第7話 プロローグ 七

 「何これ!おいしい!」

そのチョコレートは僕好みのビターなもので、「彼女が作った。」ということを差し引いても、本当においしいものであった。

 「え~それ本当に言ってる!?」

「うん。やっぱりチョコレートはビターじゃないとね!あと、ちょっと柔らかい感じもいいかな。」

「うんうん。やっぱり私の腕は間違いないか。あと、私翔真がビター好きだってこと、ちゃんと調査済みであります!」

そういえば僕は昔、そんな話をしたことがある。

 「ありがとう亜紀!亜紀なら本当にいいパティシエになれそうだね!」

「翔真、本当にそう思う?」

そう言った亜紀は、今までの冗談モードから

真剣な顔になっており、それが彼女の決意を表していた。

「うん!僕、お菓子のことはよく分からないけど、亜紀なら絶対に夢、叶えられると思うよ!」

そして、僕は亜紀の背中を押す。

「ありがとう!何か、嬉しいな…!」

そう言う亜紀の目からは、涙が少しこぼれる。

 「亜紀…もしかして、ちょっと不安だったりする?」

僕は亜紀の彼氏だ。亜紀の気持ちは、誰よりもよく分かる…いや、分からないといけない。

 「うん…実はね。

私、やっぱりお菓子作りは経験したことないし、それに私、外国で勉強するわけだし…。

 もちろん自分で決めたことなんだけど、私、やっぱり不安で…。」

そんな彼女を、僕は優しく抱き寄せる。

 「大丈夫。亜紀ならできるよ。亜紀を1番近くで見てきた僕が言うんだから、間違いないって!

 それに、僕はいつでも亜紀の側にいるよ。だから、頑張って、亜紀。」

「うん、翔真、ありがと。」

僕は耳元で亜紀にそう囁き、亜紀はそう返事をした。

 思えばその時が、僕たちの愛のピークだったのかもしれない。

 この後、まさかあんなことになるなんて、その時の僕は、想像もしていなかった。

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