コルスィーベン
人間による反逆の火種になると目されていたケインがシェーラ・プラネタリによって懐柔されてしまったことで、今回の実験については失敗に終わったと思われた。しかしこの結果は、ある意味では当然のことであろう。
サーシャやシェーラはあくまで平穏に生きていきたいだけなのだ。博士が何をしていたところで今のリヴィアターネではそれを止める術はない。しかも、自分達が大人しくしていれば博士は無茶なこともしてこない。ならば、無駄に波風を立てたくはないと考えるのも自然なことなのかもしれない。
それはケインとて同じことだった。メルシュ博士のやり方に納得できない部分はあってもここに暮らしてる者たちは穏やかで、幸せそうに見えた。それを確認する為に、シェーラに対して『幸せか?』と問うてしまったというのもある。だから元々、何か事を起こそうとか考えていた訳ではないのだ。
だが一方では、博士による非道な実験が続いていることもまた事実であった。
「おはよう、コルスィーベン。調子はどう?」
メルシュ博士の研究施設で、メイトギア人間の第一号であるレオノーラ・アインスが、日課としているコルスィーベンの世話をする為に現れた。だが―――――
「コルスィーベン…? どうしたの? 大丈夫!?」
叫ぶようにしてレオノーラ・アインスが声を上げると、本体であるエレオノーラ(レオノーラAM308)がすぐさま駆け付け、部屋の壁にもたれてぐったりとしていたコルスィーベンを見た。が、その瞬間に彼女は察してしまったのだった。
メイトギア人間であるレオノーラ・アインスとしては無理でも、メイトギアであるエレオノーラには、容易にバイタルサインが取得できてしまう。そして、コルスィーベンも、その胎内にいる筈のCLSの胎児のそれも、全く検出できない状態だということが分かってしまった。
僅か五分前、監視カメラで確認した時にはいつも通りにぼんやりしているだけだと思った。なのに、食事の為に魚を取りに行っている間に急変してしまったらしい。
レオノーラ・アインスは、コルスィーベンのことをまるで自分の家族を介護するかのようにある種の思い入れを持って接していた。それなのに……
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
コルスィーベンとその胎児が死んだのは自分の所為だと、レオノーラ・アインスは自らを責めた。それなのに、メルシュ博士はいよいよ実験の結果が出たのだとホクホク顔でコルスィーベンの亡骸をリリアテレサに運び出させたのであった。
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