第14話 出会いは一期一会
= Side ほのか =
やられた~。
あっという間も無く、伝票を持って会計を済ませてしまうテンドウくん。
リードしてくれる男性としては凄く格好良いんだけど、折角貸しを返せる絶好の機会だったのに、これじゃ全然返せてないじゃない。
そう思いながら遅れて届いたモンブランにフォークを突き刺した。あ、おいしい。
彼との最初の出会いは去年の夏。
塾が終わった後におしゃべりしてたらすっかり遅くなってしまって、急いで帰っている最中、運悪く酔っ払いに絡まれてしまったの。
相手は話を全く聞いてくれないし、腕を掴まれてしまってヤバい!!って思ったところで、偶然通りかかった彼が助けてくれた。
彼はすごく手慣れた様子で酔っ払いを介抱した後、女の子の一人歩きは危ないからって、見ず知らずの私を家まで送ってくれた。
後で聞いたけど、お父さんもよく酔っぱらって帰ってきてたからそれで慣れてたらしい。
ただ、家に帰って、部屋に入った所で、自分の馬鹿さ加減に気付いた。
……名前、聞いてない。学校も、連絡先も。帰り道、あんなに時間あったのに。これじゃ助けてくれた恩をどうやって返せっていうのよ。私の馬鹿。
それから何度かわざと時間をずらしてあの時と同じ時間に帰ったりもしてみたけど、会えなくて。
意気消沈してた私を見かねた両親が、欲しいものがあったら買ってあげるよって言ってくれたから、思わずVRマシンが欲しいって言っちゃった。
その当時で60万近くしたはずだから、お父さんたちには大分無理させちゃったんだろうな。
一緒に買ったAOFっていうゲームで魔導士になって魔法を撃ちまくってたら大分気分が晴れたけど、それを見てた今のクランマスターに「劫火(ごうか)の魔女」って二つ名を付けられた。
そんな私に転機が訪れたのがその年の冬の初め頃。
学校の昼休みに中庭のベンチに男の子がいたから気になって見てみたら、なんと彼だった!
そう、彼は同じ学校の生徒だったの。
私はこの機会を逃したらダメだと思って、勢い込んで話しかけた。
彼はびっくりしてたけど、あの時のお礼を言ったら覚えててくれた。
どうしてこんな所にいるの?寒くないんですか?って聞いたら、「この時期の中庭は静かで集中できるから」って言いながら手を動かしていた。
多分空間投影型の携帯PCを操作してるんだと思う。
その日から、昼休みになったら中庭を覗いてみて、彼を見つけては声を掛けていた。
彼の名前は、橋渡天道くん。同じ学年の2つ隣のクラス。
携帯PCで何してるか聞いてみたら、なんとアルバイト代わりに携帯小説を書いてて、秋くらいから書籍化までされてるらしい。
どんなの書いてるのか聞いたけど、国造りをテーマにしたファンタジーものってだけ教えてくれた。
あれ、最近出てるラノベで国造りものって言ったらベストセラーの天川先生の作品以外あったかな。
あ、ラノベとは言ってなかったから、また別の人だよね。
そして次の転機が訪れたのは今年の春。クラス替えで彼と一緒のクラスになれた。
神様ありがとう!!
さらにある朝、珍しく彼が眠そうにしてたので、どうしたのか聞いてみたら、なんとAOFを始めたって!
思わず興奮してぐいぐい行っちゃったけど、引かれなかったよね。
そして下の名前で登録してた過去の私、グッジョブ。これでお互いに名前呼びで一歩前進だよね♪
それにゲームの中なら気軽に相談と称してお茶に誘えるし。
うん、リアルではまだ恥ずかしくて無理です。
ただ、私って出会ってから相談ばかりしてる(しかも彼は的確なアドバイスをくれる)から、貸しばっかり溜まってる。
いつか恩返ししたいな。
そう思ってたら彼から相談を持ち掛けられた。
なんでも東の森のゴブリンが増えすぎて困っているから、クエストを発行してみんなの協力を求めたいらしい。
「(任せて!!こんな時こそ私の魔法の出番よね)」
心の中で思わず握りこぶしを握ってしまった。
すぐにクランメンバーに声をかけて、手の空いてる人と戦闘好きな人を中心に、彼が発行したと思えるクエストを引き受ける。
【クエスト「上位ゴブリン討伐」
目標:初めの町カウベの東の森に発生しているゴブリンの上位種の討伐
報酬:討伐した種類、数によって変動
期間:街建設イベント終了まで。日割り可。
特記:東の森にいる蜘蛛のうち、茶色、緑色の蜘蛛については向こうから攻撃されない限り、攻撃しないこと。黒い蜘蛛に関してはその限りにあらず】
【クエスト「森の清掃作業」
目標:初めの町カウベの東の森に落ちているごみの収集。
報酬:収集量よって変動
期間:街建設イベント終了まで。1日単位で受け付け可。
特記:自分たちでワザと捨てるなどして、収集量を嵩増しすることは厳禁】
【クエスト「森の巡回警護」
目標:初めの町カウベの東の森周辺の警護。森の外周にいるゴブリンの討伐
報酬:担当日数により増加
期間:街建設イベント終了まで。日割り可。
特記:東の森にいる蜘蛛のうち、茶色、緑色の蜘蛛については向こうから攻撃されない限り、攻撃しないこと。黒い蜘蛛に関してはその限りにあらず】
私はまず、クランメンバーのうち仲良くしているメンバーを集めた。
「みんな良く聞いて。攻撃目標はゴブリン全般と黒い蜘蛛よ。
茶色の蜘蛛にはこちらからは攻撃しないで。
むしろ出会った時に怪我をしているなら、HPポーションを投げて治療してあげて」
「ほのちゃん、茶色の蜘蛛を攻撃しないのは分かったけど、治療までする必要はあるの?」
この中ではヒーラーのピノが手を挙げて質問してきた。
それに対し私は力強くうなづいて見せる。
「あるわ。私の友達からの情報だけど、茶色の蜘蛛が人間に敵対して進化したのが黒い蜘蛛らしいの。
逆に言えば、私たちが味方だって伝われば黒い蜘蛛も減るはずよ」
「あ~、それは良いわね。黒い蜘蛛を相手するのは骨が折れるし」
「他に質問はないかしら。無ければ行きましょう。
目標は最上位ゴブリンの討伐よ!」
私の得意魔法は火魔法で、今まで森林火災が心配であまり森には近づかないようにしていた。
今回はその対策として炎の矢を圧縮して針のようにして撃ち出すようにした。これで魔物だけを撃ち抜ける。
早速森に入ってゴブリンの集団を発見。
私の撃ち出した炎の針は5m先にいたゴブリンファイターに当たった所で小さく爆発、ゴブリンは死んで光になる。
続けて10発、炎の針を生み出して打ち出す。どんどん倒してるけどキリがない。
テンドウくんが言ってた通り、森がゴブリンで溢れてるんじゃないかって思えてくる。
隣でピノが「ホノカちゃん無双。私たちの出番は~」って言ってる。
うん、ちょっと張り切りすぎたかしら。
そしていると黒い影が木々の合間を縫って走って来たのが見えた。
「レンガ、ポジションチェンジ!」
「おう、任せろ」
レンガは盾使いの重戦士。
私の指示を受けて前に出ると黒い蜘蛛が吐き出した糸を盾で受け止めた。
「しゃらくせぇ!」
そのまま突進してバトルハンマーを振り下ろして左足3本を叩き折った。
「とどめ頂くよ」
そう言いながら横合いから放った長剣使いのロッテの一撃で絶命させた。
「ふぅ。ナイスアタック。それにしてもキリがねぇな」
「確かにね。
でもゴブリンは相変わらずだけど、蜘蛛は減ってきた気がするわ」
「そうね、これもほのちゃんの提案のおかげかもね。
あ、ほら。また茶色い方の蜘蛛が居たわ」
そう言いながら手を振って挨拶をしてみると、なんと向こうも右足を振って挨拶してくれた。
「こうしてみると愛嬌があって可愛いわね」
「……愛嬌があるのは分かるが、可愛いってのは分からねぇな」
「好みはそれぞれね」
う~ん、可愛いと思うんだけどな。茶色い蜘蛛たちは挨拶をすると別方向に居たゴブリン達に攻撃をしかけていた。
「さ、私たちも負けられないわね。もうひと頑張り行きましょう」
「あいよ」
「はーい」
そう言って私たちは次のゴブリンの群れに攻撃を仕掛けていった。
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