016 風雲急を告げる (2)
アイリスさんが目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎのことだった。
いくら体力回復用の
あれだけの傷を受けて再生した場合、普通ならあと数日程度は寝続けるはずなんだけど……元々の体力が凄いのかな? 私の予測は一般人の場合、だから。
治療の時に見た身体は、なかなか良く鍛えられていたしね。
「店長殿、ご迷惑をおかけして大変申し訳ない。そして、助けて頂き、誠にありがたく」
ケイトさんに支えられるようにして二階から降りてきたアイリスさんは、私の前に座ると深々と頭を下げた。
その所作は美しく、もしかするとアイリスさんは良いところの出なのかも知れない。
「気にされなくても良いですよ。無償というわけじゃないですから。治療費はケイトさんにお支払い頂きますし」
そう言って私がケイトさんに視線を向けると、ケイトさんもしっかりと頷く。
それを見てアイリスさんが慌てたように声を上げた。
「あ、いや、それは私が――」
「店長さんに頼んだのは私。だから、その借金は私が背負うべき物よ」
「しかし、怪我をしたのは私で」
「その怪我も私たちを守るために負った物でしょ?」
「だが――」
そんな感じで、どちらが払うか言い合う二人。
幸い、どちらも『自分が払う』で、借金の押し付け合いじゃ無いのはありがたい。
せっかく助けたのに、ギスギスしたのは見たくないから。
でも、ここでやり合われても正直対応に困るし、別に一人で背負う必要も無いよね。
「はいっ!」
『パンパン』と手を叩いて、二人の話し合い(?)を中断させる。
その音に状況を思い出したのか、こちらを見て揃って気まずそうな表情になる。
「あっ、店長殿、申し訳ない」
「ごめんなさい、店長さん」
頭を下げる二人に私は首を振り、提案をする。
「私としては、ケイトさんの依頼で助けましたから、請求はケイトさんにします。ただ、お二人で協力してお支払いになる方が良いとは思いますよ? 安くないことは解ってますよね?」
「はい。正直、あの怪我で生きていることが信じられない。一日しか経っていないのに、ちぎれた腕も問題なく動かせるなんて」
私の言葉に、アイリスさんは何度も頷き、自分の腕をさすりながら動かす。
その動きに不自然なところは無く、特に問題もなく回復できているようだ。
理論上大丈夫なことは解っていたけど、実際にきちんと回復しているところを見ると、安心するね。
「私も見ていて信じられなかったもの! まさかこんな田舎の店にあんな
この村を貶すような失言にケイトさんが慌てて謝るけど、私とロレアちゃんは否定できない事実に、苦笑するのみである。
「いえ、正直、私も田舎だと思ってますから。ちなみにあの
「ですよね? あんな
まぁ、実は虎の子の、あれよりもワンランク上の
もちろん、これに使った素材も、師匠から貰った餞別。
あまりに高価な素材に、正直、使うときには手が震えそうになったよ。
かといって、温存していても意味は無いし、弟子としては使わない方が申し訳ないと思って使ったけど。
「ちなみに……おいくらに?」
ゴクリと唾を飲んでこちらを見つめるケイトさんとアイリスさんに、私は少し躊躇いつつも、正直に使用した
「そうですね……普通は治療行為自体にも費用が発生するんですが、そちらはサービスするとして、
そう言って私が告げた金額に、ケイトさん、アイリスさんだけでなく、側で聞いていたロレアちゃんも絶句した。
更に、せっかく良くなっていたアイリスさんの顔色も少々悪くなっている。
「な、なるほど。こ、これは頑張らないといけないな、うん」
「そ、そうね。二人で頑張りましょ、アイリス」
さっきまでどちらが返すかと言い合っていた二人は、一転して顔を見合わせて手を握りあい、やや震えながら頷いている。
仲良きことは美しきかな?
でも、結構値引きしてるんだけどね、これでも。
普通に買うともっと高いよ?
「剣で切り落とされただけ、とかならもう少し安い物でもなんとかなったんですけど。お腹も結構やられてましたし」
「ああ、いや、店長殿。決して値段に不満があるわけでは無い。あの状態から完全に回復させてもらって、感謝しかない」
「そうね。何とか回収してきたけど、正直、あの酷い状態の腕が繋がるとは思ってなかったもの」
「そこはケイトにも感謝だな。良くあの状況で回収してくれた」
あ、それは私も思った。
かなり危ない状況だったみたいなのに、良く腕を拾う余裕があったものだと。
「だって、欠損した部位の再生なんて、まず無理って話は聞いてたから。腕があれば少しは可能性があるかと必死だったし……アイリスのこの腕が無くなるのは、嫌だもの」
ケイトさんはそう言いながら、そこにあることを確認するかのように、一度千切れたアイリスさんの腕を撫でる。
その手にアイリスさんも手を添えて、改めて「ありがとう」とお礼を口にした。
うんうん、美しき友情。いいね!
友達が少ない私的には、ちょっと羨ましいかも?
「あの、サラサさん、無くなった腕の再生ってできないんですか?」
あぁ、それって気になるよね。
錬金術って一般人からすれば、何でもできるってイメージだし。
でも、普通の村人だったロレアちゃんよりも色々と知識のあるアイリスさんたちは、苦笑して『それは無理』みたいな表情を浮かべている。浮かべているんだけど……。
「いや、できるよ?」
「「えっ!?」」
ロレアちゃんの質問に対し、あっさりとそう答えた私に、ロレアちゃんでは無くアイリスさんたちが声を上げて、私の顔をマジマジと見る。
気持ちは解るけどね。
「でも、『まず無理』って言うのも間違ってないかな? 私の師匠――とまでは言わないけど、高位の錬金術師と高価な素材が必要で、もちろん、今回ケイトさんたちに請求した額とは全然違うレベルのお金が必要になるから。普通の人には『まず無理』でしょ?」
その説明に、驚いた表情を浮かべていたアイリスさんも、納得したように頷く。
「それは無理ですね。今回の治療費だって、私だったら無理ですもん」
「庶民だと、そうなる、かな?」
どうやっても用意できる額ではないし、借金も不可能。身売りしたところで、無理である。
死ぬまで働いても、普通の仕事では貯める事ができないほどの額。
故に、庶民は再生する方法がある事を知ったとしても、“諦める”。
可哀想だ何だと言ったところで、貴重な素材が必要な事は事実で、それを集めるためには誰かが――具体的には採集者が危険を冒す必要がある。
『可哀想だから、タダで働いて』などと言って、働いてくれるはずもない。
「やっぱそうなりますよねぇ。当然と言えば当然なんですけど……」
「大丈夫だよ、ロレアちゃんはうちの従業員だから、もしもの時は助けてあげるよ」
「……ちなみに、代金は?」
「給料天引きで」
「死ぬまでただ働きですよ!?」
「安心して。従業員割引きはしてあげるから」
「多少の割引きでどうにかなる額じゃないと思います……」
そう言ってため息をつくロレアちゃんに、私も苦笑する
まぁね。ちょっと無理な額だよね、普通なら。
でも、ロレアちゃんが、師匠のところのマリアさんぐらいになれば多分可能。だから是非頑張ってもらいたい。私もロレアちゃんを失いたくないし。
「きちんと治してあげるから、安心してね?」
「うぅ……嬉しいような、嬉しくないような……」
「ふふふふ……」
助かるのは嬉しくても、借金生活は嫌って事かな?
大丈夫、その場合にも給料全部を取り上げるなんて事はしないから。
生かさず、殺さずじゃないと、回収できないじゃない?
――冗談だけど。
「あ、あの、店長殿。私たちの借金はどのくらいのペースで返せば?」
私の笑みに不安になったのか、アイリスさんがおずおずと手を上げてそんな質問をした。
「そこは要相談ですね。アイリスさんたちの実力も判りませんし」
「私たちはそれなりの腕前――のつもりなんだけど……」
「大怪我をして担ぎ込まれたわけだから、説得力は無いな。虚心坦懐、頑張らせてもらう」
ややこわばった顔で、そう決意を宣言するアイリスさん。
大樹海に入ろうというのだから、それなりの自信があってこの村に来たんだろうけど、最初で大怪我だからねぇ……運もあるとは思うけど。
「まぁ、無理をさせるつもりはありませんから、安心してください」
「そ、そうか。すまない、迷惑を掛ける」
アイリスさんがホッと息を吐くと同時に、「きゅるるるる~」という音が聞こえた。
そして、赤くなるアイリスさんの顔。
「……あぁ、お腹空きましたよね」
「あ、いや、その……」
「何か食べましょうか。買い置きの物になりますけど」
「そ、それはさすがに申し訳ないっ!」
「そうよ! 宿を貸してもらえるだけでも十分に……。外で食べるから」
「でも、お金、節約しないといけないでしょ? 大した物じゃないので、遠慮しないでください」
「良いのだろうか……?」
「ええ。ロレアちゃんお願い。それから……」
台所へ向かうロレアちゃんを見送り、アイリスさんたちに視線を戻して、その全身を見る。
えーっと、うん、汚れてるね。
「アイリスさんは……いや、ケイトさんも、食事の前にお風呂に入ってきてください」
「いや、そこまで世話になるわけには……」
「うちで生活するなら、遠慮せず――いえ、むしろ絶対に入ってください。不潔なのは嫌なので」
「うっ……私、汚れているだろうか」
ズバッと、はっきり言う私に、ちょっと傷付いたように涙目になるアイリスさん。
でも遠慮はしない。そもそも錬金術に汚れは禁物だしね。
「一応拭きましたけど、綺麗とは言い難いですよね」
「ぐはっ! もしかして私の身体を拭いたのは……?」
「私です。汚れていたので、素っ裸にして拭いておきました」
「ケ、ケイトがしたわけじゃ?」
縋るような視線をケイトさんに向けるアイリスさんだが、ケイトさんは首を振って否定する。
「私は寝間着を着せただけよ? 私が見たときには、素っ裸でシーツを掛けられてただけだから」
「うぅ……」
他人に裸を見られたのがショックなのだろうか?
アイリスさんはガックリと肩を落とす。
男に見られたわけでも無いのにねぇ?
取りあえず、落ち込んでいる彼女は放置して、お風呂の準備。魔法でちゃちゃっと終わらせて戻ってくると、ケイトさんに何か言われたのか、アイリスさんが復活していた。
「それじゃ、二人とも入ってきてください」
「手間を掛けさせて申し訳ない。……身体を拭いてもらったのも含めて」
「まぁ、錬金術師も医者みたいなものですから、病人、怪我人のケアをするのは当然です。気にする必要はありませんよ」
「いや、解ってはいるんだがな……」
アイリスさんはそう言いながら苦笑を浮かべる。
理屈では解っていても、恥ずかしいことは恥ずかしいか。解らないでもない。
私も最初のうちは他人の裸を見るの、恥ずかしかったし。
けど、それもわずかな間だけ。
錬金術師養成学校の実習はそんな甘い物では無い。
恥ずかしいとか、暢気なことを言っていられない状況に放り込まれ、そんな感情はすぐに消え去った。
今では男の人の裸を見てもなんとも思わない。――医療行為の時には、ね。
「アイリス、それはもう気にしないってさっき決めたでしょ? それじゃ、店長さん、お風呂お借りしますね」
「はい。綺麗にしてきてください」
私はそう言って、ケイトさんに支えられてお風呂に向かうアイリスさんを見送った。
◇ ◇ ◇
「さて。ケイトさんたちが出会った獣について、聞いても良いですか?」
お風呂と昼食を終え、全員が一息ついたところで私はそう切り出した。
おおよそ予測は付いているけど、一応ね。
「ああ。外見的には熊に似ていたが、腕が四本あった。大きさは、私より頭二つ分は大きかったな。かなりの巨体だったよな」
アイリスさんが立ち上がって、これぐらいとこれぐらい、と手で示す。
その大きさは、やや身長高めのアイリスさんよりも頭二つ分以上大きく、横幅は一メートル近い。
「毛皮が赤くて、口から火を吐いてたわね。アイリスが斬りかかってもなかなか切れないし、爪も丈夫でアイリスの剣を簡単に弾いてたわ」
「あっ! 私の剣は!?」
ケイトさんの説明に、アイリスさんはそんな声を上げたが、ケイトさんは少し気まずげに首を振る。
「ゴメン、さすがに回収する余裕は無かったわ」
「――だよな。はぁ……まさか無くす事になるとは……」
アイリスさんは一瞬言葉に詰まり、情けない表情になって大きく息を吐く。
そんな状況でも腕だけは回収してきているんだから、ケイトさんは十分凄い。
しかし、この特徴、やっぱりあれかぁ。
「その特徴に、更に毒となれば、やはりヘル・フレイム・グリズリーで間違いないみたいですね。出会ったのはこの村からどのくらいですか?」
「そんなに遠くない、よな?」
アイリスさんはちょっと小首をかしげて、確認するようにケイトさんに視線を向ける。
ケイトさんもまた少しだけ考えて、頷いた。
「ええ。遠かったら、アイリスは助かってないわ。必死で走ってたけど二〇分までは走ってない、と思う」
「結構近いですね……サラサさん、大丈夫でしょうか?」
「う~ん……魔物としては、そこまで強くは無いんだけど……」
私のその言葉に、アイリスさんが目を剥いた。
「は!? あれでそこまで強くは無いのか!?」
「はい、魔物としては」
魔物とその他の獣。
明確な定義があるわけじゃないけど、一般的には猟師では斃せないような生き物で、人間の脅威になる生き物がまとめて“魔物”と分類されている。
簡単に言えば、“強ければ魔物”。
ヘル・フレイム・グリズリーも、そんな魔物の一種なんだけど、アイリスさんが示したサイズは、ヘル・フレイム・グリズリーとしては中型程度。
強さ自体はそこまでではないので、私からすれば脅威と言うほどではない。
「魔物って、怖いのね……」
「アイリスさんたちは、魔物に会ったのは初めてですか?」
「ああ。これでも少しは腕に自信があったんだが……」
私の問いに頷きつつ、少し落ち込んだ様子を見せるアイリスさんとケイトさん。
でも、初めて対峙したのなら、そんなものかな?
魔物が“脅威”として認定されるのは伊達ではないのだから。
「でも、普通はもっと奥に生息してるはずなんだけどなぁ。村に入り込まれると危険だよね」
「サ、サラサさん、どうしましょう? やって来たりはしませんよね」
「いや、どうかなぁ……?」
「えぇっ!?」
不安そうな表情を見せるロレアちゃんを安心させてあげたかったけど、嘘はつけない。
私が正直に答えると、ロレアちゃんは焦ったような表情を浮かべて、目に見えてオロオロとし始めた。
ロレアちゃんは実際にヘル・フレイム・グリズリーを見ていないとはいえ、その被害を受けたアイリスさんの大怪我を見ている。
それなりに戦えそうな彼女が死にかけた事を考えれば、動揺してしまうのも仕方ない。
「こ、こういう場合、領主様にお願いすれば?」
「一応はそうだと思うけど、動いてくれるか……」
現状では『森の中に魔物がいる』という段階で、被害を受けたのも森に入った探索者のみ。
探索者はそういった危険も承知の上で森に入るわけで、それ自体は領主からすれば大した問題では無い。
兵を動かすためにはお金も掛かるため、『危険そうだから』だけではなかなか対処してくれないのだ。
有能な領主なら、村に被害が及ぶ前に対処する。
普通の領主なら、村人に被害が出てから対処する。
無能な領主なら、村人に被害が出ても放置する。
もっとも、村が一つ無くなったとなれば大きな失点になり、王様から何らかの処罰を受ける場合もあるので、そこまで放置するのはよほどの無能って事になるんだけど……。
「ここの領主様はどんな感じ?」
私の問いに、ロレアちゃんは首を振る。
さすがにロレアちゃんの歳だと、そのへんのことは知らないか。
その代わりに、私の質問に答えたのはアイリスさんだった。
「私の印象だが、『無能寄りの普通』だな、恐らく」
「そんな……」
アイリスさんの結構容赦の無い評価に、ロレアちゃんが暗然と顔を伏せる。
私からすれば、被害者が知人かもしれない状況だけど、この村で生まれ育ったロレアちゃんからすれば、旧知の誰かが被害を受けることになるわけで……。
とは言え、私からしてもその被害者が知人の確率、低くないんだよねぇ。
最右翼は猟師のジャスパーさん。森に入ってるからね。
さすがにお隣さんを見捨てるのは、心苦しいし……。
「よし、ちょっと行って素材にしてこようかな?」
「「「……え?」」」
私の言葉に、三人が揃って唖然とした声を上げた。
「いやいや、店長さん、そんな気軽に言うようなことじゃない、ですよね?」
ケイトさんがハッとしたように、ワタワタと手を振って『そんなバカな』みたいな表情を浮かべるけど、平然としている私に、言葉の途中から『あれ?』みたいな表情に変わる。
けど、ロレアちゃんの方はそんな余裕も無いのか、私に泣きそうな顔ですがりついた。
「そうですよ! 誰かが怪我……するのも嫌ですけど、サラサさんだって!」
ロレアちゃんは万が一、ヘル・フレイム・グリズリーが村に侵入したら、怪我では済まないと思ったのか、少し言いよどみつつも、私のことを心配する言葉を口にする。
その言葉は確かにありがたいんだけど、そこまで深刻になられると、ちょっと困る。
「いやー、そんな心配されることじゃないんだけど……」
「店長殿は……もしかすると、強いのか?」
「師匠には全然及ばないし、自分で強いというのは
悩むべきは、どうやって斃すかだねぇ。
魔法を使っても良いけど、せっかく最近は剣の訓練を再開したことだし、剣で狩ってみようかな?
ただ、素材を考えると、斃し方も考慮しないといけない。
心臓を突いてしまうと、心臓が素材として使えなくなるし、頭を攻撃すると、目玉とかそのへんの素材が取れなくなる。
適当に切り裂いて失血死を狙えば、錬金術的素材の面では悪くないんだけど、死ぬまで暴れるので食肉の味という点ではマイナス。
一気に血抜きするために首を切り落とすと、短時間で死に至るけど毛皮の価値は落ちる。
全部を手に入れるのは難しいから、どれかは諦める必要があるんだよね。
――などという解説をすると、三人の視線が驚きからだんだんと呆れたような物に変わっていく。なぜ?
「ううむ……錬金術師が強いという噂は本当、だったのか?」
「あ、いえ、人それぞれですよ? そのへんの実技が及第点ギリギリという人もいますから」
錬金術師は高度な魔力制御を必要とするため、誰しも魔法に関してはそれなり以上の腕を持っているし、その制御力は、攻撃魔法を使う場合にも影響する。
ただし、戦えるかどうかはその人次第。
学校では攻撃魔法をほとんど習わないからね。
それに対して、武器の扱いの方はきちんとカリキュラムが組まれているけど、あまり力は入れていないので、最低限、自分の身が守れれば単位は取れる。
目安としては、護衛を雇って採集に行く際、足手まといにならない程度。
それ以上は各自の自主性に任されているので、腕の方は結構ピンキリ。
「私の場合は……まぁ、同学年では良い方ですね」
「そ、そうなのか……。しかし、店長殿を一人行かせるのは……」
「あ、さすがに一人だと死体を持ち帰れないので、荷物持ちの人は雇いますよ?」
重量的には、身体強化を頑張れば何とでもなりそうだけど、体格差は如何ともしがたい。
せっかく狩るのだから、細切れにして師匠から頂いたリュックに詰め込むのも勿体ない。
「な、ならば私がっ!」
「え、でも、アイリスさん、まだ本調子じゃ無いですよね?」
「いやっ! 大丈夫だ! 荷物持ちぐらいなら問題ない」
「えーっと……」
ちょっと困ってケイトさんの方を見ると、ケイトさんは『心得た』とばかりに頷く。
良かった。さすがに病み上がりの人を連れて行くのは――。
「任せて。私もちゃんと参加するから」
「ええっ!?」
違う! 私が求めたのはそっちじゃない!
止めて欲しかったのっ!
どうしたものかと悩む私に、ロレアちゃんが尋ねる。
「でも、サラサさん。サラサさんなら大丈夫なんですよね? もし危険がある様なら……」
ちょっと不安そうなロレアちゃんの様子に、私は慌てて、力強く頷いた。
「勿論だよ! 私からすればあの程度の熊、朝飯前。ご飯の付け合わせレベルだからね! 足手まといがいても問題ないよっ」
「……足手まとい」
「あっ……」
思わず口にした私の言葉に、アイリスさんがずずーんと沈んだ表情になる。
「あ~~、店長さん。私たち、ついていかない方が良い?」
「あ、いえ、熊を運ぶ人は必要なので……。えっと、アイリスさん、取りあえず今日の所はゆっくりと休んでください。明日、行きましょう! お手伝いよろしくお願いします! ささっ、早く寝て体力を回復しないとっ!」
「え、えっ?」
こういう時は勢いで押し切ろう。
落ち込んだアイリスさんを追い立てて、ベッドへと押し込みうやむやに。
苦笑しているケイトさんとロレアちゃんに背を向け、私は明日の狩りの準備を始めたのだった。
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