神をも恐れぬマッドな科学者

「さて、上空百キロとのタイムラグの実証実験も兼ねて、降下するよ。リリアテレサくん」


そう言ってメルシュ博士は、全裸のままでもう一機の着陸船へと乗り込んだ。その後を、呆れた様子でリリアテレサがついて行く。


シートに着いてもやはり全裸のままシートベルトを装着し、機体の操作はリリアテレサに任せ、メルシュ博士は鼻歌交じりで楽しそうにしているだけだった。


先に降りた着陸船のすぐ近くに降り、彼女はシートベルトを外すのももどかしく、ハッチを開けて外へと降り立つ。


全裸のままで。


「ははは、素晴らしい! 新たに装備した感覚センサーは良好に作動しているな。股間を吹き抜ける風まで感じ取れる!」


そこは、住宅街の中にある、小高い丘の上に作られた公園だった。本来はその周辺の住人の憩いの場であったのだろうが、今ではもうそこで憩う人々の姿はない。そんな中で、メルシュ博士は腕を組み仁王立ちになっていた。もはや人目などは無いとは言え、さすがにシュールな光景だった。


体はロボットだからCLSウイルスなど気にする必要もないのもそうだが、それにしてもまともではない。まあ、元より彼女はまともじゃないのだが。


「ただ、やはりこれだけ本体と離れると、僅かだがタイムラグを感じるな。数値上は無視できるレベルの筈なんだが、人間の感覚というやつはそれだけ鋭敏ということか」


腕を組んだまま空を見上げ、彼女は言った。


彼女が何を言っているのかというのを説明すると、実は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士の意識を移した<本体>は、この上空百キロに静止衛星として位置を固定された<アリスマリアの閃き号>の中にある、小さな一戸建ての住宅並みの大きさの装置だったのである。そう、この全裸の美女のロボットはあくまで人の姿を模したインターフェイスでしかないのだ。この体の中に彼女の意識がある訳ではない。


「まあでも、取り敢えずは成功ということだな。とにかくデータを集め改良を加え、早々に三メートル四方程度の大きさにまで小型化せねばなるまい。そうすれば、十八メートル級のロボットになら搭載できるようになるからな」


要約するとこうだ。今はまだ、戸建て住宅並みの大きさの装置である本体に改良を加えて小型化すれば、少なくとも全高十八メートル程度。つまり人間の十倍ほどの大きさのロボットになら本体を搭載できるようになり、より活動的になれると言っているということである。その為のデータ集めも兼ねているということだ。


するとその時、メルシュ博士の背後から近付く影があった。その気配に気付いたリリアテレサが身構える。だがメルシュ博士は平然としていた。そんな博士の肩に食らいついたのは、長い黒髪に眼鏡をかけ、白衣といくつもの装置をまとった女性だった。それは紛れもなく、CLS患者と化した<人間としての>メルシュ博士なのであった。


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