第2話:再び聖女様と公園で
――翌日。
学校から帰っていると、昨日天宮と話した近所の公園ベンチに人影があった。その人物は――天宮真白であった。
(何でまたいるんだよ……まさか公園が好きなのか?)
そんなことを思っていた。別に高校生にもなって、公園が好きなのはいけないことではない。落ち込んだ際は公園などでリフレッシュするのも悪くわないのだから。
だが、昨日の今日だ。今日の学校での天宮は普段と変わり無かった。天宮が何か事情を抱えているように見えるが、本人が話そうとしない限り樹は関わるつもりはないのだ。
また昨日のように声をかけようか迷っていたところ、彼女の瞳から涙が零れ落ちたのが見えた。いや、見えてしまった。
「――天宮は泣くことが好きなのか? これは新しい発見だな」
気づくと、樹は自然と彼女に声をかけていた。
(何やってんだよ俺)
俯いていた顔を上げた天宮が声をかけた方を見ると、自分の方に歩み寄ってくる樹の姿があった。急ぎ袖で涙を拭う天宮だったが、見えてしまったからにはもう遅かった。
「な、泣いてなんかいません。あなたの目は節穴ですか?」
「そうかそうか。それは残念だな。泣いていたらまたハンカチを貸してあげようと思ったんだけど」
冗談半分で残り半分は本音だったのだが。
「だから泣いてなんかいません。あなたの勘違いです」
やたら冷たくされている気がしてならない。あの学校での聖女然とした優しさは樹には向けられないのだろうか?
そこでハンカチで思い出したのか、「そうでした」と言って天宮はカバンの中を漁って何かを取り出した。
「これお返しします……先日はありがとうございます」
天宮の近くまで来て見ると、それは昨日天宮に貸したハンカチであった。別に貸したとはいったが、返してくれなくてもよかったのだ。
天宮のことだ。しっかりと洗ったのだろう。見るとアイロンまでかけてあった。
「別にここまで丁寧にして返さなくてよかったのに……」
「いえ。借りた物はしっかりと返さないといけませんので」
「そうか。ありがとう」
受け取ったハンカチからほのかに香る洗剤の香り。
これが天宮が使っている洗剤かと思い、これを誰かに自慢したらこのハンカチは確実に狙われ奪われることになるだろう。そもそも学校では友達の少ない樹にその心配はないだろうが。
「……やっぱり何があったかは聞かないのですね」
「当たり前だ」
「そうですか……」
二人は無言になり、二人だけしかいない公園を静寂が包み込む。とは言っても小鳥の囀りなどは聞こえてくる。空も日が落ち始め暗くなり始めた。
そんな静かな公園に電話の着信音が鳴り響く。着信音は天宮からではなく樹のスマホからであった。
「げっ……」
取り出したスマホの画面を見て変な声を上げた樹に、不思議に思ったのか天宮は尋ねる。
「あの、桐生さん?」
「わ、悪い。妹だ。少し待っててくれ」
天宮の返事を聞かずに電話を出ると。
「……もしもし?」
『やっと出たお兄ちゃん! もう帰ってくるの遅いよ! どこほっつき歩いてるの?!』
やたらと耳に響く声に、樹は反射的にスマホを耳から遠ざけた。
「声がデカいんだよ……」
そう電話相手の相手に小さい声で愚痴った。
『って、聞いてるのお兄ちゃん!?』
「聞いてる聞いてる。だからもう少し声のボリュームを下げてくれ! 耳がキーンってするから」
『暗くなっても帰ってこないお兄ちゃんが悪いんでしょ!』
「それはすまんとしか……」
確かに連絡の一本も入れなかった樹が悪い。
そして、電話越しに機嫌が悪いだろう妹の姿を想像し、説教を受けるのかと思うとガックシと肩を落とすのだった。
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