第6章 10 私、それ程暇ではありません
自分たちの身の潔白を証明する為、行動を始めた私達。校舎の外へ出ると、何故だか周囲の学生達から遠巻きにジロジロ見られている。
おまけに何事かヒソヒソと話しているでは無いか。まあ・・・どんな事を話しているのかは聞かずとも想像がつく。私は溜息をついた。折角努力して少しずつ周囲から信頼して貰えるようになってきたのに、今までの努力がこれでは水の泡だ。
「とにかく、一刻も早く私たちが犯人では無いと証明できるアリバイを見つけないと・・。」
私が呟くと、男2人は首を傾げる。
「アリバイ?」
「アリバイとは何の事ですか、お嬢様。」
そうか、彼等はアリバイという言葉の意味を知らないのだ。え~と、アリバイとは・・。
「あ、あのね。アリバイっていうのは何か犯罪・・・例えばこの場合は覗き見と下着泥棒ね。これを私たちが、その時間に犯行現場にいなかったって事を証明する意味の言葉なの。」
そうなのだ、第一私はあの日20時半に入浴をしに行っていないのだから。
始めはあの時間にナターシャの元へ行こうかと考えていたのだが、迷惑になるだろうと思い、部屋を訪れるのをやめにした。そしてお風呂へ行こうと準備を始め、部屋を出たのが20時40分。部屋を出る時に時計を確認して出たのでこの時間は間違いない。
だから時間的に矛盾が生じる。ナターシャは何時に大浴場へ行ったかは訴状に書いていない事自体が怪しいのではないだろうか?
それに私は自分がお風呂に入っている間は誰一人として会っていないし、当然ナターシャにだって会っていない。私は21時20分にお風呂を出たけれども、大浴場を使える時間は22時と決まっている。まさかあの時間から浴室を使う女生徒がいるとは到底思えない。
でも何故、私が詳細に入浴時間を覚えているかと言うと・・・それには明確な理由がある。学院の入浴施設を使用するときは入り口にかけてあるボードにいつ、何時に入浴をしたかを記載する黒板があるからだ。それにはっきり時間を書き込んでいるので忘れるはずが無い。ああ・・あれが黒板で無ければ、例えばノートのように紙に書き込みをするようになっていれば時間の証拠が残っていたのに・・・。
ずっと私が難しい顔をして考え事をしていたからだろうか?マリウスが声をかけてきた。
「大丈夫ですか?ジェシカお嬢様。」
「うん、大丈夫・・・じゃないかな?あんまり・・・。アハハ・・・。」
無理に笑ってみてもちっとも不安は拭えない。
「すまなかった、ジェシカ。俺があんな時間に女子寮に近付きさえしなければ良かったのにな・・。」
申し訳なさそうに言うルーク。
「何言ってるのよ。ルークはちっとも悪くないから。そう、悪いのは・・・。」
そこではたと気が付き、私はゆっくりマリウスの方を振り向く。
「ええ?!わ、私が悪いのですか?!」
マリウスは情けない声を上げて自分を指差す。私はキッとマリウスを睨み付けると言った。
「そうよ!元はと言えばマリウスが全部悪いのよ!ナターシャさんにしっかり自分の意思を告げられなかった事も、一緒に町へ行きたくないって言えなかったのも・・・そのせいで私は酷い目に遭ったのよ!ルークがいなければあの時どうなっていたか分からなかったし・・!」
「お、おい。ジェシカ・・あまりマリウスを責めても・・ん?」
そこでルークははたと気が付いたようだ。そして顔をひきつらせた。何故ルークがそんな表情になったかって?答えは簡単。
「お、お嬢様・・・。さあ、もっと私に言いたい事があるのですよね?!さあ、遠慮せずにもっともっと私を激しくなじって下さい!」
真っ赤な顔で興奮してプルプルとチワワの様に震えるマリウス。よし、貴方がそこまで言うなら、こちらも遠慮などしないからね。ルークの前だろうと構うものか。
私だっていい加減ストレスたまりっぱなしなんだから!
「あの日の夜だって、マリウスが私を夜呼び出さなければ、あまつさえ私に罰を与えてくれだなんて頼まなければ私だって、芝生公園で星の数を数え・・・ん?」
そこで私はピンときた。
「どうした、ジェシカ?」
ルークが声をかけてきたが、今はそれどころではない。
「そうよ・・・星よ!」
私はマリウスの腕を掴むと激しく揺さぶった。
「ねえ、マリウス。確か星の数を数えた時、スケッチブックに書き込みをしたと言ってたわよね?」
「え、ええ・・言いましたけど・・・。」
マリウスは私にガクガク揺さぶられながら答える。
「どんなふうに書いたの?!」
「え?どんな風とは・・・?」
「う~それじゃ、貴方が書いたスケッチブックを今すぐ持って来て頂戴!」
「は、はいっ!お嬢様!」
元気よく?返事をしたマリウスは一目散に寮へ向かって走って行った。
後に残されたのは私とルーク。彼は全く訳が分からないという具合で私を見ると言った。
「ジェシカ、一体どういう事なんだ?俺にも分かるように説明してくれないか?」
「うん、勿論。でもその前に・・・お昼食べない?」
私はにっこり笑って言った。だってもうお腹が減って限界だったからだ。
マリウスが分かるようにと、先程別れた場所のすぐ近くのベンチに座っている私。
ルークは今3人分のランチを買いに行ってくれている。
ふう~・・・うまくいくといいけど・・・。
私がため息をついて下を向くと、不意に私の視界が暗くなった。
「?」
不思議に思って顔を上げると、そこにはかつてジェシカの取り巻きをしていたグループの女生徒達が私の周りを囲むように立っていたのだ。
え~と・・・ごめんなさい。顔は分かりますけど、名前がちっとも出てきません。
私が黙ったまま彼女たちを見上げていると、吊り上がった目に、金髪縦ロールヘアの髪型をした女生徒が話しかけてきた。
「リッジウェイ様。貴女ついにやってくれましたのね。」
え?やったっとは一体何の事でしょう?
「ほんと、あのナターシャさんに随分すごい嫌がらせをしたんですね。しかも他の男性2人を巻き込んで。」
ストレートヘアを肩先で切りそろえた女生徒が言う。
「まあ、私達としてはいい気味だと思いますけど。リッジウェイ様も一度はマリウス様やノア様をナターシャ様に獲られて仕返しをと考えられたのでしょう?」
は?仕返し?一体何の事でしょう?私は逆にナターシャとソフィーに罠に嵌められて大ピンチになっている所なのですが。
「でも少々やり過ぎたようですね。あのままナターシャさんが泣き寝入りするような女性だと思っていたのですか?」
クスクス笑いながら言うのはセミロングの垂れ目の女生徒。
「男子学生ばかりに愛想を振りまいていれば今に足元を救われますのよ?どうです。私達と手を組んで、もっとナターシャさんを追い詰めてやりたいと思いませんか?」
う~ん・・この女生徒は・・・一番大人し気な顔をしているのに、誰よりも怖い台詞を吐いているような気がするよ。
私があんまり黙っているので、痺れを切らしたのかリーダー各の女生徒が言った。
「リッジウェイ様、いつまでだんまりを続けているつもりですか?何か仰ったらいかがですか?」
イライラしながら私を睨んできた。はあ・・仕方が無い。
「あの、少しよろしいですか?」
私は立ち上がると言った。
「私はナターシャ様を陥れるような真似はしていません。むしろ勝手にあの方に恨まれ、罠にはめられたのです。そのせいで、今の私と・・・マリウスにルークは危機に追いやられています。今は自分たちの濡れ衣を晴らす為に考えている最中です。それに第一、私はナターシャ様を追い詰めてやろう等という気は一切ありませんので、私に構わないで頂けますか?それ程暇人ではないので。」
一気にしゃべってやった。そうよ、私は貴女方と違って誰かを陥れるな程の暇人では無いのだ。そういう嫌がらせをやりたいのなら、どうか私に聞こえない様な場所でやってもらいたい。
暇人と言われプライドが傷つけられたのか、彼女たちはブルブル顔を赤く染めて震えている・・・。
「あ・・貴女!私達を馬鹿にするのですか?!」
え?釣り目の少女が私に向かって手を上げようとして・・・・。
ガシッ!腕を掴まれ、止められた。
そこに立っていたのはマリウスだった—。
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