シェーラ・プラネタリ

「ご、ごめん! 俺、何か悪いこと言ったか!?」


狼狽えるケインに、シェーラは頭を横に振った。艶のある赤い髪が、少女の頬を打つ。


「ケインは悪くない。悪いのは、たぶん私達の方。私達が本当は人間じゃないから……」


「……!」


零れだしてきた彼女の言葉に、ケインは息が詰まるのを感じた。


シェーラは知っているのだ。自分達がクローンであり、厳密にはケインとは同じでないことを。それをケインは言っているのだと感じてしまったのである。


彼女はケインの孤独を癒してあげられない自分の不甲斐無さに、自分が人間ではないという事実に、打ちのめされていたのだった。


「バ、バカ! そんなワケあるか! 悪いのはお前じゃないよ!」


咄嗟にそう叫んで、ケインは強く否定した。自分がおかしなことを言ってしまって困らせたのだと思った。


シェーラ達が人間じゃないことは、ケインも知っていた。だが、そんなことを気にしたことはなかった。ケインの知る限り、シェーラ達は自分と何も変わらない。メイトギアが動かしているメイトギア人間は確かに違ってるかもしれないが、シェーラ達クローンやメイトギア人間を母親として生まれた小さい子供達のことを人間じゃないとか思っていた訳ではなかった。


メルシュ博士のやってることは確かに何か違うと感じてしまっていた。それに対して憤りがあったのも事実だ。しかしそれは造物主たる博士に対する気持ちであって、シェーラ達のことを悪く言うつもりなどなかったのだ。


「ごめん! 俺が変なことを言ったから! だから泣くなよ! お前に泣かれると、俺、どうしていいか分からなくなるんだ!」


それは、ケインの正直な気持ちだった。物心ついた頃からCLS患者の姉と二人きりで生きてきて、人間としての常識を何一つ学んでない野蛮な自分を受け入れてくれる、シェーラやエレクシアをはじめとしたこの町の住人達に対しては感謝しているし、人間かそうでないかなんてことはどうでもよかった。自分との接し方に戸惑っていることも仕方ないと思ってたからそれを責めるつもりもなかった。


中でも、スクールで自分のことを特に気にかけてくれるシェーラについては、内心、感謝以上の気持ちも感じていたりしたのだ。だから彼女を悲しませたりしたいとは、考えたこともなかったのである。先程も言ったとおり、ケインの複雑な感情は、メルシュ博士に起因するものでしかなかった。シェーラ達には何の責任もないことだった。


なんとか涙を抑えようとするシェーラと、そんな彼女を前におろおろするケインの姿が、夕日に照らされて赤く染まりつつあったのだった。


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