4話 錬気の使い手
━━━錬気(れんき)
この惑星では、恒星から放たれる有害な放射線、紫外線にさらされている。しかしこの惑星の住人は、その有害なエネルギーを蓄える器官を有している。その蓄えられたエネルギーを利用し、身体能力は地球人の3~6倍程度の身体能力がある。また、その力をうまく制御することで、更なる能力上昇効果を得る事が出来る。この惑星の住人は、これを錬気と呼んでいる。
また、その力をうまく活用する事により、
……
…
食堂兼酒場の一角にて、筋肉自慢の大男と(自称)天の川銀河最強のAIララが作成したロボットが、丸テーブル越しに対面している。大男は椅子に座り、テーブルに右手を出し肘を付けている。さらに指先を動かしララを招いている。
「言っておくが、俺は見た目だけじゃないぞ! 錬気の操作… 俺のかなう者は、この街には居ない!」
大男のその言葉と言うと、周りにいた客たちが、この騒動に気づき始めた。そして一人、また一人とその場所に集まってきた。しばらくすると、ほぼ全員がこの丸テーブル付近に集まって、辺りは騒然としている。そこにカウンターにいた酒場のマスターが、その輪に入ってきた。
「ガフ… そろそろ新人に絡むのは、辞めてもらえないかな?」
「マスター、俺は… 俺は、この街のハンターには死んでほしくないんだよ。だからこそ、俺が力を見極める!」
「聞こえはいいが、楽しんでいるように見えるが? まぁいい」と、マスターは溜息と共にララの方を向いた「で… お嬢さんはどうする? 一応、このガフは口だけじゃなく、本当に強いよ」と言ってマスターは、ララの顔色を伺う。が、ララの顔は一切変化がなかった。
「先ほども言ったように、雑魚では私には勝てません」
「お嬢さんも、強情だな・・・まぁ、負けても仕事の依頼は、受けられるからな」
「お気遣い感謝です。しかし、私は負けません」
ララはテーブルにある椅子を引くと、その椅子に腰かけガフと対峙した。そして右手を伸ばしテーブルに肘をつく。すると『ガツン』と言う、重く固い物が当たった様な感じの音が、テーブルから聞こえた。しかし、騒がしい店内のせいか、その音に気づく者は居なかった。
ガフは「逃げないとは、度胸だけは買ってやる」と言うと、上半身を前に出しララの手を取り、腕相撲の状態に入った。しかし、ララの手の異常な冷たさを感じ取り、驚きの表情と共にララを見つめた。
「おめーの手… 冷たいな… 何かの病気か?」
「気遣い無用です。始めましょうか」
「では、開始の合図をしようか」とマスターは言うと、2人に近づき両手を組みあった二人の手に乗せた「準備はいいか?」
「いいぜマスターよ」
「どうぞ」
「始めー!!」とマスターは声を張り上げると共に、素早く手を放しテーブルから遠ざかった。その掛け声と同時に「うおぉぉぉぉ!」とガフが、腕に力を入れ唸りを上げる。そんなガフの状態とは裏腹に、ララの表情は何一つ変わっていない。そんな両者の組み合った手は、始まりの状態から変わっていない。
「ば、馬鹿な… 動かねーだとーおおおーー」
「やはり、雑魚でしたか・・・」
「うぐぅ・・・いいだろう、本気でやってやる!」
「はあぁー!」とガフは勢いよく息を吐く。すると全身の血管が少し浮き出てきた、さらに微弱な淡い光がガフの全身を覆った。「ふふふ、全力だぁー! はあぁぁぁぁ!」とガフは、腕に渾身の力と錬気を込め、ララの腕を倒しにいった。
しかし、ララの腕は動かなかった。そしてララの表情も、始めのころと変わっていない。ロボットであるから当然であるが・・・
「なかなか強い力ですね‥‥生身の人間にしては上出来です。少しだけ見直しましたよ」
「あ…り…え…ねー、マジかよ」
「では、今度は私の番ですね」とララは言うと、ゆっくりと
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
ガフの叫び声と共に、何かが折れる音がした。ガフは椅子を倒し床に転がると、その大きな体を左右に転がしている。左手で右手を押さえ、苦悶の表情をしている。そんなガフの右腕は、肘と手首の中間の位置で、曲がっていた。周囲に居た客たちは、ある者は口に手を当て驚き、ある者は「大丈夫かー」とガフに駆け寄っている。
事の一部始終を見ていいた瑠偉は「あぁ… ラ…ララさん。倒す方向違いますぅー」と言いながら、ララに近づいていった。ララは椅子から立ち上がり、振り返って瑠偉を見た。
「地球の情報では、折れたら負け。と言う事が載ってましたが?」
「なんの情報なの?」
「漫画・・・と言うものですね」
「ははは・・・その情報違います。まさかと思いますが、さっきの煽りも?」
「もし絡まれたら、そう言えと。出発前の夜に、麻衣様から聞きました」
「なっ! まいぃぃぃぃ、覚えてなさいよぉ! と…とりあえず、この状況を・・・」
「わかりました」
ララは振り返ると、ガフの近くまで歩いていった。そしてガフに群がる客たちに「失礼します」と押しのけガフの側で座った。
「てめぇ、何しやがる正気かよ!」と、ガフは苦悶の表情で声を絞り出した。その声に力はなく、とても小さな声だった。「治します、手を・・・」とララは言うと、ガフの右手を取る。そして曲がった部分を持ち、その腕をまっすぐに伸ばした。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
ガフは再び渾身の叫び声をあげると、そのまま意識を失い力なく床に倒れた。
「お嬢様、出番です! 癒しの力を」
「えぇー・・・見せていいの?」
「大丈夫です。この世界では常識です」
「わかりました」
瑠偉は、この気まずい状況から早く抜け出したい思いから、正常な判断ができないでいた。この世界の錬気では、軽度な傷は直せる。しかし、骨折は直せるの者はいないと言う事実があった。過去には居たらしいが・・・
瑠偉は、そんな事も知らずガフの右腕を直すために、ガスの前に進んでいった。彼女は床に膝を下し、右手をガフの折れている部分に軽く当てた。そして、小さく息を吐くと、右手が青色の光に包まれた。その光の出現と共に、騒然としていた店内は一斉に静まり返った。
「ふー、これで治ったはずですが。でも骨折は直したことが無いので、分からないけど」
「X線で確認します」とララは言うと、その目はガフの右腕を丹念に見ている。「上出来です。直ってますよ、さすがお嬢様です」とララは、瑠偉の脇を抱え一緒に立ち上がった。そしてマスターの方を見た。
「マスター。仕事の斡旋の続きをお願いします。ガフさんの腕は治しましたので、後は目が覚めるのを待つだけです」
「あ、ああ・・・治したのか?」
「はい、治ってます」
「そうなのか・・・・な、ならそこの掲示板から、受けたい依頼を取ってカウンターに来てくれ」
ララは歩いて掲示板に行いった。その後ろには、ララの服をつかんだ瑠偉が歩いている。瑠偉は静まり返った店内を見渡すと、なにやら自分を見ている視線が多い気がした。ララは、そんな瑠偉を見向きもせず、掲示板から1枚の紙を抜き取るとカウンターに向かって歩いていった。「これで」とララは、マスターに紙を渡した。
「なら、ここに名前と特技を書いてくれ」
「わかりました」
ララはマスターから渡された名簿に、2人分記入した。マスターから依頼の紙を受け取ると、振り返り店の出口に向かって歩いていった。
そんなやり取りの間も、店の中は静まり返っていた。そして店にいる人達は、出口に向かっている2人を目で追っている。
「ララさん・・・店の雰囲気がおかしいけど? 大丈夫なの?」と瑠偉は、前を歩いているララに聞こえる程度の声量で言った。
「大丈夫です。何も起きませんよ」
「また・・・その言葉。と言うか、さっき事件起きましたよね?」
「想定内です。問題ありません」
「ええええぇぇー」
店内人達の強烈な視線を感じながら、瑠偉とララは酒場を後にした。
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