コゼット2CVデイジー
『ああ、サーシャ…死なないで……』
サーシャに付き添っていたコゼット
レンカCS30Tの例もあるように、ロボットでありながら人間でいうところの<鬱状態>になりうる可能性さえはらんでいたと言える。
心がないのに鬱になるというのは不可解にも思えるかもしれないが、鬱というのは人間の場合であっても脳が正常な処理を行えていない状態のことであって、ある意味では物理的な状態異常なのだ。非常に高度な思考を行う現在の人工知能であれば、十分に起こりうることなのだった。
もっとも、ロボットの場合は人間と違って簡単に完全に解消する方法はある。初期化してしまえばいいのだ。ただしそれを行うと、全ての記憶を失ってしまうので、機体そのものは同一でも完全に<元通り>とは言えなくなってしまうかもしれない。バックアップしたデータから復元もできるものの、そのまま復元すると鬱状態まで再現されてしまう可能性が高いので、慎重な作業が求められる。
ましてや、このコゼット2CVは、そもそもオリジナルの状態ではない。実は彼女は、元は別の機種のメイトギアだったのだ。しかし元の機体は非常に状態が悪くいくつものトラブルを抱えて遂に起動できなくなってしまったのだった。そこで、今のコゼット2CVのボディーに記憶を移し替えて復帰したということだった。ただしそれも、完全な状態になるにはメルシュ博士によるフルメンテナンスが必要だった為に、サーシャにとってもコゼット2CVにとっても博士は大変な恩人であった。
ちなみに、現在のコゼット2CVは、自身のことを<コゼット2CVデイジー>と称している。本来の機種名<デイジーFS505>にちなんで自らつけたものだ。
この為、彼女は初期化してしまうとそれこそコゼット2CVデイジーではなくなってしまう。今の状態でバックアップは取ってあるから復元しようと思えばできなくもないが、今の彼女はサーシャの<母親>だから必要とされているだけで、サーシャが死亡すればコゼット2CVデイジーが存在する意味もなくなってしまうのは間違いないと言えるのだろう。
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