12話 やっかいな集団
ファルキア亭の一階、受付カウンターの奥にある食事エリアで俺と麻衣、ララは丸テーブルを囲い食事をしながら、ララの話を聞いている。
……
…
宗教団体 フォティマ教団
その宗教は、惑星間移動の技術を持っている超高度な文明を有する知的生命体に、信仰が広がっている。存在しない神を信仰の対象にしているのではなく、生態系の頂点に君臨するガイルアを神として崇めている宗教団体である。数百の惑星にまたがり信者がおり、その数は数千億人規模であると共に、天の川銀河唯一の宗教団体である。
彼らは、宇宙はガイルアの支配下であると言う信念を元に行動をしている。惑星間移動技術を得た文明を監視し、他の惑星への侵略を許さない。しようものなら、実力行使で止めに入る。場合によっては、その惑星の生命を滅ぼすこともやるそうだ。
さらに教団は、生命の誕生した惑星を見つけると、彼らの前に降り立つそうだ。その惑星をガイルアへの生贄にするために、その惑星の文明を育む。ある程度文明が育ってくると『君たち人類は、いずれ滅亡する』と言う予言を残し去っていく。
「・・・と、これが私の知っている情報です。詳細な内部情報や行動は、私にも把握しきれておりません。それに人工生命体は教団に入る事が出来ませんので、調査もできません。したがって、我々地球人が他の惑星に居る。そんな事態が、彼らに知れたら何が起こるか分かりません。
現在私の調査用ナノマシンは、安全のために機能を停止させ廃棄しました。ご主人様も、強い力の放出は控えてください、何が起こるか予測できません。
ただし、ご主人様が『教団を排除する』と言われれば、私は止めません。その場合は相手の数が膨大の上、広範囲に広がっていますので、かなり面倒で長い戦いになるはずです。面倒なことは、関わらないのが上策です」
「確かに、数千億も相手にするのは、得策じゃないな。ところで、彼らはガイルアの反応をとらえられるのか? それに俺がこの惑星に居ても大丈夫なのか?」
「彼らもガイルアの反応を、検知することは可能です。今のご主人様は、ガイルアの反応がありませんので、大丈夫かと思います。ワームホールの作成で、力を使ったのが幸いでした」
「なるほど、運がよかったな。と言う事は、これからは力を隠しつつ行動するしかないのか」
「あの~、これって・・・なんか嫌な予感がする」と、食事を食べ終えた麻衣が、水の入ったコップを両手で抱えながら話しに割り込んできた。
「嫌な予感とは?」
「前回こういう話を聞いた後に、地球に戻ったら攻撃受けてたよね? だから今回も盛大に、フラグが立ったような気がする」
たしかに、そうだな前回は、テナにガイルアの話を聞いた。そして地球に戻ったら、それがいた。しかし、今回は前回とは決定的に状況が違う。
「だか、今回は違うぞ! ここ居るララは、あくまで端末だ。本体は地球の、浮遊島最深部にある。よって、地球の状態は何時でも確認できる。それに俺の指示で最先端科学技術の、強力な防衛網を敷いている。問題ない、なっララ?」
「はい、問題ありません。すべて大気圏外で駆除いたします」
「俺の指示って・・・ぷっ」
「なんだよ麻衣?」
「ララちゃんに、全部丸投げしてたくせに」
たしかに、ララに『任せる』と言ったな・・・まぁ、いい。
「では、今後の予定について言っておこう」
「うわぁー。都合が悪くなると、すぐ話を逸らすんだから」
麻衣の嫌な視線を感じたが、そんなものは無視しこのまま押し切ることにしよう。
「先程店主に聞いたのだが、隣町行きの馬車が明朝出発する。それに乗って行く」
「テレポートとか、飛んでいくんじゃないの?」
「麻衣、さっきの話聞いてなかったのか? 俺の力に制限がある、それに時間を掛ける旅だ。あるかもしれないだろう? 運命と言う名の出会いがな!」
「へー運命とか言う妄想を信じるんだ・・・ちょっと引くわー」
「麻衣・・・お前がそれを言うな!」
今後の予定は・・・
まず瑠偉は、この宿屋に放置し旅が終わったら、迎えに来て一緒に地球に帰る。彼女にはララを護衛に付けることにする。学生の社会勉強と言う建前で、働きながら生活してもらおう。4日分の費用は払っているので、その間に宿泊費ぐらいは稼げるだろう。
そして俺と麻衣は、明朝に馬車で隣町まで移動する。俺の力は使用に制限があるので、なにか問題が起こった場合は、麻衣に対応してもらう。厳しい局面になった時だけ、俺が処理する。目的地は国境の街だ、運命の出会いを期待しつつ、すべて馬車で移動する。
「では部屋に戻るか、色街ないしな!」
「ご主人様。ナノマシンが使用できませんので、私は街の情報収集をしてきます」
「ああ、任せる。部屋に鍵をしておけば、瑠偉一人でも問題ないだろう。行くぞ、麻衣!」
俺は立ち上がりテーブルを後にし、カンターの前を通ると。カンターには店主が暇そうに、呆然としていた。楽しくないのか、頭に乗っている耳が前に倒れている。俺の後ろを歩いている麻衣が、店主に向かって手を振ったようだが、店主は麻衣の手を見ていたが反応がない。耳はおろか尻尾すらもピクリとしない。
階段をのぼり店主に聞こえない位置に来てから、麻衣が話かけてきた。
「やっぱり猫ってマイペースだよね、地球の猫と変わらないね?」
「そうだな。と言うか、あいつはだけの問題であってほしいな」
階段を上り終え、2階に到着する。廊下を渡った奥から2つ目の部屋り入る。そこには簡素なベッドと、小さな机に椅子が2脚、とても簡素な部屋だった。
「はー、久しぶりに一人で寝れるわー」と麻衣は言いながら、部屋の入口の近くのベッドに腹這いに飛び込んだ。そしてスマホを取り出し、操作を始めた。「さーて、スタミナを消耗させておかないとねー」そのまま麻衣は、スマホゲームを始めた。
「ダブルベッドじゃないのか? 店主の奴め、気を利かせろよ」
「たまにはいいでしょ、一人で寝るのも。夜巳ちゃんの夜這いがないから、ゆっくり寝れるわよ?」
そうだな、最近は夜巳やらララの生体ロボが、知らぬ間にベッドに侵入してくる。たまには一人で寝るのもありだな。その時、俺のスマホから某SNSの受信音が鳴った。ベッドに横になり、スマホを取り出して内容を確認した。
◆ララちゃん:やはり、生体ロボットで来た方がよかったのでは?⏎
夜も楽しめますよ? ⏎
◆俺:盗聴すな! ⏎
◆ララちゃん:残念ですが量子通信は、私の本体を経由してます。⏎
したがって、自然に内容が入ってきます。ご理解をお願いします。⏎
◆俺:会話の盗聴の話だぞ?⏎
◆ララちゃん:ご主人様のスマホも、私の分身体のひとつです。⏎
ですので、ごく自然に内容が聞こえます。極秘にしてますので、問題ありません。⏎
◆俺:俺のプライバシーは?⏎
◆ララちゃん:今までに、何か問題でもありましたか?⏎
◆俺:ないな⏎
◆ララちゃん:では、今まで通りで問題無いですね。⏎
「くっそ、負けた!」
「な、なに兼次ちゃん、ゲームなの? 珍しいね、対戦する?」
俺がスマホで忙しく操作しているのを見て言ってきた。負けたのはゲームでは無く、言い争いに負けたのだが…
「いいだろう麻衣、俺の強さを思い知るがいい!」
では、ララに頼んでズルするか。
◆俺:聞いていただろう? フルチートで頼む。⏎
◆ララちゃん:了解しました。⏎
俺はそのまま横になりながら、ララのフルサポートでゲームを始めた。
……
…
翌朝、部屋の窓から差し込む光で目が覚めた。うつぶせ状態で、右手にスマホを握っている。どうやら途中で眠ってしまったようだ。これが寝オチと言うやつか・・・
横のベッドを見ると、麻衣はすでに起きていた。ベッドの端に腰かけ、手で髪を整えている。
「おはよ? 寝オチしてたくせに、スマホ動いてたけど?」
「そうか? 起きてたぞ」
「えー、話しかけても返事なかったよ? しかも異常に強かったし」
「飯行こうぜ、麻衣」と言いながら、俺は部屋から出て行った。直ぐに話題を変えた俺に麻衣も、不満を言いながら俺の後に続いて部屋から出た。
……
…
それから朝食を終え、部屋に戻ってくると。鍵をかけたはずなのに、中に人がいた。茶色の長い髪に、ファルキアが着ていたような、ワンピース風の簡素な服を着ている。
「おはようございます、マスター」
「なんだララか・・・服替えたのか?」
「はい、現地の人間を参考に変更しました」
「で、マスターとは?」
「ご主人様と言うのは、メイド服仕様の時のみです」
「なに、その妙なこだわりは?」
「仕様です」
なんかサポートセンターにクレームを言った時、返される『仕様です』に感じが似ている。これ以上のクレームは受け付けません! と言った感じだな・・・
「で、用件は?」
「出発する前に、城島様の睡眠を解いてください」
「そうだったな、やっておこう」
隣の部屋で寝ている瑠偉の睡眠を解く。持っていく荷物も、特にないので俺達はそのまま部屋から出ることにする。
「では、後は頼んだぞララ。あと、食事は早めにって店主が言ってたぞ」
「了解しました。行ってらしゃいませ、マスター」
俺と麻衣は1階に降り、カウンターにいる不愛想猫にカギを返し、宿屋を後にした。
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