第16話 ありふれてない日常風景
5:40 起床。
もうVRマシンで寝起きする生活にも大分慣れた。むしろ今では布団で寝るより楽かも。
6:00 日課のランニングに出る。
6月も後半になり、大分暑くなってきた。あともう半月もしたら暑苦しくなるんだろうな。
6:20 いつもの公園に到着。
いつもの広場に移動して周りに誰も居ないことを確認する。目を閉じ、呼吸を整え、意識を広げる。
薄く、広く、均一に
そうすることで普段より自分の周りを広く正確に把握できる。
今は大体半径10mくらいが限界。
その中で感じられるのはスズメの気配が9、野良猫が1、羽虫は沢山。
あとは、っと。僕の腕に狙いを定めた蚊を追い払う。
続いてイメージトレーニング。
両手を前に出して手のひらを上にして、その上に野球ボール大の気弾を3つ作る。
それらをお手玉みたく規則的に回す。
まずは縦回転。続いて僕の周りを回るように横回転。その間も加速や減速、急停止などの動作も織り交ぜる。
最初やった時は動きが不安定だったり、後ろに回ったところで消えたりして上手く行かなかったけど、大分コツが掴めてきた。
そして問題はここから。
3つの気弾それぞれを不規則に飛ばす。
といっても今はまだ直線的に飛ばすのが限界だ。
半径3mの球形の壁をイメージして、それにぶつかったら反射させる。
そして不規則だからこそ、僕に当たるコースの弾も出てくるので、最小限の動きでかわす。
このあたりはまだまだ師匠から動きが大きいと叱られる。
そしてさらに次のステップ。
気弾の数を増やしていく。3から5、5から7。
ここまで増やすと避け切れなくなるので、その場合は横から弾いて逸らす。
今は避けるのと逸らすのは7:3くらいの割合。
「ぐっ!?」
時々、避け損なって被弾する。
バレーのスパイクを顔で受け止めたような衝撃だ。
急いで体勢を整えるも、ここぞとばかりに残りの弾が襲い掛かってきて敢え無く撃沈。
師匠『この程度で死ぬとは情けない』
って、師匠。僕はどこぞの勇者じゃありませんからね。まったく。
頭に浮かんだ妄想を振り払って、時間になるまでこれを繰り返す。
6:50 整理体操をしてから公園を後にする。
7:10 帰宅。
シャワーを浴びて汗を流し、学校へ行く準備をする。
7:40 学校に向かう。
この時、公園に行くのと同じ速度で走ると、周りがびっくりするみたいなので、半分くらいの速度で軽く流す。
8:10 学校に到着。
クラスメイトに挨拶しつつ、席につく。
ここから始業のチャイムまでは、ちょっとした作業タイムだ。
うちの両親は学費と最低限の生活費を出してくれるけど、他は自力で何とかしろっていうタイプ。
まあ、それだけ出してもらえるだけでも有難いよね。
それを友達に言うと、微妙な表情を浮かべた後に「まぁ、がんばれよ」って肩を叩かれる。
閑話休題。
なので、小遣い稼ぎに去年から合間を縫って携帯PCで小説を書いてたりする。
有難いことに去年の夏に何かの大賞に選ばれたらしく、見事書籍化。
お陰でちょっと忙しくなったけど、ちょっとくらいは良いお肉と果物を食べられるようになった。
って、それを言うとまた友達から肩を叩かれるんだけどね。
「おはよう、天道くん」
そう挨拶をしてくれるのは、クラスメイトの織田 ほのかさん。
初めて会ったのは去年の春なんだけど、仲良くなったのは秋の終わりくらいになってからだったかな。最近は、おなじVRゲームをしていることが分かり、昼休みとかに話す機会が増えた。
「おはよう、ほのか。あれっ、前髪少し切った?」
「うん、揃えようと思ってちょっとだけ。って、ほんの数ミリなのによく分かったね」
下の名前で呼び合ってるのは、ゲーム内でそうだから、リアルでもって言うことになった。
まぁただ、最初教室で呼び合った時のまわりの反応は凄かった。
一瞬にして全ての音が消えるし、全員が僕の方を凝視するし。
一部男子の殺気も混じってた気がする。
ほのかの人望なのか、質問攻めにされることは無くて助かったのは心底ほっとした。
挨拶を交わす間も手を止めない僕を見て、ほのかは作業の切れが悪いんだと察して「じゃあ、またお昼にね」って早々に話を切り上げてくれた。
こういう気遣いが出来て、いつも楽しそうだから友達も多いみたいだ。
今も他の女の子と挨拶を交わしてる。
「え、昨日とほとんど変わってないじゃん。どうしてぱっと見で分かるの!?」って声が聞こえるけど、たぶん髪の話かな。
放課後。
帰宅途中にスーパーによって帰宅。小説の投稿期限が近いので1時間くらい集中して書き上げてしまう。
完成したら、編集部の担当の飛鳥さんにメールで送信。
校正してもらって、早ければ2日くらいで戻ってくるはずだ。
あとは家事を済ませて食事を取れば準備完了。
部屋の中央に鎮座しているVRマシンに乗り込み、起動する。
ログイン時独特の浮遊感が終わると、薄暗い洞穴の中に降り立った。
この洞穴はここ1週間くらいの僕の寝床だ。
洞穴から外に出た先は、鬱蒼と茂る森に囲まれた広場になっている。
そして僕が起きた気配を感じ取ったのか、この洞穴の本来の主である、全長4メートルの聖獣フェンリルが僕の目の前に降り立った。そう、彼が今の僕の師匠だ。
『今回はいつもより遅かったではないか。さあ、お前たち人間の寿命は短い。早速、今日の修行を始めるぞ』
「はい、よろしくお願いします。師匠」
そう言って今日も僕と師匠は森の中へと飛び込んでいくのだった。
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