ウィッチウィザード~魔法という名の犠牲~

にぃつな

第1話 プロローグ

 離れ島――


 海に浮かぶ三つ葉のような形状をした奇妙な島。

 様々な奇怪な生き物たちが喉かに暮らしている楽園のような場所。


 大きな湖の中心に石が浮いていた。


「……」


 石に念じるかのように佇む一人の少年がいた。


(あそこへ移動するイメージ…)


 少年は肺いっぱいに吸い込んだ空気を殻にする勢いで息を吐いた。

 目を開け、石のみを頭の中でイメージするかのように周りの景色を真っ黒に塗りつぶす。石。石だけが動くイメージのみを描いた。


 スー…と石が右に動いていく。

 動いているのかというほど微妙に横にずれていく。目を再び閉じ、一分後に眼を開けたころには、石が最初あった場所から一センチほどずれた位置に移動していた。


「フー、今日の訓練は終わりだな」


 空を見上げ、大きく息を吐いた。


 ドボン! と大きな音を立て、水しぶきを上げながら石は水中へと沈んでいった。


 この訓練は、石をできるだけ音なく動かせるかを挑戦していた。


「数ミリ動かすだけでもうヘトヘトだぁ~」


 背伸びをし、地面に仰向けに倒れた。

 雲一つない空を見つめながら、時間が穏やかに流れていくのを肌に感じつつ、風に吹かれながら気分を落ち着かせていた。


「なんだ? もうヘトヘトかぁ」


 木陰にもたれ、両手を組む青年がいた。

 

「ミッド!」


 慌てて身体を起こし、ミッドに見つめあうかのように姿勢を正しくした。


「そんなんじゃ、ガンドルフに怒られちまうぞ」


 オデコに人差し指で突き飛ばされた。

 一回転し、転がる。


 身体を起こして、ミッドに睨みつけた。


「ぼくなりに頑張っているんだい! それに、今日は一センチは動かせた」


 湖に指を指しながら特訓の成果を報告した。


「で、その肝心な石はどこにいった?」

「あ……」


 特訓の成果の石は水の中に沈んで行ってしまった。再び浮上させるのも気力を使う。ミッドに納得させるほど特訓の成果を見せることが叶わないと悟った。


「ご、ごめんなさい」


 とりあえず謝る。少年の悪い癖だ。


「俺に悪い事でもしたか?」

「い、いえ…」

「なら、謝る必要なんてないさ」

「でも…」

「お前の悪い癖だ。なんでも謝ってしまう。その癖を治さないと外でやっていけないぞ」


 ミッドの言うとおりだ。深く反省しなくちゃ。

 あ…再び謝ってしまった。


「姿勢はいいから、まずどれくらいできるようになったか見せてくれ」


 特訓の成果…ミッドに見せてやるんだと心の底から好奇心という水が波だってきた。

 少年は立ち上がり、さっそく水に沈んでいった石を呼び寄せた。


「転送」


 パッと石が何もないところから突然出現した。ドシンと地面に叩きつけた。

 その瞬間、ゴボゴボと泡が湖の中心から浮かんできた。石と陸地の空気を入れ替えたからだ。入れ替えた空気が水の中で泡となって浮かんできたという証拠だ。


「それは今まで通りだな。では、あれを入れ替えられるか?」


 ミッドがある一点を指した。

 大きな樹が目に移った。


 どっしりとした大きな枝が地面に脈を張るかのようにへばりついている。木のてっぺんには大きな赤い果実が実っていた。


「ドタキャモンの木じゃないか。少し難しくないか…」


 ドタキャモンの木は地面に脈のように根っこを生やす特殊な樹で、樹を引き抜くと真っ赤な血のようなものを吹き出すことで有名。

 真っ赤な果実は悪魔の実とも呼ばれ、肌に触れたら身体中の穴から血が噴き出すという恐ろしい怪樹だ。


 そんな樹を動かすなど、危険極まりない。

 ミッドは何を企んでいるのか…と視線を泳がしてみた。


「これぐらいできなきゃ、一人前と認めないぞ。それに――」

「ティノ! 学校に遅れるわよお!!」


 女の人の声が遠くから聞こえてきた。


「はーい! 母さん」


 大声で返事を返した。


 ミッドに手を振りながら「また、明日来るね」と言って、バイバイした。


 ティノが去ったのを見届け、ミッドはひとり寂しく湖を眺めていた。

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