第2章 5 真剣勝負

 マリウスとアラン王子が全学年の学生達の前で互いに模造剣を構えて向き合っている。二人とも凄く真剣な表情をしているが、特にマリウスの変化には驚いた。

瞳には鋭い眼光が宿り、まるで別人のようだ。あんな一面もあったとは・・・。

アラン王子も何となくマリウスの気迫に押されているように感じる。


 一陣の風が二人の間を吹き抜ける。イケメン二人が剣を構えている姿はまるで映画の世界の様だなあ・・・。でも、これは現実。どうかお願い。マリウス・・勝ってよ。私の為に!

アラン王子には悪いけど私は必死でマリウスの勝利を祈る。


 ピーッ!

試合開始の笛が鳴らされた。お互い剣を構えてものすごいスピードで相手に向かって駆けてゆく。

速い!二人とも目にも止まらぬ速さで互いに剣で打ち合っている。二人の戦いぶりに学生は愚か、審判を務める教師まで開いた口が塞がらない。勿論私も。

私はマリウスをじっと見つめる。いつもの何処か頼りなさそうな姿とはまるで違う。

悪と戦う正義のヒーローの様だ。いや、別に決してアラン王子が悪役という訳ではなく・・・。アラン王子だって十分素敵だ。剣を振るうたびに太陽の光に照らされた金の髪は神々しい。けれど、マリウスは私にとって身内?のようなものだから、どうしても贔屓になってしまう。第一、アラン王子に勝たれてしまえば、下手したら全校生徒の半分が私の敵にまわってしまう可能性があるからだ。

 その時突然激しく互いの剣と剣がぶつかり合う音が響き、私は思わず席から立ち上がった。

カランカラン・・・・互いの剣がほぼ同時に地面に落ちるのを私は見た。

これは・・一体どうなるのかな?


 審判の教師が笛を高く吹き鳴らすと言った。

「両者、引き分け!!」


一瞬水を打ったようにその場は静まったが、やがて大きな歓声の渦に包まれた。

試合を見守っていた学生たちは全員立ち上がって拍手をしている。


マリウスとアラン王子は握手をして何か話しているが、生憎ここからでは二人が何を話しているのかさっぱり分からない。

でも、これってアレだよね?引き分けって事は・・・アラン王子との約束を反故しても良いって事だよね?


 教師の制止も聞かず、マリウスとアラン王子に駆け寄る学生達。二人とも大勢の学生たちに取り囲まれ、互いに顔を合わせると笑みを浮かべた。おや?もしかしてこれは2人の間に友情でも芽生えたか・・?

それに今回の試合で更に2人の人気は急上昇しただろう。うん、きっとマリウスにも

結婚相手が見つかるだろう。ソフィーだってアラン王子を好きになり、2人はうまくいくはずだ。そして私は平和な学生生活を送り、卒業後はどこか別の土地で働く女性として生きて行こう。

うんうん。腕組みをしながら私は自己満足に浸った。



 さて、そろそろ午後の授業も終わる。

教室へ戻って帰り支度でも始めますか。私は彼等に背を向けて歩き出そうとした時。ソフィーの側に立っているメガネの女生徒がじっと私を凝視していたのだ。


 表情の読み取れないその顔は何を考えているの分からない。私も見つめると何故か彼女は視線を逸らし、ソフィーと会話を始めてしまった。

今のは私の気のせいだったのだろうか・・・?

 まあいい。二人が引き分けになったのだからアラン王子との約束も無くなっただろうし、私に興味も失せただろう。マリウスにも学院生活を楽しんで欲しいから週末の私との外出は取りやめにしてあげよう・・等と考えているとマリウスの声が後ろから追っかけてきた。


「待って下さい!お嬢様!」

息を切らしてマリウスは私の側まで走って来ると申し訳なさそうに頭を下げた。


「お嬢様・・・。申し訳ございませんでした。」


「え?何を言ってるの?マリウスはよくやったよ。凄いじゃない。見直しちゃったよ。あ、マリウス。頭を下げてくれる?」


「は?はい・・・。」


マリウスが頭を下げたので私は背伸びしてマリウスの頭を撫でた。

「マリウスがあんなに強かったとは思いもしなかった。よく頑張ったね。」


「お・お嬢様・・・。」


マリウスは顔をクシャリと歪めて真っ赤な顔をしている。あ・まずい。これじゃまるで小さな子ども扱いだよね?

ところが何を思ったかマリウスは私の手をギュッと両手で握りしめると言った。


「お嬢様!これこそいわゆる『飴と鞭』プレイですよね?もうそのギャップがたまりません!ああ、やはりお嬢様は最高です・・・!」


・・・やっぱり所詮マリウスだった・・。



 午後の授業も全て終わり、学生たちはそれぞれ思い思いに教室から散っていく。

そういえば、クラブ活動の見学会が今月一杯続くんだっけ・・。


「お嬢様、何か倶楽部に入られるのですか?」


 帰り支度をしていた私にマリウスが声をかけてきた。

俺様王子は腰巾着たちと寮へ帰ったのか、今この教室には私とマリウスしか残っていない。

セント・レイズ学院の倶楽部と言うのは日本のクラブ活動とは全く異なる設定をしている。何故ならここに通う学生の年齢は18歳~22歳、しかも全員が貴族。

なので彼らは将来は家を継ぎ、爵位を守ってゆかなければならない使命がある。

そこでこの学院に通う間に財政学や経営学、国際貿易学等々・・幅広く学ばなければならないが、学院のカリキュラムだけでは足りない。そこで登場するのが倶楽部活動だ。いわゆる専門学校的な存在である。


「ふ~ん、成程ねえ。」

私は倶楽部活動案内に目を通しながら考えた。・・・駄目だ。あり過ぎて選べない。

でも将来独立して生計を立てるには何か特別な資格があった方が良さそうだ。この世界では女性は爵位を継ぐことが出来ない。どうせ私は元々日本人であり一般庶民だ。

煌びやかな生活等したくも無いし、別に結婚もしなくてよいと思っている。

 その時、ふと目に入った倶楽部があった。

<薬膳ハーブ師>

何々?え~と、この倶楽部は様々なハーブを元に薬膳から料理、魔法生成薬等様々な研究をする倶楽部。将来性あり・・・。おおっ!これはいいかも。よし、この倶楽部を見学してみようかな?

 私はいつの間にかブツブツと独り言を言いながら食い入るように倶楽部案内を呼んでいた。


 「お嬢様、何か気になった倶楽部が見つかったようですね。」

マリウスはニコニコしながら私に話しかけてきた。


「うん、まあね。マリウスは何か決めたの?」


するとマリウスは大真面目で答える。


「私が入る倶楽部はお嬢様と同じと決めております。」


・・・・おいおい、マリウス君。君は一体何を言ってるのかしら?まさか倶楽部まで私と同じにすると言うの?冗談じゃない!貴方が一緒だとね、いつ変なスイッチが入り、暴走するか分からないのよ?倶楽部活動の時間位、心穏やかに過ごさせて欲しい。


「・・ねえ。マリウス。倶楽部位は自分の興味がある分野の倶楽部に入るべきだと思うよ?」


「はい、私が興味があるのはお嬢様が入る倶楽部ですから。」


「え・・・?で、でもねえ・・。」


ねえ、勘弁してよ。四六時中くっついていられる私の身にもなってよ。ここは一つきちんと伝えておくべきだろう。

コホンと咳払いすると私は言った。


「いい?マリウス。前にも言ったけどこの学院にいる間は貴方に学生生活を楽しんで貰いたいって。だから自分のやりたい事を見付けなよ。新しい友人関係を築くのも良いし、それにいずれはこの学院で誰か好きな女性を見つけるのだって・・・。」


そこまで言いかけて私は、はっとなった。

・・・まずい。



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