第41話 ダブルデート 十四
「豆田さんって、車の免許持ってるんですね。
私、まだ教習所に通ってるんです…早く免許が欲しいんですけど。」
助手席から、どこかで聞き覚えのある台詞が聞こえてくる。そう、僕は亜紀を乗せて、目的地のレストランまで走っていた。
実は達紀から、
『とりあえずお前もレンタカー借りてきたんだし、2対2の配車な!』
と、僕は直前に言われていた。
「あ、でも、僕も免許取りたてなんです。
それでまだ運転、慣れてなくて。」
僕も、過去に言った覚えのある台詞を口にする。
1回目の時にあった、亜紀を乗せる緊張感は、今はもうない。しかし、やっぱり僕は、車の運転には慣れていない。
そして、僕はその先起こることを、容易に想像することができた。ここは、「過去」の世界だ。と、いうことは…。
「申し訳ございませんお客様。ただ今、当レストランの厨房機材が壊れてしまいまして…。」
やっぱり臨時休業だ。この点は、過去、1回目の時と、変わっていないらしい。
「なあ翔真、この後どうする?」
達紀の耳打ちも、1回目の時とおんなじだ。そして僕は、パニックになってしまった1回目の時を思い出す。
『そうだ。ここは、1回目と行き先を変えて…。
…でも、わざわざ変える必要ってあるのかな?もう僕は、亜紀と『別れる』つもりなのに…。』
そう思い、また亜紀との「最後の」想い出も同じ場所で作りたいと思った僕は、結局達紀たちに同じ場所を宣言する。
そして、僕たちは前と同じデパートに向かう。
そこでのエレベーターの「開く」ボタンを見て僕は、亜紀に自分の告白を受け入れてくれた時のことを思い出す。
『あの時亜紀は、エレベーターの開くボタンを長押しする僕を褒めてくれた。
あの時は、本当に嬉しかったな…。』
そう思うと、僕は泣けてきた。
「おい翔真、ちょっと涙目じゃない?」
その様子に気づいた達紀が、1回目の時にはなかったであろう台詞を僕に告げる。
「ごめん、ちょっと目にごみが入っちゃって…。」
僕は、そうごまかす。
そしてその後は、前にも聞いた達紀のダメ出しであった。
しかし前とは違い、僕はそのことで落ち込んだりはしない。
ただ、この後のランチ、そして今日の「日課」が「最後の」亜紀とのデートになる…その事実は、僕を落ち込ませる。
『でも、これは自分で決めたことだ。だから…。』
僕は、もう一度気合を入れ直す。
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