10話 大きな足音は街へ向かう

 近くに小川が流れる一角、腹を押さえ地面にうずくまり、額を地面に着けているガフが居た。彼の意識は徐々に戻りつつあり、その耳から流れる水の音が聞こえてきた。その音は、やがて大きくなっていく・・・


「ぐはぁー! てめぇー、何しやがる!」


 ガフは、目覚めると同時に置き上がった。自分をこのような状態にした相手に、文句を言を言おうと大声を張り上げたが、そこには誰も居なかった。


「いねえ…おぃクレハ? おーい! どこだー?」


 彼は更に「クレハー!」と、大声で辺りを周りながら何度も呼びかけたが、水の流れる音のみ聞こえてくる。この時点で彼は、置いて行かれている事に気が付いた。彼は、肩を震わせ拳を作る、それを胸前まであげた。「はあぁぁぁ」と言う掛け声とともに、全身に力を入れる。すると彼の体は、うっすらと白い光に包まれた。


「待ってろよー、許さんからなー!」


 力強く最初の一足を踏み込むと、勢いよく飛び出した。その走りは、砂煙を巻き上げ、地面に窪んだ足跡を残していた。そして、その大きな地面をける音は、街に向かって行くのであった。


 ……

 …


 領主邸の庭にてレッグは、初めて立ち上がった赤子のように、両足を震わせながら立ち上がっていた。その隣は、クレハが彼の体を心配そうに支えていた。


「久しぶりだな…この感覚は…」

「レッグ、無理はするな。少しずつ感覚を戻していこう」


 レッグとクレハは、お互いに歩調を合わせ少しずつその歩みを速めていった。その近くには、瑠偉とララが居た。レッグは瑠偉を見ると、笑顔で微笑み恋人を見つめるような視線を彼女に送った。


「お嬢様、随分気に入られたようですね。一生ここに住みますか?」

「タイプじゃないですね。その前に、私は地球に帰ります。絶対に!」


 瑠偉とララが会話していると、レッグは瑠偉に向けて手を振る。瑠偉は愛想笑いをして、ゆっくりと手を上げ答えて見せた。その姿を見て、レッグは嬉しそうな笑顔を見せた。


「男性経験の無い、お嬢様では分からないと思いますが。思わせぶりな態度を見せていると、相手に勘違いされてしますよ?」

「そう言うララさんは、分かるんですか? ロボットなのに・・・」

「分かりますよ。ちなみに私とマスターは、愛と言う強い絆で結ばれました」

「あい? 強い絆? ロボットがどうやって?」

「お嬢様。私とマスターは、穴兄弟となりました」

「え? あ…な・・・きょう…だぃ・・・って?」

「チェリーなお嬢様には、難しい言葉でした」

「チェリーって、サクランボですよね? 他に何の意味が?」


 おぼつかない足取りで歩き回るレッグから視線を外し、瑠偉はララの方を見ていた。ララが発言を終えると、ララは瑠偉を見た。そして「下ネタです」と瑠偉に言った。その時点で、何かを察したのか、瑠偉の顔が少し赤みを帯びる。そして、素早くララから視線を外した。


「お嬢様、詳細を聞きたいですか?」

「遠慮します、察しました。ったく…何やってるの麻衣は…」

「ちなみに行為を行ったのは、この機体ではありません」

「やめてください。聞きたくないです!」

「そうですか・・・。時にお嬢様、地球人の初体験データを取りたいので、もし行為を行う時は、是非お申しでください」

「お断りします。ほっといてください」

「残念です。いえ、報酬は払いますが?」

「お金程度では、私の心は動きませんよ!」

「2000万円でどうでしょう?」

「っな! にぃ…せん・・・まん?」


 驚きの表情で、ララの方を振り返る瑠偉「えっ・・・いや」と言うと、顔を正面のレッグに向けた。正面のレッグはまだクレハに支えられて、歩き回っている。瑠偉は目を閉じ腕を組む「・・・まだ、相手もいないし。いや、そーじゃなくて…」と小さな声でつぶやく。


「ならば、5000万でどうでしょう?」


 ララは腰を曲げ、その顔を瑠偉の正面に繰り出した。5000万と言う言葉を聞いて、瑠偉は目を開ける。と、そこにララの顔があった。彼女は、顔を引きつかせながらララから、その視線をゆっくり外すし「お…おか…ねの問題じゃ・・・ないん・・・だ…け…ど」と小声で言った。しかし、その表情は、かなり動揺している感じであった。


「で、でも…そのお金。兼次は知ってるんですか? 後から、問題とか・・・」

「問題ありません。財務関係は、私にすべて一任されております。それに5000万円程度は、リュボフ国の資産額からすれば些細な額です」


 瑠偉はララの言葉を聞いて「お金の問題じゃ…お金の問題じゃ…」と小さな声で繰り返している。ララはそんな彼女を見て、曲げていた腰を戻し再び直立不動の姿勢に戻った。


「お嬢様、地球に戻ったら後日また聞きます。考えておいてください」


 瑠偉は「私の意志は、変わりませんよ・・・」と、小さな声で言ったが、明らかに悩んでいる表情だった。最後に「でも…ごせ…かぁ~・・ん~」とさらに小さい声で、つぶやいた。


 そんな会話をしている時。遠方から、規則的に地面を叩いている様な音がした。その音は、こちらに向かっている様で、少しづつ大きくなっている。さらに「おおおおおおぉぉ!」と遠方から怒涛の叫び声が、領主邸の庭に響き渡った。レッグとクレハも、それに気づきレッグは歩行するのをやめて、声のする方をに気かけた。

 瑠偉達も、その声のする方を向き。その様子をうかがっていた。


「意外と戻りが早かったですね。ザコのくせに・・・」

「ララさん。私が寝ている間に、彼と何かあったんですか?」

「何もありません。と言うか、今日が初対面です」

「初対面…ははっ…ぜったい・・・・に、煽り無しでお願いしますね? ややこしくなるから…」


 領主邸の門が勢いよく開き、開いた門が壁に当たり激しい金属音が鳴り響いた。扉はその慣性で閉じようする。しかし、その門を両手で押さえ再び門は開いた。そして、ガフが姿を現した。ガフは、そのまま庭を通り過ぎ、玄関の扉に向か会おうとする。しかし、領主邸の庭にララの姿を見て、その歩みをララの方に向けた。


「おおおいぃー! きっさまぁー、何の真似だぁー!」


 ガフは力強く。その歩みで地面にくっきりと。その足跡を残しながら、ガフはララに向かって行った。腕を曲げて拳を握り力を入れている、その腕には血管が浮かび上がっていた。その腕は、歩みと共に激しく前後に振られている。そして、ララの前で止まり荒い鼻息と共に、睨み始めた。その隣の瑠偉は、その彼から圧力で自然に彼との距離を取るのであった。


「ザコさん、随分と早い到着です。感心しました」

「だっから、ザコじゃねー! いいだろう、歯を食いしばれぇー!」


 右足を前に出し、腰を低くし力強く踏ん張るガフ。拳を作った右手を、高々に上げた。それを見ていた瑠偉は、両手で口を押え驚いている。しかし、ララは避ける様子もなく、ガフの右腕を見上げていた。


「よせ! 止まれガフ!」


 瑠偉体の後方から、強く張り上げた声が響き渡った。止まれの言葉で、動かなくなったガフは声のした方を向くと。そこにはクレハに支えられ、立ち上がっているレッグの姿が飛び込んできた。その姿を見て、ガフの全身の力は抜ける。そして、ゆっくりとレッグの方に近づいていった。


「おおぉ・・・・レッグ」

「よお! ガフ、腹痛はもういいのか? それに彼女達は恩人だ、何があったかは知らないが許してやれ」


 ガフはレッグの前まで来ると、膝を地面に着けて座り込んだ。そしてレッグの足を、その手でつかむ。ガフは涙目で、レッグを見上げた。


「本当に治ったのか? 歩けるのか?」

「ああ、治ったぞ。今は歩く感覚を、取り戻しているところだ」


 ガフはレッグの両肩につかみ、よかった、よかったと連呼している。

 そんな彼らを瑠偉達は、遠目で見守っていた。


「シミュレーション通りでした。完璧です、自画自賛です」


 ララは何時もの無表情で言い放った。そんな言葉を聞いて瑠偉は、振り返りララを見た。


「本当なの? 嘘ですよね? 偶然ですよね?」

「本当ですよ。シナリオパターンAの結果通りとなりました」


 ララは瑠偉に近づくと、右手で彼女の髪を触る。数回その髪を梳くのを繰り返した。


「現在は、夜巳様の予知能力解析を行っています。解析できれば銀河系最強から、全宇宙最強の座を得る事が出来るでしょう」

「えぇ…予知? 人類の管理とか支配とか、企んでいるんですか?」

「大丈夫です、某映画の様にはなりません。マスターが地球に飽きない限り…」


 瑠偉はレッグ達を見つめているララを、悩ましい表情で見上げていた。その時ララの口元が動き、かすかに笑っている表情が見えた気がした。目を擦り、もう一度ララを見る瑠璃。そこには、何時もの無表情のララの姿があった。

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