第23話 帰る方法を模索する

「それで、何か帰る方法はあるの?」

「うん......そうだ。ヴェストは魔力感知能力が高いよね? 神樹の方向とかそれでわからない?」

「まりょくかんち? うーん......無理だよ。さっきみたいな敵意剥き出しの魔獣だったらわかるけど神樹なんてわかんない」

「そっか」


 困った。村の方角がわからないんじゃ、帰りようがない。周りは木で囲まれ、どこまでいっても同じ景色が続く。村の誰かがおれたちを助けに来てくれるのを待つか?


 正直、見つかる可能性は限りなく薄いな......。やっぱり自力で村に戻るしかない。


 上から神樹を見つけられればと思ったけど、魔獣が飛び回ってるのであれば、ルピアに見てもらうこともまず無理だろう。これ、もしかして詰んだ?


 いや待て、もしかしたらおれも飛べるんじゃないか? もちろん羽なんて無いし舞◯術は使えない。


 けどおれにはひのきのぼうがある。召厄獣と戦った時にリティカがやっていたように、ひのきのぼうで足場を作り、上に上がっていけば......魔獣に襲われるおが心配だけど、一瞬で逃げればなんとかなる、よね......?

 

 なんて、心配している場合では無い。とにかくやってみよう。


 ひのきのぼうで足場を作る。すぐに足を乗せる。足場が崩れる前に、新たな足場を作る。一歩一歩確実に登っていく。


 ヴェストが「落ちるなよ!」とおれに言う。返事する余裕はなく、おれはひたすらに上へ上へと、足場を作り、登っていく。


 それにしても高い。常に足に気を張っているせいか、足が震え始める。風がフワリと吹く。弱い風だったが、おれの体は大いにフラついた。なんとか踏ん張り、歩みをを止めることなく進む。


 それからようやく、木々の葉っぱを抜けた。

「うわっ」

 今度は強い風が吹く。広めの足場を作り、そこに手をついた。作って間も無く落ちていくが、何度も作り出す。そうして息を整えてからおれは周囲を見渡した。


 見えた、神樹だ! やっぱりあの樹はひときわデカイ。こうして進路を逐一確認すれば帰れるぞ。


 よし降りようかと言う時、おれは微かに羽を羽ばたかせる音を聴いた。音のする方へ顔を向けると、細長い魔獣がおれの方へと向かってきている最中だった。


「ぎゃああああああ!」


 おれはさっきルピアがあげた悲鳴と同じような悲鳴をあげた。バランスを崩し、おれは倒れた。まずい、足場が、


 咄嗟に足場を作りだすが、場所がズレ、おれは自分で作った足場の縁におでこをぶつけた。


 キンとした痛みがおでこを刺した。再び足場を作ろうにも、うまく魔力を練るのに集中できない。真っ逆さまに落ちる。くそ、やばい、死ぬ!


「ベン頑張れ!」


 ヴェストの叫び声が耳に入った。おれはありったけの魔力を練り、ひのきのぼうで足場を出した。身体全身に鈍い衝撃が走る。


 それからすぐにひのきのぼうは崩れる。再び落ちようと言う中、何かがおれを抱きかかえた。おでこから出た血で前がよく見えない。


「ベンしっかりして!」


 この声はルピアか。ルピアが助けてくれたのか。

 ルピアはおれを抱えて重いのか、ゆっくりと落ちていくように飛ぶ。


 着地すると、すぐにヴェストが駆け寄ってきた。


「何怪我してんだよ!」

「へへ、やっちまいやした。ルピアありがとう」

「ベン、バカなの?」

「でも方角はわかったよ」


 おれは周囲を見渡してから、ある方角を指差す。ヴェストとルピアはおれの指差した方向を見た。そこにはひのきのぼうがいくつか落ちていた。


「神樹の見えた方角に棒切れを出したんだ。とりあえずあっちの方角に行ってみよう。わかんなくなったらまた方角を確認する。上の魔獣はここまで追ってこれないみたいだしね」

「偉そうに言ってるけど、おでこからすっごい血出てるし、大丈夫なの?」

「平気だよ」


 おでこに手を当てると、ネトリとなんとも言えない生暖かい感触が手のひらに伝わってきた。それから忘れていた痛みが襲ってくる。


「すごい痛い!」

「どうしよメディカさんがいないと、治せないし......」


 とにかく傷口を洗って、止血したい。出来れば消毒までしたいけど、ここでは無理そうだな


「ルピア、水とか出せない?」

「出せるよ」

 こいつ万能すぎるな。なんならルピアもおれと一緒で転生者なんじゃね? 


「これ洗いたいから水ちょうだい」

「わかった。おでこ出して」


 言われた通りに髪をどけておでこを出す。と言っても、短髪だからそんなに退けなくてもいい。

 前世では20代前半ですで毛根がかなり後退していてこんなおでこを出すために髪を退ける必要なんて無かった。いやー感慨深いね。


 ルピアは手から水を出しながらおれのおでこの血を洗い流していく。


「これでよし」

「ありがとうルピア。ルピアは凄いね! 魔術がこんなに出来るなんて」

「うん。一応炎も出せるから。必要ならいつでも言って」


 得意げな顔を浮かべて手のひらから火の玉をポッと出す。どうやら少し機嫌を直してくれたみたいだ。

 それにしてもルピアは本当に凄いな。これで飲み水の心配はしなくていい。火を出せるなら動物の肉を焼いて食べることも出来そうだ。


 それから、

「ヴェスト、周りに魔獣がいたらわかる?」

「魔獣? 強いやつだったらわかると思う。あいつら魔力がたくさん垂れ流されてるから」


 よし、これならヴェストの能力で危険な魔獣を避けつつ、ルピアの魔術で食い繋いで、おれが身体を張って村の神樹の方角を確認すれば。いける。これなら村に辿り着けるかもしれない。


 いやー、一時はどうなるかと思ったけどなんとかなるもんだね! 流石はおれの主人公補正だ。唯一の懸念事項と言えば、木の上の魔獣だな。今みたいに一回一回、流血するレベルの怪我してたら身が持たない気がする。まぁ......なんとかなるでしょ!

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