第8話 クレーム処理
馬車はゆったりとした速度で大通りを進んでいく。
「馬車が走れるくらい、人通りに余裕が出来たんですね」
うん、馬車を見て最初に思ったのがこれ。
昨日の混み具合だと馬車どころか馬1頭だって無理だったことを考えると、劇的に改善されたのが良く分かる。
「はい、これもテンドウ様のお陰です」
そう言って笑顔を向けてくれるメイドさん。
リアルだとまずお目にかかれないからこうしてすぐ近くで話すのは凄く新鮮だ。
「それで? ずいぶんと急いでいたようですが、何があったんでしょうか」
「それは、テンドウ様のご都合も確認せず強引に連れてきてしまい、申し訳ございません。
領主様からは先日の件で急ぎ力を借りたく、そして本日を逃すとまた当分捕まらないかもしれないと伺っていたものですから」
「まぁ、確かに。恐らく今日会えなければ次はまた3日後とかになっていたでしょうね」
そういう所はリアルとバーチャルで時間の流れが違うのは不便だよね。
「はい。それとただいま、その件で街の有力者が数名領館に押し掛けてきておりまして」
「あ~それは大分面倒くさそうな感じですね」
「はい、申し訳ございません」
そうこう話している間に領館に到着して、昨日とは別の部屋の扉をノックする。
「失礼いたします。テンドウ様をお連れいたしました」
「おぉ待っていた。通してくれ」
この声は領主様だね。
その返事を受けて中に入ると、会議室っぽい部屋に領主様と10人程、30代くらいの人と50代くらい人が5人ずつ居た。
僕はまずは領主様に向けて挨拶をすることにした。
「先日ぶりです。領主様。お呼びとお聞きして参上しました」
「うむ、よく来てくれた。
早速で悪いが、用というのは先日提案してくれた都市開発についてだ。
君も知っているかもしれないが、この街の北西を予定地として既に動き出しているのだが、一部の方々から物言いが付いてな。
私が言うよりも発案者たる君から説明してもらった方が納得がいくと思ったのだよ」
それを聞いて、それまで黙って僕を物色していた10人の内、比較的若い人達が明らかに見下した態度で話し始めた。
「こんな若造の話など聞くまでもないと思いますが、今回の件をどう説明するのですかな」
「そもそもあんな机上の空論を持ち出すこと自体、頭がどうかしているとしか思えん」
「ガボン殿もガボン殿だ。こんなガキの口車に乗って動かれるとは」
「失敗した時の責任をどう取っていただけるのか、まずはそこを教えて頂きたいものだ」
「そうだ、どう責任を取るのか言ってみろ!」
疑問を言うのかと思ったら口々に文句を言いだす人たち。
あー、これってただのクレーマー集団、なのかな。いや、そうでもないか。
年配の方々は僕がどう出るか吟味している節もあるし。
暴走する若い衆と、それを抑えつつ納得できる回答が欲しい親方の図、かな。
であれば若い方は叩いても大丈夫そうだね。
「えと、責任、責任と仰いますが、何に対する責任について仰っているのでしょう?」
「決まっている。今回の件が失敗した時の責任だ!!」
「誰に対して?」
「もちろん、出資する我々に対してに決まっているだろう」
その言葉を聞いて僕は大袈裟に喜ぶフリをしてみせた。
「あっ、出資して下さるのですか!ありがとうございます。いやぁ、予算は幾らあっても困ることはありませんからね。ちなみにお聞きしますが何億イェン融資いただけるのですか?」
「ばっ!馬鹿な事を言うな!!億? そんな大金出せる訳無いだろう」
「え、なぁんだ。責任問題だって言うからきっとそれくらいは出して下さるんだろうと思ったのですが、期待しすぎでした。申し訳ございません」
「き、きさまっ!」
沸点低いなぁ。何だろう。小学生を相手にしてる気になってきた。
この調子じゃ多分まともな説明しても無駄だろうね。
「それに、もしこの計画が失敗した場合。皆さんが被る被害って何ですか?」
「そんなもの、いくらでもあるに決まっているだろう!」
「具体的には?何か例を挙げて頂けると分かりやすいのですが」
「それはあれだ。考えれば分かるだろう!!」
「いえ、皆様が想像していることはさっぱり分かりません」
「要はあれだ。時間と金だ!」
「はぁ。でも今、お金はそれほど出せないと仰ったところですよね。
時間についても、皆さんがどういう立場の方かはまだお聞きしていませんが、皆さんに直接何かをしていただくことはありません。
もし、今ここで話してる時間がそうだ、というのであればお帰り頂いて結構ですよ。
別に僕が皆さんを縄で括り付けて拘束しているわけでもありませんし」
「くっ、ああ言えばこう言う。口だけは達者だな」
「ありがとうございます」
「きさっ」
お礼を言うとクレーマー達は顔を赤くしてプルプルしている。
でも他の年配の方々は苦笑しているから予想通り問題にはならずに済みそうだ。
「それと、この計画を今止めたら、良くて数日前の大混雑の状態に逆戻りですよ。
折角今、街中は落ち着いてきたのに、皆さんが反対したせいで元に戻ったら、それこそ、皆さんに批判が殺到しますよ。
ですが逆に、この計画を進めて万が一失敗した場合、悪くても元の状態に戻りますが、その場合の批判の矛先は外来人と領主様に向くことはあっても、皆さんに向くことはありません。
そして無事に成功した暁には、主導した方々が賞賛されることは間違いありません。
後の問題は皆さんが積極的に参加するのか、ただの傍観者で居るかです。
そう考えれば皆さんに不利なことなどないと思いますよ」
「……勝算は、あるんだろうな」
僕が自信たっぷりに話すと、苦虫を嚙み潰したようにそう言ってきた。
こういう時ははったりでも大船に乗ったつもりで話すのが吉だ。
「僕は間違いなく成功すると確信しています。
あとは皆さんが僕の言葉を信じるかどうか、いえ、今まで皆さんが培ってきた経験と勘からどちらを選ぶのか、それだけです」
「「……」」
あら、黙っちゃった。
それを見て、ようやく静観していた人たちが口を開いた。
「ふははははっ。その辺にしておけ」
「そうだな。お前たちではどうにもならんな」
「わしらは今回の件に乗るつもりだ。お前たちはギルドに戻って準備をしておけ」
「で、ですが、ギルマス」
「あ?お前、ここに連れて来ただけでも譲歩してやったってのに、まだ俺の決定に文句があるってのか」
「い、いえ。そのような事は決して」
「ならとっとと行け。無駄に時間も金もねぇんだろ」
「は、はいぃ」
「あなた達もよ。今日はもう各トップだけで十分だから席をはずしなさい」
「分かりました…」
うーん、上下の力関係が凄いな。
サブマスだったのかそれ以外の役職なのかは分からないけど、年配の人たちの一喝で若い人達がそそくさと退室していった。
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