第27話 運命の槍

出郷(しゅっきょう)。叙任(じょにん)。受槍(じゅそう)。ロマンス。入隊。出陣。初陣。合戦。休戦。勲功。昇格。連戦。決闘。勝利。


 これは騎士道物語を一神教ファンタジーとして描く試みである。


1、 出郷(しゅっきょう)


 騎士の旅立ちから世界が創られた。それは、神が騎士の戦いのためにこの世界を作った証拠である。騎士の旅立ちの前に世界はなく、後世の神学者がどれだけ丹念に調べても、世界の起源は騎士の旅立ちに求められることからそれは明らかである。

 騎士の名は、マグダウェル。この騎士の名前は、神が世界を創造させることとなった騎士の名前なのだから、その名前は世界のどこで聞いても感動を覚える発音である。

 マグダウェルが国王の招集に応じて、故郷の村を出たのは、騎士として神の偉大さを知らせるためだった。マグダウェルの旅は、それを目的とする。マグダウェルは、神の被造物として神に自由意志を与えられ、神の偉大さを示すようにその自己の魂の悩みと迷いを表す。マグダウェルの悩みと迷いは、神がこの世界で表現したかった心の存在する理由である。


  2、叙任(じょにん)


 マグダウェルは、城に着くと、自分が騎士になることを願い出て、国王の許可をもらった。役人は、国王に忠誠を誓うことを要求した。マグダウェルは、この役人の申し出に、「自分は神に仕える騎士であり、国王はその代理人である。我が忠誠は神のものであり、国王がそれを理解するかぎり、国王はその代理人である」と答えた。役人は、そのことをマグダウェルの人別帳の補足に書き、それを将軍が見て、マグダウェルは真の騎士であると考えて、上級兵に配属した。


  3、受槍(じゅそう)


 国王が新しく騎士になった者たちに語りかけ、「この国王のために命を懸けて敵兵と戦うか」と尋ねると、マグダウェルは、「わたしは神の御業のなせるがままに戦う。わたしが敵兵を倒すなら、それは神がそれを望んだ時だけであり、わたしが命の危機を押して戦うなら、それはそれが神のためになると考えた時にだけである」と答えた。

 国王は、マグダウェルにふさわしい武器だとして、運命の槍をマグダウェルに取らせた。運命の槍は、勝つか負けるかがその持ち主たちの技量ではなく、神の意思によって決まる槍である。この槍で勝つ時は常に神が勝利を要求した時だけであり、この槍で負ける時は常に神が敗北を要求した時だけである。

 国王より世界の先に創造されたのはマグダウェルであり、国王はその叙任において遅れて創造されたのであるが、国王として創造されたのは国王としてその荘厳さを見せるためであるから、国王は重厚な布装束に包まれた儀式で、マグダウェルに運命の槍を渡した。


  4、ロマンス


 マグダウェルは、槍を受け取ると、宮廷の女たちに会いに行った。それを司祭に見とがめられ、マグダウェルは司祭にいわれた。

「マグダウェルよ、おまえが望むのは神に与えられた女か、神に与えられなかった女か」

 それを聞き、マグダウェルは、生まれて初めて、神に逆らう気持ちが沸き起こり、長いこと悩んだあげく、どう答えればよいのか自問自答したが、早く答えなければならないと気を急かし、結局はたっぷりと考えこんでしまってから、こう答えた。

「司祭に聞かせるわけにはいかない。どうか、神に与えられた女と神に与えられなかった女をここに連れてきてくれ。そしたら、直接、女たちにいう。連れて来られなくても、わたしの方から会いに行く」

 すると、司祭は、引っ込んでしまい、数人の女たちが残った。マグダウェルは、女たちを見ると、一目惚れした女に語りかけた。

「わたしは物心ついてから一度も神に逆らうようなことは考えたことがない。しかし、この宮廷でどちらの女を求められるか尋ねられて、わたしはこれが宮廷の試練だとわかった。どうか、こちらのお嬢さん、わたしの話を聞いてください」

 すると、女が一人ついて来た。

「お嬢さん、あなたのお名前は」

「デイジー」

「デイジー、あなたは神に与えられた女ですか、神に与えられなかった女ですか」

「神に与えられなかった女です」

 女がそう答えると、マグダウェルは汗をかきながら答えた。

「わたしはマグダウェルだ。わたしは、あなたを選ぶ時にだけは、神に従ってあなたを選んだと思われたくないのだ。だから、わたしは神に与えられた女ではなく、神に与えられなかったあなたを選ぶ。どうか、わたしに身に着けているものを何かくれ。わたしはそれを持って戦場へ行く」

 デイジーは喜んで、マグダウェルに腕飾りを渡した。

「生きて帰ってきて、マグダウェル」

 デイジーがそういうと、

「必ず」

 とマグダウェルは答えた。


  5、入隊


 そして、マグダウェルは配属の部隊の部屋に行った。荒くれどもが集まっている。

「おい、新入り。おまえのやることはまちがいだらけだ。これからはおれのいうことを聞け」

 と同じ隊のやつがいってきた。こいつも新入りのはず。マグダウェルは、

「おまえのいうことだってあてになるか」

 と取り合わなかった。

「おまえたち、この国の名前を知っているか」

 すると、何人かは知らないようだった。

「日本だろ」

「そうだ。では、敵の国の名前は知っているか」

「ムー大陸だろ」

「それでいい。わからなかったら武器はムー大陸の方へ向けて使え。それだけはまちがえるな」

 隊長はそういい、新入りたちを迎え入れた。


  6、出陣


 マグダウェルの入隊した大日本帝国は、神の創りたもうた祝福された帝国である。大日本帝国に、異教徒であるムー大陸帝国が攻め込み、今度の戦争となった。

 ムー大陸帝国は百隻の艦隊を率いて太平洋諸島文明である日本帝国へ攻め込み、激しく荒らしまわっていた。日本帝国の神学は世界の本質をえぐり出したものであり、異教徒のムー大陸帝国の教義はまちがっていた。

「我々は神の偉大さのために命を懸ける。臆するな」

 将軍が演説し、出陣が決まった。

 ムー大陸帝国は、創造主たる神が自分の創造のすばらしさを見せつけるために創った偽りの帝国である。神の存在が真実ならば大日本帝国に負けはない。大日本帝国が負ける時は神が負ける時なのだ。


  7、初陣


 騎士マグダウェルは、戦争に出るのは初めてだった。幼少期の喧嘩では、殺したことはない。まだ、誰一人殺したことのない騎士なのである。戦争に行って、人殺しになって帰るのだ。

 マグダウェルが読んだ本や見た映画では、敵を殺すことが確かにあった。戦いというものを考えると、殺して勝つということはありえることだ。五歳の時、おじいちゃんが死んだ。だから、人が死ぬことが事実なのはわかっている。戦争になれば、人を殺すものだとマグダウェルは考えていた。

 敵兵を一人も殺さない軍隊、それはあまりにも御伽噺だ。大日本帝国には早すぎる。その実現は現代では無理だ。マグダウェルはそう考える。

 戦場に行き、マグダウェルが運命の槍で敵兵を貫いた時、確かに神は敵兵を殺すことを意思していた。神は戦争で人が死ぬ世界を創造したのだということがマグダウェルにはわかった。この運命の槍は、武器を持つものの技量とは関係なく、神の意思によって勝つか負けるかが決まる槍なのだから。

 マグダウェルは戦場で初日に一人殺した。


  8、合戦


 マグダウェルは、自分たちの部隊を指揮する将官が無能であることを理解した。この愚かな将官に従っていたら戦争の勝利はない。戦争に勝利するには、自分たちで将官を変えなければならない。マグダウェルは仲間と相談して、上官の訴追を行った。マグダウェルは上官を自分たちで変更して戦いに挑み、無事に合戦に勝利した。軍隊の運営利権に取り込む者は多い。それを取り除かなければ、戦争で勝利することはできずに、国内外の謀略家たちに国益を会ばわれ、戦争はいつまでもつづくのだ。

 マグダウェルは上官の変更を成功した。


  9、休戦


 ムー大陸帝国は、敗勢であることに気付くと、休戦を願い出た。そして、日本帝国に偽りの神に従うことを要求する手紙を送って寄越した。

 ムー大陸帝国の将軍のいうには以下である。「神の国は破れ、悪魔が勝利する。だから、勝利はムー大陸帝国のものに決まっている。大日本帝国の将軍は自分たちを神の帝国だというが、神の敗北が現実となることは、この世界を見ればわかるだろう。醜い怪物であふれ、卑怯者がどれだけ成功しているか。それは悪魔が勝利するからである。悪魔の勝利を信じるものはムー大陸帝国に従え」

 大日本帝国の将軍は、返書した。「悪魔は負ける直前まで勘ちがいしているものだ。あなたたちの愚かさが早く明らかになり、あなたたちが悪魔の敗北を知るといいのだが。我々大日本帝国軍の司令部では、神の勝利を疑うものはいない」

 そして、後日、再び、戦火を交えることが決まった。


  10、勲功


 勲功には神の意思が垣間見える。それは、大日本帝国軍でも、ムー大陸帝国でも同じである。神によって創造されたこの世界で、神による被造物の勲功が発表されて行く。それは、被造物がどれだけ自由意志で神の正しさを理解しようとしたのかが現れている。


  11、昇格


 マグダウェルは、戦争で大きな手柄ありと認められて、二階級特進した。

「すまない。きみの功績からすれば、一等兵から軍曹への昇格ではなく、いきなり大佐、少将への昇格が本来なのだが、みんなの先入観でそれがなかなか実行できないのだ。司令部の愚かさを許してくれ。上層部はどうしても、人事は慎重にやれとうるさいのだ」

 マグダウェルは仕方なく、自国の司令部を許し、二階級特進でよしとした。

 しかし、マグダウェルは階級こそ二階級特進であるものの、勲章をひとつもらい、その功績が多大なことが示された。マグダウェルは、味方の昇格と敵軍の昇格を調べ、興味深い男たちを観察した。

「おれ以外にも凄腕はたくさんいる」

 マグダウェルはさすが神が創造した戦争だと感嘆した。


  12、連戦


 敵軍の総司令官からマグダウェル宛に手紙が届いた。一騎討ちの挑戦状である。

「我輩はムー大陸帝国で最も戦闘に巧みな者、最高司令官である。先日の戦争を調べたところ、貴軍の勲功第一は騎士マグダウェル殿だとお見受けした。それなら、次の合戦の時に、我輩とマグダウェル貴殿の一騎討ちによる決闘を行い、お互いの軍の勝ち負けを決めることとしたい。我輩は逃げも隠れもせぬが、万が一にも、マグダウェル殿が臆病風にふかれたら、それは神がこの戦争をそのように創造なされたのだと覚悟するしかない。我輩は、この戦争の創造がどのようになされたのかに気づいているものの一人である。騎士マグダウェル殿がその視点に到達しているかには疑いがあるものの、いつかみながそれを知ることとなるだろう。よって、次の戦闘において、我輩とマグダウェル殿の一騎討ちによる決闘を行うことを承認されてくれ」

 マグダウェルは、

「承知した」

 と使者に返事をして、次の戦闘に備えた。マグダウェルは、引き受けはしたものの、一騎討ちのやり方など知らないので、戦闘になったらうまくそのようにことを運べるかが悩みだった。マグダウェルが持つのは運命の槍。勝つか負けるかは神の意思によって決まる。宮廷で待つデイジーは無事だろうか。

 やるしかないな。マグダウェルは覚悟を決めた。この戦争のために世界が創造され、その戦争で何が起こるのか。神よ、被造物がこの世界が創造された価値があったと思うかどうか、それは、明日の決闘にかかっているんじゃないかとマグダウェルは心配になってきた。本番で外すことのないようにがんばりたい。マグダウェルは本当にそんな気持ちだった。


  13、決闘


 そして、次の戦闘が始まると、マグダウェルは槍を持って敵陣の総大将を目指した。みなが総大将を目指すので、簡単に通れはしない。敵の防備も厚い。

 しかし、マグダウェルの持つ運命の槍は全戦全勝で、行く手をさえぎるすべての敵兵を打倒した。マグダウェルは敵軍総大将と一騎討ちになった。

「決闘は神が御覧になるぞ」

 誰かがそう叫んでいるが、そんなことにかまっていられる余裕はない。

 神の創造がこの決闘のためにあったのなら、それが終われば世界が終わるのかもしれない。運命の槍を持って敵総大将に挑みかかるマグダウェルを全軍が見た。この戦いのために世界は創造されたのか。そう思わせるマグダウェルの突進だった。

 敵総大将が迎え撃ち、マグダウェルの運命の槍が敵総大将の心臓を貫いた。神の意思がマグダウェルの勝利を決定した。

 勝負は一瞬だった。見逃した者は、なぜ、こんなに近くにいてこの決闘が見られなかったのかと深く後悔した。ムー大陸帝国は次々と武器を捨て、敗北を認めて降参した。大日本帝国は、降参する敵兵を虐げることなく捕囚とした。


  14、勝利


「勝った。勝ったぞ。おれたちの勝ちだ」

 兵士たちが騒ぎ出した。みな、喜んでいる。

 敵大将を槍で貫いた騎士マグダウェルの名は全軍に知れ渡った。

 疲れ果てたマグダウェルは地面に寝転んで休みだした。

 世界がこの戦争のために創造されたのだというそのことが少しずつ知れ渡りつつあった。マグダウェルの腕にはデイジーからもらった腕飾りが身に付けられている。あとは、神に与えられなかった女デイジーに会いに帰るだけだ。デイジーは他の男に襲われてはいないだろうか。どうしても気になってしまう。

 世界の起源はどこまでさかのぼっても、この戦争までしかたどることはできない。これが世界の創造の記録である。

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