俺は自分自身、普段から黒の服が似合うと思っている。なので全身黒の軍服を着て、腰にはアクセントで鞭を装着し、パーティー会場に臨んだ。

周りの連中は俺の事をじろじろと見ている。ふふん・・よほど俺の姿が様になっているのだろう。あちこちでささやき声が聞こえてくる。

 さて、肝心なジェシカは一体どこにいるのだろう・・・?


ダメだ・・人が多過ぎて見つからない。ただ探しているだけでも持て余すので、ここはメイドにでもアルコールを頼むとするか。俺は手近にいた1人のメイドに声をかけた。

「すまないが、俺にシャンパンをくれ。」

声をかけられたメイドは余程驚いたのか、肩をビクリと振るわせて俺を見上げた。

・・なんだ?変な感じがするぞ。何故このメイドは俺を見て小刻みに震えているのだろうか?よくわからない奴だ・・・。

「おい、聞こえているのか?シャンパンをくれ。」

俺が何を言っているのか聞き取れなかったのだろうか?再度俺が言うと、メイドは慌てたように盆の上に乗ったシャンパンを俺に渡すと、逃げるように急ぎ足でその場を去っていった。全く妙なメイドだな・・・?俺は不思議に思いながらシャンパンを口に入れると、ジェシカを探す為に会場内をうろつきまわった。

 

「うわ!生徒会長が来たぞ、逃げろ!」

「いやだ・・あの目つき・・!本当に怖いわ・・・。向こうへ行きましょう。」


等と言う声が聞こえてくるたび、俺の前から人だかりが消える。

フフフ・・・やはり俺は生徒会長。

皆誰もが俺の威厳に恐れをなして道を開けてゆくのだろう。


 それにしても肝心のジェシカは見つからない。

一体どこにいるのだろう・・・・。そう思った矢先、花火が上がる音が聞こえた。


クッ・・・何という事だ・・・!

俺は賭けに負けてしまったというのか・・・・。

だが・・・な、ジェシカ。俺は絶対にお前を諦めないからな、覚悟しておけよ?



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