15話 見つかった

 街の中央広場へと向かう道、兼次と麻衣、そして麻衣と手を繋いでいるルディ。3人は横並びで道の中央を、堂々と歩いていた。昼時の昼食時間帯もあってか、道を往来する人はまばらで、より3人の歩く姿が際立っていた。

 ルディは、スカートの感触が気になるのか… 女装が恥ずかしいのか… 下を向き、とぼとぼと歩いていた。両脇に居る2人より、背も低く足も短いため、2人より遅れると小走りで差を詰めていた。


「ちょっと、歩くの速いわよ! 少しは気を使ってよね!」


 麻衣に言われた兼次は、若干嫌な表情をすると「わかったよ…」と麻衣を見て答えた。それから、歩くと開けた空間にたどり着いた。広さは、サッカーコートの半分位だろう。中央には周囲の家より高い木が、1本だけ生えている。広場の隅には、石作りの井戸が見えた。


 3人が中央広場に到着すると、兵士達が中央の木の陰に木を組んで台を作っていた。その周辺には見回りの兵士が数人、広場に散らばって。そして野次馬たちも、数人その様子を伺っていた。

 さて、何処に隠れるか… と兼次は考えながら、広場の入り口付近から見まわした。


「身を潜めそうな場所がないな・・・」

「やっぱ、定番のスラム街かしら」と麻衣は、昨日行ったスラム街の方を指さして言った。


 兼次は麻衣の提案を聞きながら「スラム街かぁ…」と言いながら、麻衣の指先を見た。その先には、道端に座り込んでいる人や、道で遊んでいる子供が見えた。


「人がいるな…」と兼次は、振り返り通って来た道を見た。その道は街の入り口に、一直線に伸びていて。見通しもよく街を抜けた先には、木々が生い茂っている森林も見えた。


「よし、麻衣達は街の外の森林で待機だ。俺はここで待機して姉を助けたら、そちらに直接行く」

「おっけー、わかったわ。じゃぁー、ルディちゃん行こっか」


 麻衣は振り返ると、ルディを引っ張りその場を後にしようと、歩き出した。ルディも彼女に後をついて、歩き出した。少し歩いて、ルディは振り返り兼次を見た。


「安心しろ、合わせてやるから」

「うん・・・」


 兼次はルディに優しく声をかけると、2人を見送ることなく広場の隅に移動を始めた。彼は中脳に設置された、台から一番遠い場所を選ぶと。壁際に背を付け、もたれ掛かった。そして革袋から豆銀を取り出すと、握りしめ腕組をして設置された台を眺め始めた。

 時間が経つにつれ、広場に人々が集まって来た。人が増えるにつれ、人々の話声が徐々に大きくなっていき、広場を占領し始めた。


 よし、そろそろかな? と思った兼次は、右手に握っている豆銀に力を込め。物質の合成を始めた。それから暫らくして、広場中央の台に兵士が現れた。


「皆の者、静まれー! これより我らの街に、忍び込んだ敵国の密偵の、公開処刑を行う」


 兵士の大きな張り声によって、周囲の人々は一人、また一人と黙り込む。そして、台上の兵士の方に、注目し始めた。やがて広場が静まると、両脇の兵士に連れられた人物が、台上に上がった。

 茶色の長い髪をかき分けた三角耳、鋭い目線で集まってきた人々を睨む眼つき。口にロープが巻かれ、開かれ固定された口から犬歯がのぞいていた。腕は後ろに回され、動かせない様に縛ってあった。

 兼次は台上に、囚われている人物を観察していた。


 (… 昨日店で触りまくった、猫娘の耳と違うようだな。尻尾にも長い毛が生えているし、ルディの姉で間違いないようだな。よし、動くか…)


 そう考えた兼次。周囲を見渡し、誰も自分の方を見ていない事を確認する。右手を広げ、中にある豆銀を、手のひらの上で宙に浮かせる。そして人々が集まっている後方の、誰もいない地面めがけて、それを飛ばした。


 豆銀が地面に接触すると同時に「パン」と言う銃声に似た、とても大きな破裂音が広場に響き渡った。それと同時に爆発による衝撃波で、広場全体に瞬間的な強力な風が通り抜けた。「うわー」「きゃぁー」と言った、人々の声が一斉に湧きあがると、人々は音のした方を一斉に振り返った。


 何が起きたか分からず、音のした方を見ていいる民衆を、兼次は確認すると。彼はテレポートで、ルディの姉の背後に回り込んだ。そして、右腕を出し彼女のアゴをつかんだ。


「助けてやる。ルディが待っているぞ」


 顔を近づけ彼女の耳元で、ささやいた兼次は何気に民衆の方を見た。全員振り返っている民衆の中で、男女のペアが1組、兼次の方を向いているのが見えた。彼は、その人物を睨み牽制すると、テレポートでルディの姉と共に姿を消した。


 突然消えた敵国の密偵、それに気づいたのは、一人の民衆であった。


「おい、居ないぞ! 逃げたぞ!」


 破裂音で放心状態になり、遠くを見つめていた台上の兵士。民衆の声で我に返り、横に居るはずであろう密偵を見る。しかし、そこに密偵は居なかった。


「さがせー! まだ、近くに居るはずだ!」


 兵士の声が、広場に響き渡る。それと同時に、民衆の不安の声が、所々で起こると。それは、次第に大きくなり騒がしい広場となった。


 そこに動き回る兵士たちと、騒がしい民衆を尻目に、冷静に状況を見ている男女が居た。二人は周囲の民衆より、背が少し高かった。特に女性の方は、周囲の女性陣より明らかに身長が高く異彩を放っていた。その女性は側の男性の方を向くと、彼に話しかけた。


「ねえヴィタリー。今のはテレポーテーションよね、突然変異種かしら?」


 女性の問いかけに、ヴィタリーと呼ばれた男性は黙ったまま中央の台座をまだ見ていた。彼は腕を振るわせ、拳を力強く握りしめていた。


「ヴィタリー? どうしたの?」

「アレーシャは、感じなかったのか? 奴の異様な雰囲気を…」

「…そうね。特に何も、感じなかったけど?」


 アレーシャと呼ばれた女性は、改めて中央の台座の付近を見た。台座では兵士のトップと見られる人物が、台座の上で各兵士たちに指示を出していたり。集まった民衆たちに、声をかけていた。


「これだから、科学者は・・・ 緊張感がないな。奴を見た時、俺の背中の鱗がざわついた。あれは… ヤバい奴だ。俺の戦闘本能がそう言ってる」

「へー… そうなんだ。言っとくけど、争いに来ているんじゃないから、事を起こさないでよね?」

「分かってるよ! それより、爆発地点を調べようぜ?」


 ヴィタリーは振り返ると、爆発地点と思われる場所めがけて歩き始めた。彼の身長は180cm位だろう、周辺の街の住人男性より10cmほど高い。筋肉質で大きい胸囲で、上着が肌に張り付いていた。長い脚は、大股でゆっくりとした歩調で歩いていた。鋭い目つきで、すれ違った町民を見ると目を逸らされる、そんな感じの目つきだった。


 ヴィタリーが歩き始めると、それを追うようにアレーシャが歩き始めた。彼女はヴィタリーより身長が少し低くて、町民が着ている女性向けの服を着ている。ただ髪は長いが、身長が高いせいなのか、それとも女性らしい体形をしていないのか、周囲の女性町民たちより目立っていた。


 アレーシャは爆発地点にたどり着くと、腰を落とし窪んだ爆発地点を調べ始めた。


「おい… 見えてるぞ?」

「あら、私の太ももに興奮しているの?」

「ちげーよ。スカートの中の銃が、見えてるんだよ!」

「あら… 失礼」


 アレーシャは、スカートの裾を引っ張り。太ももに装着している、銃を見ない様に隠した。右ひざを地面に着き、右手で爆発地点の窪みを、手で触り感触を確かめ始めた。


「これは・・・ ありえないわね」

「ありえないとは?」


 アレーシャは、膝の土を払いながら立ち上がる。地面の爆発痕跡を見ながら話し始めた。


「この爆発の痕跡だけど、燃焼反応が起きた形跡が無いのよ」

「つまり?」


「つまり、窒素爆弾の痕跡ね」

「と、言う事は?」


 ヴィタリーの言葉にアレーシャは、溜息交じりに腕を組んだ。そして、眉間にしわを寄せながら、呆れた態度をとった。


「まったく… 貴方も、少しは考えてくれる?」

「考えてるよ! 窒素系って高度な科学力がないと、作る事が出来ない。だったよな?」

「そうよ。つまり彼は、この惑星の住人じゃない… と言う事よ。調べる必要がありそうね」とアレーシャは言うと、街の入り口に向かう道に向かって、歩き始めた。


「なるほど… 久しぶりに、俺の出番がきた。と言う訳だな」


 ヴィタリーはアレーシャを追うように、歩き出す。そして二人は、爆発の痕跡から離れ、中央広場から去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る