二話 ある事件の顛末
遅くなりましたごめんなさい。
◇2019年 10月20日 土曜日
「だから帰えってください」
「酷いなあ。娘を無くしたばかりの父親にそんな事言うなんて」
玄関先で優斗と雲宮悟が話していた。
「いや全くとは言わないけど、そこまで悲しんでないように見えますが。どちらかというと後継者が居なくなって困っているのかな。まあ魔術師ならそういう人は珍しくないでしょうけど」
「……仮にそうだとしても、娘を殺した人物に会わせてくれてもいいと思うけど? もし君の思っている通りなら怒りにまかせて危害を加える様な事はしない筈だ」
「いやそもそも氷華は今人に会える状態じゃないし。あと琴音が死んだのは元を正せば貴方のせいでしょう」
「は?」
優斗は毅然とした態度で悟に告げる。
「どう見ても雲宮は魔術師に向いていなかった。そもそも普通に育った人間はよっぽどの何かが無い限りそうだろうけど。それなのに貴方は後継者が欲しいという理由で本人の意思を無視して魔術を学ばせたのでしょう? その結果ああなった訳です。まあ魔術師には子供を後継者としか思わない人も多いけど」
京都市が壊滅したのは悟のせいとまではいわないが、その実行者が琴音になった責任の一端は彼に有るだろう。
「そんなつもりはない!! ……いや、僕が悪いのはその通りだな。僕は魔術師の世界しか知らないからね。魔術師として生きる事が本人の幸せになると勘違いしていた。けど、違ったんだな」
悟は悔恨の表情を浮かべて続ける。
「琴音にとっては世界屈指、それも同年代の魔術師に師事できるし、氷華ちゃんにとっても明るい性格の友人が出来ればいい気晴らしになると思ったんだけどな……」
「……見事に裏目に出たんですね。まあ、氷華にとって雲宮が救いになっていたのは事実だけど」
「そうか……で、合わせて欲しいんだけど? 事件の経緯について詳しく聞きたいんだけど」
「いやだから本当に人に会える状態じゃないんですって。これは相手が誰だろうが変わりません。別に貴方に原因が有るから言っている訳では無いです」
心身喪失状態の氷華と合わせても仕方が無いだろう。
「ああそうなの……」
「とりあえず話なら僕がします」
◇◇◇
「なるほど、京都市は壊滅ですか。まあ見た目通りでしたけど」
「ああ、生存者はほぼ0、直接攻撃を受けた訳ではない魔術師が生き残っているだけだね」
「まあ直接攻撃されれば並の魔術師なら死ぬぐらいの威力は有りましたからね。というか氷華が受けている呪詛を取り込むという異常事態が起きてその程度の事が出来なかったら問題でしょう」
雨木家が自分たちの命運をかけて開発した礼装が弱かったら流石に虚しいし、3種の神器のレプリカがその程度の性能しか持たない筈がない。
「それもそうだね。結局氷華ちゃんが大量の呪詛を受けていた事が被害が拡大した原因なのかな?」
「まあそれが無ければ問題なく対処出来たでしょうね。あ、だからと言って氷華に責任を負わせるつもりならそういう人は全員斬りますのでそのつもりで」
優斗は殺気を込めて告げる。今回に関しては雨木家の連中が一番悪いが、優斗はそれが理由で言っているのではない。例え氷華が完全に悪い事件が起きたとしても優斗は同じことを言うだろう。
今の彼にとっては霧崎氷華を幸せにする事が価値観の全てなのだ。そんな事をして責任が無い事まで背負おうとする氷華の精神が耐えられるかは別だが。
「……分かったよ。ところでそうすると雨木家が完全に悪い事になるんだけど……直系で生きているの君だけなんだよね」
「今時連座は流行りませんよ。そもそも僕は勘当されているので関係無いですし」
正直自分がどうなろうがさほど興味はないが、今自由を奪われる訳には行かない。
「まあ君達が責任を負うような事態になる可能性は低そうだけどね。ぶっちゃけ責任を取るべき人間はほぼほぼ死んでいるからね。まあ強いて言えば娘がやらかしたせいで僕の立場が悪くなりそうだけど」
「だから今時連座は流行りませんって。あー別に本気で罪を償わせたいとかじゃなくて、権力争いの一環だから正当性はどうでも良いのか」
氷華や優斗に何も無いのは、彼らに特殊な権力や地位が有る訳ではないという事も有るのだろう。
「じゃあこの辺で」
「ええ」
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