ショートショート

@Yui-Ka

第1話 振り込め詐欺

 「もしもし俺だけど…」俺は振り込め詐欺で飯を食っている。罪悪感はない…いや正確には最初はあった。でもさ、おかしくない?若い俺達が苦労してるのにたまたまいい時代に好景気に生まれて年金貰って日ながら遊んでるの。だからこれは詐欺じゃない正義だ。俺が腐った年寄りから金を巻き上げて日本をよくする。簡単な話だろ?

 その日もいつもの調子で電話を掛けた。「もしもし母さん…会社で失敗しちまって…」「たかし、たかしなの?あんたどうして!?何やってるの!?」「母さんどうしよう、会社からクビにされたくなきゃ300万円振り込めって…」「いいよ…仕事なんて…どうでもそんな会社…やめちゃいな…ごめんねごめんね…あのときあんなこといってお母さんが無理にでも働くようにいったから…まだ私のこと怨んでるんだね…当然だよね」なんだか様子のおかしい受け答えに俺はたじろいだ。「お母さんあんたが死んでからずーと後悔してた。自分もあんたのところ逝こうって何度も思った。でも……でも怖くてできなくて…ごめんねごめんね…仕事なんてお金なんてどうでもいいから…命だけは…」がちゃん!俺は脂汗を大量にかいて受話器を置いた。…俺はこの日以来詐欺をやめた…

 俺は金を奪っていたと思っていた…でも、俺は人の尊厳を奪っていたんだ。

 

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